#113 天より来たる――
無事ゲーム内でも現実でも昼食を終え、満腹のままみんな揃って寝そべる。天気も良く、ポカポカでネムネムだ。
「あぅ……」
「ファユちゃん、寝ちゃいましたね」
「あったかいからねー」
「私は起きてるからみんな眠っても構わないよ」
パナセアさんが気をつかってくれているが、それはそれで申し訳ない。適当にからかって流そうかな。
「何かやましいことでもあるんですかー?」
「やましくはないが……新しい武器を作ろうかとね」
「お、何作るの?」
「やはり兵器ですか?」
「超長距離の狙撃銃とか、巨大ロボットあたりだよ。実用的なものは十分だからロマンを求めて、ね」
「おー」
「いいね!」
私も巨大ロボット乗りたい。
てか巨大ロボットまで登場した日には、シフさんの言う宇宙人と戦ったりして。
「さっきから静かですけ――マナさんも寝てますね。かわよ」
「切り替え早!?」
「――む?」
パナセアさんがふと何かに気を取られているようだが、そんなことよりマナさんの寝顔だ。世界一平和で可憐な顔面で、私まで眠くなってきた。
「みどりひゃあ〜」
「……はーい」
寝言で呼ばれた。
私も仰向けのまま手を繋ぐ。
ゆっくりと瞼を閉ざして眠りに落ちていった。
◇ ◇ ◇ ◇
「――――!」
「――い――ん」
「あと5…………秒」
「短い方かい!」
「なんですか〜? もう夜〜?」
身を起こすと少し暗くなっているような気がした。いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
「ん〜? おあようっす?」
同じタイミングでマナさんも隣で目を覚ます。
寝起きも可愛くて逆に目が冴えてきた。
「まだ夜にはなっていないが、天気が少し怪しくてね」
「ホントっすねー。撤収!」
「すごい快晴だったのに不思議な天気ですね〜」
こういうのもこの世界ではよくあるのだろうか?
それにしても、まだ寝起きで頭は働いていないが、午前遊んだ分のエネルギーは補充できたし……夜は久しぶりにソロでお忍び狩りといこうかな。
ファユちゃんはまだ寝ているようなので、とりあえずマナさんに抱っこしていて貰って、他の私たちで荷物を片付ける。
「天気は君が眠る寸前から雲が寄っていたから突然ではないが――いやそれにしても量はおかしいか」
「ものすごい分厚いよね」
「あらら、今にも降りそうな感じですねー」
「…………」
相変わらずのんびり片しながら、その予兆について話しているが明らかにマナさんの様子が変わった。様子というか、雰囲気というか。
「マナさん? 大丈夫ですか?」
「…………逃げて」
空を仰いでおっかない顔をしている。
「マナさん?」
「マナちゃん? 本当に大丈夫?」
「何かあると?」
「マナは大丈夫っす。ただ――」
マナさんの目線の先を辿る。
瞬間、曇天の中から10匹の龍と一人の人間が降りてきた。
……いや、人間ではないかもしれない。見ただけで震えが止まらない。
「この周辺は大変なことになりそうっす」
「……でしょうね」
「龍とはまたヤバそうな」
「どうする? 逃げるかい? リーダーのミドリくんに判断は任せるが」
龍はバラバラに分かれてどこか遠くに降りていく。しかし、そのうちの3匹は近くに、正確に言うとここから見えるプレイヤー、冒険者合同の防衛線へ向かっている。
ご丁寧に真正面から叩き潰すつもりのようだ。
龍が行動を開始したのを見届けて、空に浮かんでいた人は消えていった。
街中から悲鳴が響き、そこから混乱が波及していっている。
「…………私は前線へ向かいます。マナさんはファユちゃんを連れて避難、その後避難場所の防衛を。サイレンさんは避難誘導の補助、混乱の抑制を。パナセアさんは万が一突破された場合に備えて迎撃可能な位置へ。常にサイレンさんと連絡を繋いで臨機応変な現場対応をお願いします」
「ッ! マナも戦えるっよ!」
「それは重々承知の上です。ですが、この中で誰かを守れる動きができるのはマナさんだけなんです」
「そうっすか……」
まだ少し納得いっていない様子だが、紛れもない本心である。
不満そうな顔はしつつもファユちゃんを抱えてそのまま塔を降りていった。やるときはやるのがマナさんのいいところ。
「ちなみに、ぼくの方が実質的に戦力外通告されてるね」
「サイレンさんはこの中でマナさんの次に愛想がいいので。それにいざという時には町中走り回ってもらいますから」
「手放しで喜べないんだけど」
そうぶつくさ言いながら、マナさんのあとをついて降りていく。
「どうせなら私も選抜理由を聞こうかな」
「パナセアさんはかなり万能でそういうのが得意かと思いまして」
「……我ながら便利だな」
「まあ余程のことが無い限りは龍が攻め入るなんてことにはならないと思いますが、最終兵器としてウォーミングアップはしておいてくださいね」
「頼もしい限りだ。ただ――」
「?」
どこか浮かない顔のパナセアさん。
私だって、本気を出せばたぶん龍の3匹ならギリギリ何とかなるだろう。それは彼女も分かっている……はず。なのにどこに不安要素があるのか。
「君なら大丈夫だと思うが、優先順位は明確にね。何だか妙な胸騒ぎがするから、気を付けて」
「なるほど、勘は大事ですよね。気を付けておきます。優先順位に関しては…………平気です」
「そうか。では私も行くとしよう。健闘を祈る」
「はい! 【飛翔】!」
それぞれの役割を果たすため、私たちは滑空を開始した。滑空とは言えど、余計な混乱を招かないためにも翼は出さずにね。
しばらく真っ直ぐ進み、私とは逆の方向へ避難していく人々の波を上を飛ぶ。
――ん?
「あれは……」
例のお花屋さんのおじいさんだ。なぜか店の前から動かないでいる。
怪訝に思い、スピードを緩めて近づく。
「おじいさん! ここは危険になるかもしれません。急いで避難を!」
「ん? どなた……ああ、先日の。会えて良かった。さあ、これを」
「これはアクセサリー?」
「注文通り仕上げておいたからねぇ。ええ、あのお嬢さんにもよろしく伝えておくれ」
「ありがたく受け取りますが、避難してくださいね」
「そうだねぇ――――少し尋ねたいんだが、ここ周辺で一番高い建物はあの時計塔で合ってるかい?」
質問の意図は読めないが、そんな無駄話をしている暇はない。急かすように「そうです」と答えて、強引ではあるが背中を押して歩かせる。
「ありがとう、最後までお世話になりました。どうかお元気で」
「はい。押されないように気を付けて逃げてくださいね」
「えぇ。――さようなら、
無事人の流れに入っていったので、私も私の戦場を目指して、再び飛ぶ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます