【Alternative World Online】翠の天使、VR世界で徘徊中【ミドリ】

弍射 都

第1章 『王国内乱』

#1 【AWO】初配信です、どうぞよしなに【ミドリ】



 ――視界が渦のようにグルグルしてる。

 めちゃくちゃ酔いそうだ。

 一体なぜそういう状況になっているかというと、説明が長くなるが……長くなるのであらすじでも見て欲しい。めんどくさい。


「っ!」




 誰に対するかも分からない独白をしていると、視界が突然安定した。毎回これなら慣れが必要だと思いながら、私はその場に座り込んだまま周囲を見渡す。



 すると、真っ暗な空間に小さなともしびが現れて近付いてくる。



「いらっしゃーい。お客さーん」



 出迎えてくれたのは金髪の幼女。お人形さんみたいでかわいい。


「ここはあれですか? 選ばれし勇者のみが導かれるとかそういう――」



「キャラメイクする場所だよー。さあさ、どうぞ」

「あ、はい」



 座ってる私に対する配慮なのか、座り込んだままのキャラメイクを勧めてくる。あんまりウザ絡みをするのもどうかと思うので、とりあえず設定を始めることにした。



 決めるのは、外見、名前、初期スキル三つ、種族だ。下調べと変わったものはない。


 名前は予め決めているのを入力っと。よし、被ってない。


 次は見た目。顔は現実リアルと同じ普通の顔(当社比)、髪色は翡翠色で、髪型はセミロングの緩めのハーフアップ。目の色は白強めの金色。


 ――いい感じにイカしてる。



 次は種族。ランダムという選択肢があるので、特にこだわりりも無いしここは天に任せよう。

 私は運が良い方だからきっとおそらく大丈夫。

 大丈夫さで言えば公務員に就職するくらいの安定具合だ。……本当に大丈夫かな?



 ――パンパカーン!

『あなたの種族は見習い天使です』




 絶妙にダサい軽快なファンファーレと共に与えられたのは見習い天使。見習いってなんだろう。試用期間だから給料とか出ないのだろうか。



「微妙なやつですかね?」


「いやいや、天使と悪魔は誰でも最初は見習いからだから当たりだよー」



 それならいいや。それに、調べた感じだと何やらゲーム内で転生機能もあるらしいから、いざとなれば転生すればいいし。


 最後の設定できる要素のスキルも、1個だけランダムを選べるらしいから流れに乗って天に任せよう。ポチッとな。




 ――パンパカパーン!

『レアスキル:【天運】を獲得しました』



 スキルのランクは、ユニーク、レア、ノーマルの順で良いらしいから真ん中か。まあ良いんじゃないかな、知らんけど。

 それにしても下調べしてきてよかった。いちいち聞くのは申し訳ないからね。



 チラッと幼女さんの方を見ると、表示された画面とにらめっこしている。やっぱり人気なゲームだけあって案内人も忙しいのかな?



「えっと……貴方は運営の方なんですよね?」


「え? うーん、そんな感じかなー? 管理AI8931ハクサイだよー。挨拶してなくてごめんねー」



「いえ、私はミドリです。よろしくお願いします」


「よろしくー」


 私はついさっき設定したこのゲーム内の名前で名乗って自己紹介をした。ハクサイちゃんか。語呂合わせで微妙な野菜を引いてるけど、気の抜ける可愛らしい名前だ。



 さて、閑話休題。

 他のスキル2つも選ぼう。ビルドなんて考えてないから、使い勝手の良さそうなやつを適当に。


 これとこれかな。



「よし、できました」


「ステータスオープンって言うと決めたやつが見えるからやってみてー」



「ついに全オタクの憧れが叶うんですね……ステータスオープン!」



 オタクが一度は唱えたことのある呪文を意気揚々と口に出すと、目の前に半透明の板みたいなものが現れた。とりあえず殴ってみるも、すり抜けてしまう。モノホンだぁ……。


「細かいパラメータ、よくあるSTR筋力とかはマスクデータになってるけど、他は色々見れるからこまめに確認してねー」



 聞きながらステータスを眺める。




 ########


 プレイヤーネーム:ミドリ

 種族:見習い天使

 レベル:1

 状態:正常

 特性:天然・善良

 HP:200

 MP: 50

 称号:異界人初の天使


 スキル

 R:神聖魔術1・飛翔1・天運

 N:走術1・体捌き1


 ########


 スキル

【神聖魔術】ランク:レア レベル:1

 神聖なる力で回復から攻撃までこなす。


 〖使用可能な魔術〗

 ・セイクリッドリカバリー


 魔術

 〖セイクリッドリカバリー〗

 対象者の傷を癒す。

 詠唱:「女神ヘカテーよ、我が嘆願の声に応じ、愚かな者を癒したまえ」

 消費MP:40



 スキル

【飛翔】ランク:レア レベル:1

 空中をレベルに応じたスピードで飛び回れる。

 細かい操作もレベルで扱いやすくなる。

 効果時間:スキルレベル×60秒

 CTクールタイム:2分



 スキル

【天運】ランク:レア

 運が顕著に表れる。効果はその日の運勢によって変わる。1日1回使用可能。24時にリセットされる。



 スキル

【走術】ランク:ノーマル レベル:1

 走り上手になる。走ることに補正がかかる。

 アーツ:ダッシュ


 アーツ

【ダッシュ】

 高速で直進する。

 CT:120秒



 スキル

【体捌き】ランク:ノーマル レベル:1

 体捌きが上手になる。


 ########


【飛翔】も【神聖魔術】も種族による初期スキルだろう。そこは予習済みだから知ってる。〇研ゼミでやったとこだぁ!


 ……【神聖魔術】は今のところ一度しか使えないけど、機動力だけは高そうなスキル郡だ。まあ私が選んだスキルなんだけどね。

 ランダムでゲッツした【天運】に関してはかなりのピーキー。使い所は考えないといけないだろう。


「聞きたいことあるー?」


「無いです」



 先人も習うより慣れろと言ったことだし。


 スキルは常時発動のパッシブ系と、任意発動のアクティブ系、それらが両方混ざったやつがあるのは把握している。

 あれ? 慣れるより先に習ってない?



「じゃあ、頑張ってねー。応援してるよー」


 予習が習う判定なのか脳内審議が行われてるのをよそに、視界が暗転する。


 ◇ ◇ ◇ ◇



 目を開けると、汚れ一つ無さそうな白い神殿らしき場所に居た。



 ――立ち上がる。

 こうして自分の足に体重を感じたのは何年ぶりだろう?



「こわ……」



 歩くという行為が久しぶりで、歓喜と恐怖の感情がミキサーのごとく入り混じっている。


 それでも、足を踏み出す。現実ではできなくても、ここではできるのだ。


 足を後ろに流す感覚も、出す足を入れ替える感覚も、何もかもが新鮮で心地良い。



 建物から出ると、明るく賑やかな町が広がっていた。




「いやーー!!」



 誰かの悲鳴が響き渡る。人々がギョッとして見ている方向を向くと、小さな子が爪で引っかかれたような傷を負っている。

 悲鳴は傍に居る親っぽい人が上げたのだろう。



 傷を与えた原因は、すぐに分かった。



「キャオーーーーン!!!!」



 狼が遠吠えを上げている。ここがどこかはハッキリしていないが、治安が悪いようだ。

 町中に凶暴な獣が現れているのは警備とかがゆるゆるなのかな?



「【グランドスラッシュ】!」



 筋肉ムキムキの大男が、その体躯に見合った大剣を振るうと、狼は為す術なく真っ二つに。血が大量に出ていて、見ていて気持ちの良いものではない。


 それより、怪我をした子は大丈夫だろうか。


「誰か! 助けてください!」


 案の定親が助けを求めている。そこに駆け寄っていく修道服の男性。



「見せてください! …………これは、もう……」


「そんな!?」



 よっぽど傷が深かったのか、治せないようだ。

 流石にこの状況をスルーして、自分の世界で感傷に浸っている訳にもいかない。



 人垣をかき分け、進む。



「どいてください」


「て、天使様!?」



 修道服の男性が何か驚いているけど、そんなのは無視。今はうっふーん(ハート)なんてふざけている場合では無いのだ。


 傷は三本の裂傷で、かなり深い。息をしてるのが不思議な程深い傷だ。


 できるかは分からないが、やってみよう。



「女神ヘカテーよ、我が嘆願の声に応じ、愚かな者を癒したまえ〖セイクリッドリカバリー〗」



 まだ覚えていないので、ステータスで表示されているのを読み上げて発動させる。

 子供の体が白く淡い光に包まれた。


 光が消えると、綺麗な肌が見える。完璧に治せたみたい。よかったー。流石見習いとはいえ天使。私ってばマジ天使。



「あわわわ、ありがとうございます! 天使様!」



 親が深々とお辞儀をしてくる。子供はまだ眠っているようだけど、落ち着いた穏やかな寝息だから痛みが消えて安心したのが見てとれる。



「いえいえ、治せてよかったです」


「天使様! どうか、わたくしめの教会にお越しいただけないでしょうか!」



 宗教勧誘? こわ。

 塩でも撒いてやろうかと思ったが、ここに来たばかりで塩なんて持っているはずもなく。

 仕方ない、見逃してやろう。


「すみません。用事があるので失礼します」



 野次が増えて注目を浴びるのは嫌なのでそそくさと退散する。


「ふぅ」


 ――早足であの場から離れたけど、なぜかまだチラチラと視線を感じる。



「ん?」



 視界の端に一瞬映ったのを二度見してしまった。自分の羽だ。こんなのを広げていたら、変な注目を浴びるのも当然。しかも呼吸に合わせて微かに動いているから本物と分かる。


 元々無いはずの器官なのに、簡単に動かせるのは種族ごとのハンデを少なくするためかな。小さく畳んでおこう。


 ◇ ◇ ◇ ◇



 人目を避けて歩いた結果、人通りの少ない住宅街に来てしまった。予定では冒険者ギルドとやらに行って冒険者登録をするはずだったのに。


 地図も無いので当然迷子。困った。こういう時は落ち着いてできることからしよう。とりあえずメニューを開いてみる。

 おっと? 運営からのメッセージがきていた。イベントのお知らせとかかな?



{貴方にライブ配信の権限が認められました。専用アプリからチャンネルを設立し、配信してもいいよー。配信の際の分からないことはヘルプを読んでねー}




 途中からハクサイちゃんが書いたと分かるラフさになってる。でも配信ねー。確か運営からの何らかの条件を満たしたら許可が出るんだっけ。

 やはり善行とかだろうか。


 ……待てよ? どれだけ人が来るか分からないけど、冒険者ギルドの場所ぐらい教えてくれるのでは?

 視聴者数がゼロ人だったら……その時はまた考えればいいか。



「やりますかねー」




 近くの木箱に腰をかけ、メニューを改めて見る。ストレージやらメッセージやらある欄の下に、専用アプリという欄があるのでそれを選ぶ。


 アカウントを作るときにも使ったアプリだ。ゲームを持ってる人も、持ってない人も、これを入れてあらがじめ準備ができる。



 パパっと諸々を入力し、チャンネル設立完了。私の秋空よりも移り変わりの激しい気が変わる前に配信開始ボタンを押す。




『ライブ配信が開始しました』



 そういうアナウンスと同時に、カメラがついた球体が現れてフワフワと私の周りで浮いた。


 どうやら配信に関する設定できるようなので、そちらも適当に決めていく。


 カメラワークはオートで、チャット欄は表示、投げ銭機能もよく分からないからONで、BGMは著作権が心配なので運営に任せる自動、アーカイブは残す設定っと。


 多分大丈夫だろう。



「……これ、聞こえてますか?」



 視聴者数が0から一気に1000ぐらいまで増えた。

 世界には暇人が多いらしい。




[芋けんぴ::初見です]

[あ::初見]

[ピコピコさん::初見]

[らびゅー::聞こえてます!]

[天変地異::初見]

[ヲタクの友::初見です]

[お神::所見でふ]

[蜂蜜過激派切り込み隊長::初見!]




 聞こえているみたいだ。こんだけ集まれば一人ぐらい冒険者ギルドの場所を知ってる人はいるだろう。



「私はミドリです。配信初心者なので至らない点もあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします」




[燻製肉::よろ^^]

[蜂蜜穏健派下っ端::美人さんだー]

[死体蹴りされたい::よろしく!]

[セナ::推します]

[隠された靴下::おぢさんが手取り足取り教えるおー]

[壁::かわいい!]

[らびゅー::顔のパーツが綺麗! 現実準拠?]

[芋けんぴ::自己紹介えらい]

[階段::堂々としててよき。]




 見える範囲のコメントだけでも混沌としている。蜂蜜で過激派と穏健派に分かれているのは何かあったのかな?


 下調べで動画は調べてないけど、供給が少ないのかもしれない。戦闘の対策とか拠点に凸とかされかねないし。



「皆さんには、今から道案内をしてもらいます。私を冒険者ギルドまで導いてください」



 うん、視聴者をあてにする配信者も混沌云々うんぬん言えない酷さかもしれない。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る