###30 生贄を捧ぐ村

 

 勇者さんご一行との挨拶もサラッと済ませ、目下の問題について会議していた。

 お昼ご飯をご一緒しながら。ハクさんは現実リアルの事情で少しだけ席を外している。


「ふぉっふぁいほへほふへはひょーひはふはひほはは!」


「えーと?」

「なんか悪口言われた気がするんだけど」



 肉と魚をいっぺんに詰め込んだウイスタリアさんが、ミースさんとミオさんの背中をフォークを持ったままバシバシと叩いている。

 困惑している2人に私から助け舟を出すとしようか。


「ウイスタリアさんはこう言ったんです。“おっぱいとデコ助は料理が上手いのだな!”と」

「おっ!? おっ……!?」

「誰がデコ助よ! このチビ助!」


「ふぁはひはふふへひひへははひは」

「分かりやすくていいではないか、だそうですよ」


「意外に煽り耐性はあるのね! あだ名は納得いってないけど……!」



 ミオさんは呆れて諦めている。

 うん、ウイスタリアさんって見た目は幼女だけど竜だし年齢で言えばこの中で1番いってるし貫禄あるからね。それに王族だからしっかりしているからね。うちの自慢の竜娘です!



「私のあだ名、おっ……なの…………?」



 未だ困惑して目が点なミースさんを置いてけぼりのまま、生真面目なヨザクラさんが咳払いして話を進めた。



「最初、この村から出されていた依頼はこの時期に現れる畑を荒らす魔物を討伐する定期の依頼でした」



 しかし、と怒り心頭といった表情で歯を食いしばりながら続けている。



「この村、あまりにも子供の数と比べての数が少なかったんです」



 大人が?

 少子高齢化と逆、いや、確かに文明レベルが進んでいなければ早死するかもだしおかしくはないのだけど、この大陸は道の整備も行き届いているし文明としては進んでいるはず。

 なら医療の分野だけ進んでいないのだろうか?



「なるほど。子供を沢山産み、何らかの儀式にでも捧げているのか」

「どういうことです?」


「土の音に違和感を感じてね。おそらく地下に空洞がある。そして傍から見たらそれが分からない――つまり知られたくない秘密があり、その問題だ。逆説的に結論はひとつだろう」



 視線に意識が向いていてそこまでは気が回らなかったなー。 地下の怪しげな設備、なんかカルトチックだ。



「その通り、この村の地下には祭壇があり、儀式の時――今夜、それは地上に現れるのよ。メカ的な仕組みで」


「メカ的な仕組み……」


 ボタンをポチっとすることでウィーンと祭壇が出てくるのだろうか。ちょっと見てみたい。

 ……いやいや、犠牲が出るのなら止めるべきか。


「でもその実質生贄みたいな人ってどうなるかまで判明してるんですか?」


「はい。村の人から探ったところ、姿はひれ伏していて分からないようですが“神秘の神”と呼ばれている存在に連れていかれるのだそうです」


「うわぁうさんくさ……」



 というか――


「そうですよね! ほんとオカルトとか意味がわかりませんよ! 神なんていないのに!」

「あ、はい」


 いや、この世界には色々といるけどね?

 まあそんなことよりヨザクラさん、ミースさんやミオさん、ハクさんはいいとして――なぜか私ひも敬語なんだよなぁ……パナセアさんすらタメ口でいってて逞しい武士だと思ってたのに。私何かしたかな? 一個下らしいけどちょっと寂しい。



「――それロンです!」

「ぐああ!!」

「サイレンはんそれは冒険しすぎやったやろ、ま、ドンマイや。サイレン銀行!」

「くそー! オレ国士無双狙えたのにー!」




 ご飯をつまみながらどこにあったのか麻雀をしている、ぽんさん、サイレンさん、コガネさん、メリッサさん。私も混ざりたいけどリーダーとして真面目な話には参加しないとだし……くっ!



ほっふぁいほははひおっぱいおかわり!」

「おっ……わかりましたー」

「ちゃんと野菜も食べるのよ!」


 爆食ウイスタリアさんに付き合ってくれているミースさんとミオさん。


「可動式祭壇か……船の内部に仕込んでみるか? ……そこに大量の兵器を搭載して暴走祭壇なんてのも――アリだな!」


 私の横でいつのまにか妄想にダイブしているパナセアさん。


「――最近なんか都市伝説で、個人識別で転売対策されているのにもかかわらずフリマサイトで売られてるヘッドセットを被ると異世界に行けるとかいうのもありますし、やはり人間はどこまでも業が深いんですよ!」


「そ、そうですね」



 何故かオカルトやミステリーについての文句を垂れてるヨザクラさん。もはやファンでしょこの熱量は。


「ごめんねー、用事が終わっ……どういう状況?」



 戻ってきたハクさんが混沌とした状況に戸惑っている。私もこのメンツでシリアスな問題を解決できるか心配になったよ。

 今この瞬間、私とハクさんはお互いに心を通わせた気がした。



 ◇ ◇ ◇ ◇



 村人は今の習わしを曲げるつもりはないらしい。

 なのであまり大人数で行動するのも下手に妨害されかねないので、本来の依頼の魔物討伐班と生贄問題解決班に分かれることにした。


 そして私が居るのが生贄問題解決班。

 メンバーは私とハクさん、パナセアさん、ミースさんだ。残りのメンバーがこの辺の魔物に怪我を負う可能性は万に一つもないらしく、どんな敵がいるか分からないこちらに回復役のミースさんが編成されている。

 他の選抜理由としては、パナセアさんが機械に詳しいから、私とハクさんは火力要因だ。


 ヨザクラさんやウイスタリアさんはバトルジャンキーな気があるので好き放題戦える魔物討伐の方に回ってもらっているのだ。



「この下に間違いなくあるな」

「人の目もあるし少し離れましょうか」

「そうね、森の方でどうするか考えよっか」



 ハクさんの提案のもと一度村を離れた。

 茂みに腰をかけ、どのような路線で行くかの相談を始めた。順番に案を出し合うことに。



「私は侵入して祭壇をストレージにぶちこんでやる作戦がいいと提案しよう」

「でも生贄なら捧げる先を何とかしないと根本的な解決にはならないんじゃない?」

「そうねー、この国の技術力ならもう一度発注出来そうだもの」

「というかパナセアさんが欲しいだけでしょ」


「ぐぬぬ……」



 パナセアさんの案は欲望まみれでガバだらけだった。次はミースさんが手を挙げた。


「いっそのこと今夜の生贄の子を攫って少しずつ村人を洗の……説得するのはどうかしら?」


「「……却下」です」

「時間的な問題もあるから難しいだろうね」



 そしてハクさんは片目をつむりながら左目を金色に輝かせながら話す。



「一度なんとか地下へ赴き、その祭壇を調査してから判断するべきだと思う。幸いその道筋は見えているから」

「そうねー、可能ならそうしよっか」

「祭壇! ふふふ……歯車のひとつまで解き明かしてやる……!」


 なるほど、とても妥当で無難な案だ。数秒前なら手放しで賛成しただろう。

 しかし今はもっと手早い方法がえてしまっているのだ。


「あー、すみません。ちょっといきなりゴールに行けそうなんですけどどうします?」

「ゴール?」


 ハクさんが不思議そうに首を傾げる。

 まあそうだよね。いきなり答えが分かるなんて意味が分からないもんね。


「スキルで……色々端折りますが信頼のおけるヒントが示されるんですよ。私の視界には黄色い線でゴールっぽいところまで見えてるんです。導きの線的なそういうやつです」


 フェアさんがアドバイスを出していることまで説明しようと思ったら彼女の素性まで話さないとだし、このくらいでいいだろう。

 その証拠に、3人は顔を見合せてから頷いてくれた。


「では行きましょうか。あっちの方角ですが……山の途中あたりに洞穴がありますね。あそこに何かが存在するみたいです」

「あっち? 山は見えるけど……」

「なんにも見えないやー」

「私の視覚にも緑しか見えないがあの辺りだとしてもここから何kmあるんだ……ミドリくんどこかの狩猟民族か何かかな?」


 たぶんここの私は下手な狩猟民族や天体望遠鏡より見えると思う。

 しかし確かにちょっと歩いていくには遠いか。私とパナセアさんなら空を飛んで行けばいいが――あ!


「ハクさん、ミースさん! この国って空飛べますか? 高度的に乱気流があると思うんですが……」


「お空? どうだったかしら?」

「この大陸を覆っている結界までなら自由に飛べるらしいよ。それ以上は結界に阻まれるみたいだけど」


 なるほど、どうやら忌々しい乱気流はここには無いらしい。じゃあちゃっちゃと行きますか。


「お二人は飛べない感じですよね?」

「人間だからね」

「お空飛んでみたいけどねー」



 スキルさえあれば人間でも空は飛べそうだけどまあいいや。それさえ分かればやることは一つ。



「では私が直通の道を空に架けるので歩いていきましょうか」

「ミドリくんそんなスキルあったっけ?」



「いでよ! 我がスーパーレインボーブリッジちゃん!」


 色神の神能で虹を作り出し、目的地まで道にした。いやー、レイさんには頭が上がらないね。便利すぎる。


「ほう……これはなるほど。ンボ子関連のか」

「すごいロマンチックなスキルなのね!」

「……神能?」


 ほらほら、置いてきますよ。

 そんなこんなでお空のお散歩コースを楽しむ私たちであった。



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