間章 第七回イベント『決闘! 最強決定戦!』

###22 【AWO公式】第七回イベント、決勝トーナメント1日目ペア戦

 


 イベント前日なが、船の完成を見届けた後、商会長さんとイベント中の賭けに関する打ち合わせをした翌日。


 今日はPvPイベントの決勝トーナメント1日目である。



「どうも、休日の朝なのにお集まりいただいた物好きな皆さんおはようございます。この度運営さんのお願いで公認配信者になり、本大会の解説役にもなりました、ミドリです」


 AWOの配信やSNSは、ゲーム内からアクセスできるようにここの会社が開発したアプリなのだ。

 あらかじめアカウントを作成したりできたりと便利。

 ――そんなアプリで、AWO運営アカウントを除いた初の公認マーク獲得なのである。やったね!


 挨拶もすませたし、この配信は案件という扱いかつ公式アカウントの方で流されているため、おしゃべりは控えてお仕事をするとしよう。

 ちなみにコメント欄は見ない。いつもより人が多くて眼精疲労まっしぐらだからね。



「そして〜?」

「全世界AWOファンの皆さんおはようございます! この度本大会の実況席に座らせていただきます、田中です!」



 今日は開始から実況解説席より、黒縁メガネをしたスーツ姿の田中さんとお送りしていた。

 彼はスポーツやeスポーツの実況者として有名な人らしい。基本的に私は戦いを眺めて田中さんの実況に軽くコメントしたりAWOプレイヤーとしての見識を述べるだけ。彼に任せればきっと大丈夫だろう。



「さて、開会式の前に! プレイヤー主導の賭博が行われますので、そちらの説明からさせていただきましょう! あ、当然ゲーム内の通貨ですのでそこはよろしくどうぞ」



 賭博罪にはならないと遠回しに言いながら、私は頭に入れた脳内台本を読み上げる。


 台本はデータでもらったのでメニューを開いてアルバム機能から見ればいいのだが、私はチラチラ見ながら自然に読むのは苦手なのでね。



「プチイベント“一発当ててやろうぜ!”は王都で有名なシルブル商会の融資のもと行われます。ルールは簡単、ペア・ソロ各トーナメントでどのペア・選手が優勝するかの“単勝”。あるいは1位から3位までの順番を正確に当てる“三連単”。そして最後に3位までに入賞する2名の組み合わせを当てる“ワイド”があります」



 ここら辺は私もそれなりに知識がある。

 かなり昔お父さんと競馬場に行ったり、最近でもAWOを始める前はおじいちゃんとテレビで見ていたりしたからね。



「以上3種類の賭け方から一つだけ選んで、ペア戦ソロ戦それぞれ一度だけ賭けることができます。ベットしたい金額は銀貨1枚の100Gゴールドから設定できます。上限は手持ちの分までです」

「なかなかリスキーな賭けですねぇ」



「だからこそ“一発当ててやろうぜ!”っていうタイトルなんです。ちなみに私考案です!」


「なるほど、わかりやすくて良いタイトルですね!」



「むふんっ!」


 ドヤァとしていると、田中さんが説明の続きを引き継いでくれた。




「さて、そんなプチイベントですが、ゲーム内にいる方はゲーム内メニューの“お知らせ”から、ゲーム外からご視聴の方は専用アプリの自身のアカウントにログインして“イベント”の項目から参加できますので、そちらから是非参加してください!」


「チキン野郎じゃないならもちろん全財産賭けますよね! 私も全財産賭けましたからね!」



 もちろんパナセアさんからもらった全財産お小遣いなのだが、わざわざそれを言う必要は無いだろう。


 このプチイベントでの儲け分の8割は元手を出してる商会長さんへ行くが、残りの2割は私の分という契約で今宣伝しているのだ。

 運営も盛り上がるならヨシと承諾してくれたし、私にとっては蜂蜜のように甘い話である。

 へへへ……。


 そんなことを考えていると、ようやくペアトーナメントの開会式がはじまろうとしていた。

 選手入場で、早速田中さんの実況パワーが発揮される。



「――さぁいよいよ幕を開けようとしています、Alternative World Online、第七回イベント『決闘! 最強決定戦!』。本日は二人一組でのトーナメントとなっております」



 すごい、これがプロの実況パワーか。

 滑舌良いの感動する。



「選手入場です! 本日競い、高め合う八つのペア、計16名が堂々とした立ち振る舞いで戦いの舞台に足を踏み入れました! 会場は予選を勝ち抜いた猛者を称える拍手が嵐のように舞っております。いやー、選手の皆さんとても凛々しい顔つきですが、ミドリさん注目のペアはどこでしょう?」


「そうですね〜、ここは私の仲間を挙げたいところではありますが、実際のところGリーグ代表の“リンサ”ですかね。無難かもしれませんが、実力も連携も1枚抜きん出ているように思えますね」



 カメラがリンさんとサナさんの方にアップした。

 リンさんはそれに気付いてニッと笑ってピースをした。そんなミーハーな彼女にサナさんは横でため息をついているのが実況解説席から見えた。

 リンさんハウスではいつもの光景だ。



「興味深いですね。その辺りも含めて各一回戦のペア紹介で深掘りしていきましょう。そうこうしているうちに、開会式が始まるようです! しばらくあちらにお渡ししましょう」


「カメランヌ、いってこーい」



 田中さんの流れるような相槌の後、台本通りのカメラパスを茶化しながら見送る。







『――只今より、第七回イベント『決闘! 最強決定戦!』を開始する。主催のサクラだ』


『いぇーい、無理やり補佐として働かされてるハクサイでーす』



 クールな女性と、私の担当のハクサイちゃんが今回のイベントを決めたらしい。ハクサイちゃんは無理やりな様子だけど。



『特にこの場で話すことはない。好きに戦い、競い合え。以上だ』

『ガンバー』



 雑な開会式が終わり、ペアトーナメントが開始した。


 私はカメラが無いうちにプチイベントのオッズを確認してまぁこんなものかと考えながら、カメラが戻ってくるのを待った。






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