##24 不死の王

 


「出でよ不死者ども」



 霧の主が呼んだゾンビやスケルトンの軍勢が床から這い出してきた。がっしりとした戦士から獣人っぽい人まで多種多様な姿をしている。今までこの黒霧地帯インビジブルエリアへ挑んできた猛者たちなのだろう。



「【疾走】」



 でも、今はただの魔物だ。霧の中で鍛えられた私にとって、生前に比べて動きの鈍くなった彼らに負ける道理はない。走りながら、斬って斬って斬りまくる。



「ア゛ァアアアア!」


「――おっとっとっと!」



 中に一際強い人が混じっていた。狼の獣人で連撃を繰り出してきたので、何とか剣で捌いて凌ぐ。



 一度下がって体勢を立て直し、標的を絞って再び突撃。敵は集団でかたまっているので弱いのも処理しつつ、こちらの剣と獣人ゾンビの拳を交える。

 耳とかしっぽの特徴や、戦いの癖からしてこの人は魔王軍四天王テメリテさん関連の人だろう。親の仇とかは意外と当たらずとも遠からずだったのかもしれない。



「しっ! はああ!」


「アアア……」



 一度斬り払ってから返しの剣で仕留める。

 ゾンビになっているのもあるが、テメリテさんほどの強みは感じなかった。彼女と同族だろうし、月の見えないここは彼にとって明らかに不利。

 帰ったらテメリテさんにはちゃんと強かったと伝えよう。


 そんなことを考えながら不死者の軍勢を殲滅すると、プロトピスとかいう玉座で胡座あぐらをかいている敵の親玉が拍手をしだした。

 煽りにしか見えない。



「来い」


「――――ッ!」



 プロトピスが何かを呼ぶ。

 黒い霧が渦を巻き、中から化け物が3匹、禍々しい姿を現した。



「砂漠龍ハナ、不死狼レオ、邪眼鷹ルルよ――その小さな堕天使をすり潰せ!」



 それぞれ鳴き声を上げながら私へ向かってくる。

 サンドワームと、骨の狼、すばしっこい鷹が私に激突した。速い上に攻撃が重い。



 私は為す術なく吹き飛ばされるが、何とか体をひねって受け身をとる。



「ふざけた名前のくせに普通に強いじゃないですか」



「災獣と渡り合えるように鍛えているからな……む? ふざけた名前だと? かわいいではないか」



「…………」



 なんだこの人。おっかない顔してギャップ萌えでも狙ってるのか? 私はそんなのには騙されない。

 それに、なめてかかったらこちらが普通に死ぬような相手だ。名前がかわいいからって油断はしない。



「【縮地】ふっ――!」



 手始めにサンドワームに近づいて斬ってみる。

 思ったより硬く、与えられた傷は浅い。




「【naaaa】!」


「危なっ!?」


 目の前のサンドワームの口から危険そうな液体が飛び出てきた。横に避けて難は逃れたが、後ろから狼が迫る。



「【urrraa】!」



「せい!」



 爪のスキルか何かで攻めてきたので、剣で弾いて隙を作る。


「【適応】!」


 両手で剣を握り直して、体重を乗せて狼を叩き斬る――――



「【lulllu】」


「――っ!?」



 体が動かない。

 鷹に上から睨まれているから、金縛りとかだろうか。


「raaaoo!」


「ぐっ……」



 その一瞬の隙に、狼が突進で私を吹き飛ばした。

 それぞれに強みがあるのに加えて連携が上手い。対して私は一人でこの化け物達を倒さないといけない。


 でも、難易度は高くとも不可能ではない。親玉が控えているから【不退転の覚悟】は切れないが、それ以外は全開で行こう。




「【超過負荷オーバードライブ】」




 左腕に巻かれていた黒い紐が消えて、金属片が舞う。黒く赤い光が漏れ出して私の堕天使っぽさが増す。



「はああああ!」




 まずはデバフ要員の鷹目掛けて跳んだ。牽制としてエネルギーバレットを他2匹に放ちつつ、鷹へは剣を向ける。




「【lulllu】」


「バリア!」



 金属片を並べてバリアを正面に張る。効果はあったようで金縛りを食らわずに済んでいる。自由に動ける状態で、私は鷹を真っ二つに斬った。



「naaaaa!」



 サンドワームが真下から顔を出して空中の私を噛みちぎらんと体を伸ばす。


 細かい歯がよく見える距離になったところで、私は口の中にエネルギーバレットを数発入れる。そして自身の体を空中で回転させ、蹴りでサンドワームの口を閉じさせた。



「na……!」


「よっと」



 そして剣を頭の上で固定し、サンドワームのまっすぐ伸びた体に沿って落下した。私が落下するにつれて固定した剣が敵の体を縦に斬っていく音が背後から聞こえる。



 流れるようで鮮やかな解体ショーに観客も大盛り上がりだ。もちろんそんな観客いないんだけど。

 せいぜい拍手の代わりにサンドワームの血が吹き出しているくらいだ。



「【uraaau】!」




 残った狼が牙を黒く輝かせて近寄ってくる。それを私は剣で応戦し、競り勝って相手を仰け反らせる。


「ふっ!」



 がら空きのお腹に私は黒い弾丸を撃ち込む。更に。怯んだ様子の狼に追撃するため私から接近した。



「私の勝ちですーー!」



 剣で狼を真っ二つに叩き斬った。

 剣道の残心とかいうやつみたいに、油断なく敵の親玉に剣を向ける。




 体術の練度も戦闘スキルもここ数日で格段に向上しているのを実感できた。【超過負荷オーバードライブ】があったとはいえ、私も成長しているのだ。この調子なら目の前で余裕そうにしている人にも勝てるはず。




「見事、とでも言っておこう」


「いちいち腹立つ言い方ですね。次は貴方の番ですよ」



 そう軽く挑発じみた言い返しをすると、相手はようやく玉座から腰を上げた。




「あまり――――図に乗るなよ小娘」



 風が吹く。

 窓なんて当然無いし、空気の流れるような造りでもないのに。どこからともなく風が吹いている。



「どこからでも、かかってきなさい!」



「ヤツの力を使わねば俺には勝てんぞ」




 赤い線が四方八方から現れた。

 急いで危険地帯から避け――



「うぐぅっ……!」



 左腕が飛んだ。

 不可視の、風の刃が私を斬りつけたのだ。

 スキル名や詠唱は無かったから、神の力――神能だろう。



「うぐはっ、ぐぅぅ……【不退転の覚悟】!!」



 痛みを堪えて切り札を発動。

 相手の言った“ヤツ”が誰のことかは分からないが、そんなことに構っていられるほど傷は浅くない。



「――それでいい」



『「可能性」をステータスに反映します』『「カミウツモノ」の可能性の反映に成功しました』





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