#2 冒険者になりました



「あー、種族は見習い天使ですね」




[カレン::たしかに気になる]

[ぽんちゃん::鳥?]

[蜂蜜穏健派下っ端::天使!?]

[芋けんぴ::あらかわいい]

[佐賀::見習い←ここ重要]

[手::初めて見た]

[漆黒の疾風の失敬した叱咤::運よすぎやんけ!]

[あ::羽ちょこんってしててすこ]




 若干ラグがある。ワンテンポ置いてから見るのがベストのようだ。


 軽く自己紹介の続きをしながら案内してもらっている。これがちまたで噂の姫プか。楽極まりない。



 大通りに出れた。市場のような場所で、人で賑わっている。羽は目立つからしまいたいなー。


 あれ? 羽の感覚が無くなった。背中を見てみると、跡形もなく消えていた。任意で消せるみたいだ。便利な羽。




[残飯::羽ェ……]

[ゴリッラ::消えるんかワレェ……]




 視界の端で流れるコメントでは残念がられているが、実用重視だから無視でいく。



 私と入れ替わりで路地裏に走って行く人がいた。すれ違った時に、何かの包みを落としていった。



「あ、あの!」



 急いで拾って追いかけるも、影も形も無い。入り組んでいるから分かれ道を覗いてみるけど、やはり居ない。



「交番ありますかね……?」




[燻製肉::ない]

[ヲタクの友::世界観がちゃうね]

[壁::無いよー]

[マヨラー志望者::マヨを…マヨを…]

[死体蹴りされたい::やさしいねぇ]

[スクープ::中身は何ですか?]

[ハッカ油::何かのクエスト?]

[芋けんぴ::それこそ冒険者ギルドに届けたら?]




 いっぺんに対応するのは中々大変。順番に、


「流石に人の物を漁るのは良くないからやめときます」



 無くさないようにストレージにしまう。ストレージは大容量の実体のないカバンだと思ってる。無限に入るわけじゃないし。こまめに整理していくつもりだ。



「クエストとかは、このゲーム無いらしいです。まだ確認されていないだけかもしれませんが」



 まだゲームを入手していない視聴者もいるし、時々補足が必要っぽい。



「無難に冒険者ギルドで預けますか」




[あ::スクープ氏!?]

[カレン::本物?]

[佐賀::デタワネ]

[階段::いいね]

[ぽんちゃん::記者さんやん]

[残飯::良い子すぎ、普通パクるのに]

[蜂蜜過激派切り込み隊長::ギルドは向かって右やで]




 道案内に従いつつ、気になるワードが出ているので触れてみる。



「有名な方ですか?」




[天変地異::言わば先輩]

[お神::ゲーム泣いの新文描いてるやつ]

[燻製肉::どこにでも湧く]

[メロンストーブ::配信の先駆者的なやつ]

[はっかいどー::有名人]

[スクープ::そんなことありませんよ。一介の記者です]

[ペケペー::初心者向けの動画も撮ってる]

[みかん::ゴキブリみたいに湧くから気をつけて!]




 好き勝手言われてるようだけど、いい人そうだ。お神さんが誤字だらけなのは、どういう環境で入力してるんだろう?


 まあ、いいや。



 動画に関しては見てないからなー。視覚的な情報は直接自分で見たいからね。


 視聴者数を一瞥すると、なんと驚きの5000人超。



「何でこんなところに5000人も??」



 素人のゲリラ初配信なんだけれども。これが黎明期のあれかな。いや、黎明期だったら見る人も少ないのかな?





[唐揚げ::配信するプレイヤー少ないから]

[あ::やっても一回きりとかだからもの珍しさもあると思う]

[非営利個人::PKとかを警戒したりして配信しない人ばっかりよ]

[カロリー::緊張とかしない?]

[ベス::コメントも自動翻訳、見る側も自国の字幕付きだからワールドワイドなんじゃね?]





 PK警戒による供給不足、世界中の人達が見れるからってことか。



「緊張はしませんね。人の顔が沢山ならしますけど、文字だけですし」



 学校で前で発表とかは嫌だったけど、このコメントだけなら全然大丈夫。顔って謎の圧があるからね。




[蜂蜜過激派切り込み隊長:¥7777:到着記念]




「あ、蜂蜜過激派切り込み隊長さん、ありがとうございます。おかげさまで着けました」



 投げ銭機能ONにしてたのを今思い出した。ハイパーチャットというらしい。


「失礼します」



 木製のドアをゆっくり開け、中を覗きながらコソコソ入る。


 ムキムキのおじさん達に、野性味溢れるイカしたお姉さん。何だかカッコイイ人達がいっぱい……と思ったら、隣接している酒場で酔いつぶれてるだらしない人達も。



「自由って感じですね」




[芋けんぴ:¥10000:迷子終了おめ]

[ゴリッラ:¥3000:酒場のカウンターでピースしてるのが俺、なんかあったら遠慮なく来な]

[愛してる:¥1000:こんな感じなのか]

[たけ::初見です]

[壁::コソコソ入っててかわいい]

[セナ::かわいい]

[階段::小並感で草]




「芋けんぴさん、ゴリッラさん、愛してるさん、ハイパーチャットありがとうございます」



 酒場のカウンターでピースしてるムキムキのおじさんが。あの人か。困ったら頼ろう。



「流石に町中で読むのもあれですし、以降のハイパーチャットはまとめて最後に読みますね」




[手羽先::はーい]

[枝豆::わかった]





 さて、正面の受付に行けばいいのかな? 人も並んでないし、行っちゃうかー。


 窓口に行き、呼び鈴を鳴らす。



「はい。今日はどういったご要件で?」


「落し物を届けに来たのと、冒険者登録をしに来ました」




 言いながらストレージから包みを取り出し、渡す。すると、受付嬢さんは、遠慮なく包みを開け、中身を見た。



「……こちら、どこで見つけたんですか?」


「路地裏に入っていく人が落としていきました。すぐ拾って渡そうとしたんですが、見失ってしまいましたが」


「場所はどこです?」



「今日来たばかりの異界人で、地理は分かりませんが、市場のような場所ですね」




 異界人はここの住人に伝わるプレイヤーの言い方。プレイヤーって言っても通じないらしい。



「候補が多いですね……」



 そりゃね。受付嬢さんが眉間に皺を寄せているが、何かまずいものでも入っていたのだろうか?



「何が入ってたんですか?」


「まだ見てないんですね」


「人の物ですし」



 意外とばかりに目を見開いている。ここはやっぱり治安が悪いのかもしれない。


 受付嬢さんがチョイチョイと手招きしている。耳をよせろということかな?



「何です?」


「麻薬です」



 oh……my……



 こっそり見せられたのは白い花。麻薬ではないが、原料なのかな?



「よく分かりましたね」


「最近麻薬の取引が行われているとの噂で、職員に注意喚起が来てるんですよ」




 なんだ。すぐ分かったから関与してるのかと思ったけど、勘違いだったみたい。とんだ失礼をしてしまった。気づかれてはいないけど。



「これはこちらで処理しておきます。冒険者登録の方を進めましょうか」


「よろしくお願いします」



 書類を出してくれる。意外とファンタジーではなく、ちゃんとした契約書みたいだ。



「規約を確認の上、必要事項を記入してください」



 識字率高めなのかな?



「文字は読める前提なんですね」


「異界人と言ってましたから。異界人の方は読めるので」



 なるほど。第四陣となると、流石に慣れてるか。



 視聴者向けに必要なとこだけ読み上げよう。




「冒険者のランクはFからA。例外としてSが稀に出る感じですね。ランクは依頼をこなす貢献度や、非常時の活躍で変動、試験で昇格できるようです」



 地道にコツコツ頑張ろー。



[カレン::たすかる]

[佐賀::説明感謝]

[あ::あっ]




「誰に話してるんですか?」


「え?」




 まさか、配信のカメラとか見えないの?



「このカメラ見えます?」


「?」



 見えないようだ。あまり配信しない理由の一つはこれでしょ。おちおち話せないからやめてる人結構居そう。


 便利だし続けるけど、人が近くに居る時はやめとこ。




[ミラクル::プレイヤーにしか見えんよ]

[芋けんぴ::状況的にまずくない?]

[燻製肉::これは恥ずい]

[テキーラがぶ飲み::初見です こんにちは]



 プレイヤーの前ならセーフね。覚えとかないと。


「あの……」


「はい?」


 丁度書き終わったところだけど、どうしたんだろ?


「奥で調べてもいいですか?」


「え?」


「幻視の症状かなーって……」



 タイミングわっる!



「…………はい」


 ここで逃げる訳にもいかないし、大人しく従おう。




[スクープ:¥50000:逮捕お疲れ様です]

[ゴリッラ:¥3000:頑張れ]

[壁:¥1000:ドンマイ!]

[唐揚げ::初日逮捕は草]

[非営利個人::草]

[ベス::あーあ]

[芋けんぴ:¥10000:初犯記念]

[乙女::乙]





 まだ捕まってないし、冤罪〜!!





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る