###ソロ最強###

 


 急遽開催されることと相成った前半と後半の優勝者による、真の最強を決める戦い。


 前半の優勝者クロと後半の優勝者ネアの2人の間には沈黙が流れていた。雑音ノイズのような実況解説の声すら入る余地の無い静寂。



 試合開始からお互い構えることなく目を合わせていた。


 その様はまるで――


「なあ……」

「クロ……」



 ――喧嘩して仲直りしようとしているカップルそのものである!


 同じタイミングで話しかけ、お互いに相手の言葉を待つ。再度の沈黙が流れた後、ついにクロが折れて沈黙を破った。



「俺は今、別の現地人のやつらとダンジョン巡りをして力を貯えると同時にに何か隙が無いか探ってる」

「そう」


「ま、どうせこんな場所なんだ。お互いの成長度合いの確認といこうか」

「ん」



 そして改めてクロが手をかざす。

 元々彼らは仲間であり、お互いに支え合ってきた仲である。だからこそ生半可な攻撃は通じないと知っているのだ。

 連日の巻き込み事故で観客のトラウマになりかけている巨大な魔法陣が展開される。


「……輪廻ノ外法其の参【自変改じへんかい】」



 ネアは自身を好きに改造できるスキルを以て肉体の材質を変更した。

 直後、閃光が全てを包み込み――



「魔術師殺しの特性か」

「うん」


 魔術師殺し、それは住民のすべてが50以上という高レベルで魔法を使う者なんて居ない天空国家クーシルにおいて発生しているダンジョンのボスになるほど強力な魔物のことである。

 魔力に関する完全耐性を持っており、いかに強力な魔術師であれどその魔物の前には無力と言われている。


 そんな一点特化の魔物の特性を獲得したのが今のネアなのだ。魔神の神能を使うクロと交戦するにはうってつけである。



「……輪廻ノ外法其の零【分命天理オルターエゴ】」



 相手は打つ手を持たないと考えたネアは続け様にHPを生命に転換するスキルを使い、無数の生命そのものを周囲に漂わせた。それらは彼女の思うがまま、姿かたちを変えることができる。


「…………いけ」


 その全てを龍の形に、外皮だけは魔術師殺しに改造して突撃させた。圧倒的物量の最強に近い種族にお得意の魔術を通用させない特性、まるで自在に魔術を行使する強力な人物を想定しているかのような周到さである。




「なるほど、ちゃんとソフィ・アンシルの対策はしているわけか。じゃあ俺の回答こたえも見せようか」


 少年は黒い外套を脱いでその姿を顕にした。

 真っ白い短めの髪、そこには色のアホ毛がついていた。

 そしてそんな特徴すら飲み込むほどインパクトの強い服装――指ぬきグローブを片手に付けただけのパンイチなのだった。



「……露出魔?」

「ちがわい! 難しいダンジョンもあいつの攻撃も当たったら死ぬんだから軽装の方がいい、つまりこれが最適解なんだよ。ほぼオワタ式みたいなもんだからな」



 龍の口が喚く彼を喰らわんと開かれた。



 ――この場にいる誰もがただのネタだと考えていた。だが、それは一瞬にして否定された。



「『開闢かいびゃくは白にして虹である』」



 彼はソフィ・アンシルに利用され、天空国家クーシルの、一般開放されている中で最高難易度のダンジョンに放り出され、強制的にリスポーン地点の更新をさせられ、半ばリスキルと呼ばれる状態に陥った。痛覚設定100%の彼だが、死亡回数はプレイヤー1を誇り、六桁近く死んでいた。


 試行錯誤の末辿り着いたのが、超人じみたPSプレイヤースキルの獲得と世界スキルという強みの押し付けであった。



 彼は迫り来る龍の猛攻を雲のように掴ませず回避していく。




「『世界を捉えるには地図が必要だ、世界を描くには筆が必要だ』」



 彼の指ぬきグローブが光り、彼の頭上に巨大な羊皮紙と万年筆が出現した。

 そう、それこそが彼の武器。



「【神器解放:創世之手オリジンアルカナ】」



 彼の種族は魔神ではない。

 半神半神なのだ。


 魔神と――




開闢かいびゃく神でもあるんだ。開闢かいびゃく、つまり世界を創造する神だ。当然固有の神だけどな」



 世界を創造する開闢かいびゃく神は、パナセアのような創神と同じくこのゲーム独自の存在であった。

 そう、彼はを創り出せるのだ。



「とりあえず……俺の通った空間からこの世界そのもの以外の全てを斬る斬撃を射出させるのと、生物が……いや、生命力HPの分離や改竄、回復ができなくなる世界――ま、【殺戮世界】ってことにしよう」



 瞬間、彼の通った跡から斬撃が走り、無数の龍が一方的に蹂躙された。

 無手のまま彼はネアに接近していく。

 それを見て、ネアは彼に一言告げた。



「……そう、同じ結論…………2つの神能は必須」



 彼女は魔神と開闢かいびゃく神の2つの神能を持つ彼と同じ結論に至ったとこぼした。


 先刻のクロと同じように黒い外套を脱ぎ捨てる。

 ネアはミドリと最後に遭遇した白髪――ではなく。



「生神と死神……それが私」


 白と黒が交互になったショートボブの彼女は、空色の瞳と同じ色のフード付きのゆったりとしたパーカーを着て、動きやすいショートパンツを履いていた。


 クロと同じくソフィ・アンシルを打倒するために半神半神になったのである。



「……『死ははじまりであり、生はおわりである』」


 パーカーのポケットに手を突っ込みながら、彼女は詠唱を始めた。首のチョーカーが薄暗く輝く。

 クロはネアの実力を見るために足を止めた。



「『生という罪と罰から、今……救済する』【神器解放:閑代救輪ラストスパークル】」



 瞬間、クロの周囲にまさに死神と言わんばかりの姿をした存在が出現し、一斉に大鎌を振った。

 唐突な死の宣告だが彼は即座に対応してかわして突破、死神風のそれらを切り裂いた。


「生き物は作れないから……死の概念そのものか。道理で親友気分が湧いてきたわけだ」

「『死んで』」


「『俺は死なない』」

「……」


 死神の神能で即死攻撃をしたネアに対し、世界スキルに即死効果を無効化する効果を追加して対応した。

 まさにいたちごっこ、泥試合である。



 それからは死の概念を喚び出し、クロがそれを避けながら走り回って斬撃を射出、今度はそれをネアは避けるといった攻防が延々と繰り広げられていった。

 そして相手の疲弊したであろう頃合いを見計らい、変化をつけた。



「【スリップ】!」

「……【チェンジ】」



 その不意打ちは完全に被り、ネアはあえなくすっ転んで斬撃を浴び、石ころと位置を入れ替わったクロは死の概念の鎌で首を刈り取られた。



 両者ともにポリゴンになっていく。



『試合終了! 勝者……え? 引き分け?』

『ふむふむ、どうやらコンマ単位で同時に死んだようです。完全なる引き分けだそうですよ』

『すご〜奇跡だ〜! 息ピッタリだねぇ〜』



 盛り上がる周囲を無視し、復活した2人は互いに背を向けて歩きだした。


「ここには来られなかったが、俺の武器は大剣だ。その辺も踏まえて用意してくれよ?」


「ん、じゃあ――」




後輩ミドリたちが来たらな」

手駒ミドリたちが来たら」




 最終決戦の日は刻々とせまっている――


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