最終章前編『何よりも今を』

###28 最南の孤島を……

 


 青い海、青い空。

 ここは空と海の境界が曖昧なほど青一色な大海原。私たち〘オデッセイ〙は天空国家クーシル行きのエレベーターがあるというウイスタリアさんの親友ことエスタさんの情報に従って南の孤島へ向かっていた。



「船旅って空中移動より独特の趣があっていいですよね〜」

「せやなぁ」

「Zzz……」

「潮風が機械の体に染みるねー。主に錆びそうという意味で」



 日差しで眠くなったのか大の字で爆睡してるウイスタリアさんをよそに、私、コガネさん、パナセアさんはデッキの手すりにもたれかかって海を眺めていた。


 パーンと乾いた音とともに鮫のような魔物が死体となって流れていく。この軍艦に備え付けられた、パナセアさん命名の“海の魔物自動で絶対殺すガン”によって勝手に迎撃してくれるのだ。

 そして、流れていく死体は素材として――



「趣は放っておいてこっちの手伝いをしてくれないかな!」

「まあまあ、ちゃんとこっちでも新鮮なお魚を釣ってますから。適材適所ってやつですよ」


 サイレンさんが人力で拾っている。

 素材回収ご苦労さまです。

 でも海で器用に死体回収ができるのは海神の力を使える彼だけなのだ。着いたら楽させてあげるから頑張って欲しい。

 クーシルでの活動資金は彼の手にかかっているのだから。なんかリンさんから聞いた話だとこっち地上の通貨、Gゴールドが使えず“円”が流通しているらしいのだ。

 なのでここで狩った魔物の素材を売って現金を獲得する算段なのである。


 ちなみに私たちの釣竿は微塵も動くことはなかった。それもそのはず、こんな海のど真ん中には釣竿で釣れるような可愛らしい魚は皆魚介類の魔物に追いやられて存在していないからである。



「あ、なんか引っかかったで。ちょ、重っ!? あだだだ肩外れてまう! ヘルプ! ヘルプや!」

「ふむ? 魔物なら迎撃されるはずだし……そもそも魚影が見えないがどれだけ深海に潜っているんだ?」

「コガネさんパース! 神力全開フルバワー!!」



 コガネさんから釣竿を引き継ぎ、血管がはち切れそうなくらい力んで引っ張る。重すぎてリールは回らないので筋力でゴリ押すしかない。当然壊れないように釣竿にも糸にも神力を纏わせている。



「ぬぬぬ……!」



 神力を注ぐ度にHPが削れていき、【背水の陣】によって身体能力が強化されていく。



「んなー!!!」



 段々船の方が沈んでいっている気がするので一応飛翔で浮かびながら引っ張る。

 最終的に釣竿を手にして空へ向かう形になったが、振動が手を伝って手応えを感じた。



「ふほー!!」


「おおー!」

「およそ年頃の女の子が発する声やないなぁ」

「Zzz……」

「ちょっとミドっさん!? なにやってんのそれ――」



 サイレンさんが何かを言い切る前に私は釣りきってしまった。

 獲物はこの船の数倍は大きく、それを見た一同口をあんぐり開けていた。


 それもそのはず、私が釣り上げたのは過去誰も釣ったことなどありえないと言いきれるものであったのだ。



「島ー!? って重…… その辺にリリース!」


「妖力操作の練習として釣り針を動かしまくっとったさかい、船より先に着いてもうたみたいやな」

「ふむ、空に突然大陸が現れたのはそういうことか。おそらくその島のエレベーターの座標に合わせて上空のそれも連動して動くようになっていたのだろう」

「到着する前に引き寄せるなんて前代未聞だよ……」

「んぅ? もう着いたのだな?」



 島なんて重いはずだよ。


 過程はどうあれ結果的には無事辿り着けたし、さっさと皆で上陸した。

 船はいつか再利用できる日のためにとパナセアさんのストレージに仕舞われた。イベントのペア戦の報酬にあったランダムなスキルが手に入る、スキルスクロールで【拡張ストレージ】を手に入れたらしく、色々と仕舞えるようになったらしい。



 あ、私のイベント報酬も前半の準優勝ということでスキルスクロールを貰った。

 そして今の私のステータスがこちら。



 ########

 プレイヤーネーム:ミドリ

 種族:大天使・(色神)

 職業:背水の脳筋

 レベル:199

 状態:良好

 特性:天然・善悪

 HP:18026/39800

 MP:75043/99500


 称号:異界人初の天使・運命の掌握者・理外の存在・格上殺し・魅入られし者・喪った者・旧魔神の親友・敗北を拒む者・元G狂信者・対面者・色の飼い主・復讐者・神殺し・空間干渉者・時をかける者・破壊壊し・真理の探究者・天賦の才・到達者・終末兵器(色)・メデテー乱獲者・死者殺し・運に愛されし者・巨人殺し・並行世界の救世主


 神能:色


 スキル

 U:ギャンブル・職業神(?)の寵愛・超過負荷10・無間超域・獲物に朝は訪れない(一時貸与)・理想を描く剣・砂粒を掴む


 R:飛翔10・神聖魔術8・縮地9・天運・天眼・天使の追悼・不退転の覚悟・祀りの花弁(不撓不屈・命の灯火・残花一閃・樹海大瀑布)・水中活動・闘力操作・魔力操作・即死無効・世界の種・神力操作・共存進化の種


 N:体捌き10・走術7・無酸素耐性7・苦痛耐性8・釣り作業10・打撃耐性6・最大MP上昇10・継続戦闘7



 職業スキル:背水の陣・風前烈火


 ########

 スキル

【共存進化の種】ランク:レア

 相反する特性を持つ場合でも同時に所有した進化が可能になる。進化後このスキルは消滅する。

 ########



 レベル200まであと1。もしかしたら必要な経験値とかが桁違いなのかもしれない。なかなか上がらないからね。

 それはともかく新たに手に入れたスキルは今のところ使い道が無い。レベル200になったら選択肢が増えたりして使うかもしれないけどね。



「さて、これが噂のエレベーターのようですね」

「分解して調べたいが向こうに行けば設計図もあるしここは我慢……」

「えべれーたーに乗ればいいのだな! さあ、いつでもかかってくるのだ!」

「なんかドキドキするなぁ」

「なんで現代チックなエレベーターなんだろね? プレイヤー関係なのかな?」



 まとめてエレベーターに乗り込むと、上向きの矢印のボタンが点滅しだした。押せという催促に思えたので従って押す。


 ボタンが点灯し、足場が動き始めた。

 透明な壁のエレベーターなんかよりも隔たりのない、足場だけのエレベーターが天へ昇っていった。



 ――いざ行かん、決戦の地……というか天!



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