###29 勇者パーティーと合流しました

 



 ――ガチャンと足場がはまる音がしてエレベーターは停止した。

 天に浮かぶ大陸に到着したのだ。



「ここは……何かの研究所ですかね?」

「ふむ、めぼしい資料は片っ端から無くなっているな。 ここの主は移転したか、あるいは……何らかの事情で回収されたか…………」

「なんか妙に現代風だね」

「変な場所なのだ」


「っとお出迎えが来てくれてはるなぁ」



 コツコツと足音が聞こえて、壁越しに様子を見るようにひょっこりと2人組が顔を出していた。


 かたや腕に小さい盾をつけて背中に片手用の大きさの槍を身につけ、バンダナを巻いた黒に近い青いベリーショートのボーイッシュな少女。

 かたや木の杖を抱えた、赤と青の衣装を着た茶髪のお団子ヘアでタレ目な少女。



「あー、こんにちは?」


「本物だぁ……!」

「あ、案内しないとだよ」



 敵ではなさそうだけど、こちら……というより私を見て本物と言ったということは配信を見たことがある視聴者、つまりプレイヤーだろうか。

 そしてこのクーシルにいるということは――



「どうもどうもー、オレはメリッサ。こっちの大人しいのは、ぽんぽんいーしゃん」



 ぽんぽん……? ネタネーム系か。

 さてはこの魔法使いっぽい子、麻雀好きだな?

 私も好きだよ。親戚の集まりでよくデザートを賭けてやるし、天和・地和ばっかな気はするけどあがれると気持ちいいからね。



「はじめまして、ぽんって呼んでください。えっと……皆さんのことは知っていまして、ネアさんから案内するように言われたんですが――」


「はいはい」

「ほう」

「が? なんか問題あったん?」

「なんか面倒事の予感……」

「戦いなのだな? 任せるのだぞ!」



 深刻そうな表情を浮かべている。

 なんだろう。サイレンさんの言う通り何かしないといけなさそうな予感がする。



「実は私達のクラン、〘Bright Bravers〙で冒険者としての依頼を受けまして……そこで皆さんには一度私達のクランと合流してもらってから、ネアさん達と合流する流れでお願いしたいのです」



「〘Bright Bravers〙って確か勇者はんとこやんな。ええんちゃう?」



 要するに道中勇者さんのところと一緒に行きましょうという合理的なお誘いというわけだ。



「そうですね。一度勇者のハクさんとはお話してみたかったことですしご一緒させていただきましょうか」

「せやな」

「ああ、どうせ一緒なら同行した方が効率的だ」

「よくわかんないけどいいのだ!」

「勇者と聖女……仲間なら頼もしいね」


 そうして私たちはクーシル到着早々、勇者さんパーティーのもとへ向かうことになった。

 徒歩で目的地まで進む。



 ◇ ◇ ◇ ◇


「へー、メリッサさんは鍛冶に木工、金工まで手広くやってるんですね。やっぱり生産をやってくれる人はクランでは大事ですからねー」

「いやー、そうなんすよ! えへへ。まあ〘フロントライン〙も〘プラチナハート〙もお抱えの生産人はいませんけどね!」

「強かな人達やねんなぁ」

「私は生産というより開発が近いけどね」



 前者はネアさんのとこ、後者はソロトーナメントの決戦で辞退した白金さんだろう。

 前列では私たち4人、後列ではぽんさんとウイスタリアさん、サイレンさんが話している。


「――それでですね! そういった場面でこそ地獄待ちだとしても大勝負に出るべきだと思うんです!」

「なるほどな! 首に剣を当てられてもそのまま頭突きしてやるってことなのだな! 覚悟は大事なのだ!」


「ですです!」

「なのだなのだ!」



「……」




 ぽんさん、同類ギャンブラーの匂いがする。サイレンさんも可哀想に。ギャンブラーとバトルジャンキーに挟まれて虚無を見つめてる。

 頑張れ、きっとその経験が君のツッコミ力を強くするはずだ……!


 そんなこんなでおしゃべりしながら歩いていると、村らしき場所が見えてきた。



「あそこはストポス村、ハクさん達はあそこにいるんで行きま――ミトリさん?」


「……」


 なんだろう?

 誰かに見られている気がする。どうしよう? 周囲一帯まとめて剣のさびにしてやろうか?

 …………ひとまず実害は無さそうだし様子見にしておこうかな。他の人は気付いていないようだし、変人に思われるのは嫌だからね。


「なんでもありません、行きましょうか」



 念の為最後尾に移り、後ろを睨んでおく。

 こちとら配信者だ。距離や次元が違えど視線には敏感なのだ。視線の主に殺意だけ向けてみんなの後ろをついていった。



 ◇ ◇ ◇ ◇



 村に着いた私たちはそのままの流れで彼女らが依頼中仮拠点としている村長さんの家にやって来た。思ったより大きいので勇者さん達のメンバーも滞在できているのだろう。


「ただいまー!」

「ただいま帰りました……」


「おかえりなさい、ってあらあら、お客さんがいっぱいね」



 あらあらが伝播しちゃうくらいの聖女オーラだよ。私の内なる魔物が浄化されそうだ。


「あれ? ハクさん達は……」

「連日の説得ですか?」


「そうなのよ。そろそろ帰ってくると思うんだけど――」




「なぁー! なんなのよあの石頭共は! 人の命をなんだと思ってるの! 石頭ぶった斬ってやろうかしら! そう思いませんかハクさん!」

「あ、あはは……まあそうだね。今夜までには何とかしないとだね」

「ヨザクラは物騒すぎるのよ。ハクが話してる間もずっと刀ちゃきちゃきしてたし」



 全員トーナメント大会で見たから名前と顔が一致する。

 最初に入ってきた紫色の髪の刀を提げた人がヨザクラさん。大会ではクロさんに瞬殺されていたけど立ち振る舞いからして剣の腕は確かだろう。


 そして次に入ってきた黒髪の同い年くらいの少女が、勇者さんことハクさん。聖剣が常に光を纏っていてわかりやすい。洞窟とかで松明要らずなのは便利かもしれない。

 ……あ、私には光る天使の輪っかがあったな。


 最後に入ってきた濃いめの緑髪の、弓を背中に装備した人は不公平さんと戦っていたミオさんという方だ。姉御肌というか、おそらく勇者パーティで1番年齢が上なのだろう。パナセアさんと同じ空気感を感じる。



「あ、揃ったみたいだね。はじめまして、私はハク。一応勇者やってます」


「これはご丁寧にどうもミドリと言います。こちらに敬語は要りませんよ、勇者さん?」



「な、なんだか照れるなぁ……」



 かくして、私たちはこの世界の主人公やってそうな勇者さん達と合流したのであった。




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