###23 ペアトーナメント1回戦
開会式も終わり、選手が控え室に戻ってから田中さんが会場のスクリーンにも表示されているトーナメント表を配信画面に映し出した。
§§§§§§§§
〈最強ペア決定戦〉
A.パナ・サイ─┐ ┌─E.ダークネス
├┐ ┌┤
B.ファンブル─┘│♛︎│└─F.優勝候補!
├┴┤
C.プラハ ─┐│ │┌─G.リンサ
├┘ └┤
D.勇者と聖女─┘ └─H.緑様友人ズ
§§§§§§§§
予選の戦い方や立ち回りについてはそれぞれの対戦前に話すので、ここでは私が軽い紹介だけしていく。
「1回戦、第1試合の対戦カードは! パナセア選手とサイレン選手ペア、『遠距離こそ至高』“パナ・サイ”!! 対するはキョウヤ選手とアカリ選手ペア、『はあ!? なんでお前(アンタ)なんかと!』の“ファンブル”です!!」
片方は言うまでもなくうちのメンバーだ。
もう片方は、事前情報からするにカップル……なのかな? お互いがツンデレで両片思いの超じれったい関係性らしい(当然本人達は知らない)。
ただ、連携に関しては上手かった。イチャイチャしおってと思えるくらいには。
ちなみにペア名の前の変な売り文句は同リーグの人達から募集したのを運営が独断で採用したものらしい。
「1回戦第2試合は! マイケル選手とジョン選手ペア、『インフルの悪夢』“プラハ”!! そしてハク選手とミース選手ペア、『名は体をあらわす』“勇者と聖女”!!」
前者は私から見ても理解できない戦い方をしている。解説の私が言うのもなんだが、これに関しては実際に見た方が早い。
そして“勇者と聖女”、こちらの聖女ミースさんとはイベントの人神戦で軽く面識はある。真っ当なヒーラーだった記憶通り、このペアは安定して強い。強力なアタッカーと強力なヒーラーで隙がないといった感じ。
「1回戦第3試合はこのカード! シロ選手とリューゲ選手ペア、『俺じゃなきゃ見逃しちゃうね』“ダークネス”!! 対するはミネラル選手とカロリー選手ペア、『ダークホース(笑)』“優勝候補!”」
“ダークネス”は私の知り合いというか、最強のクラン〘フロントライン〙のメンバーで、吸血鬼のシロさんと下っ端口調の手刀がメイン武器のリューゲさん。正直リンさん達とどっちに賭けるか迷うくらいには安定して強い。
そしてもう片方のペアは……まあ、はい。特に言うことはないかな。
「そしそして1回戦第4試合!! リン選手とサ選手ペア、『理不尽の極み』“リンサ”!! VS! カレン選手とトンク選手ペア、『勝利を天使に捧げよ!』“緑様友人ズ”です!!」
私がベットしたリンさんとサナさんペアは今更言うまでもない。
カレンさんとトンクさんのペアだが、こちらは私も驚いた。元邪神教の彼女らは奉仕活動の合間に予選を勝ち抜いたのだ。呪いと強襲もさることながら実姉妹特有の連携も素晴らしいペアだ。
ペアの名前に文字数制限があるためかミドリを緑にしているけど、そっちじゃないんだよなぁ。まあ一般的にはそうなるけどさ。
「――といった形でクソ真面目に紹介させて頂きましたが……会場の準備も整ったようですので、早速進行していきましょう!」
私が元気にそう言うと、スクリーンにバッと1回戦第1試合として対戦カードが表示された。
田中さんが一呼吸置いてから実況する。
「さあはじまりました! ペアトーナメント1回戦第1試合! 選手が入場します! Aリーグ代表、『遠距離こそ至高』“パナ・サイ”! ミドリさん、このペアの特徴はどのようなものでしょう?」
中央スクリーンに予選の映像がダイジェストで流れる。大体パナセアさんが初手弾幕を張っている光景が映っている。
「そうですね――ご覧の通り、パナセアさ……選手のばらまく弾丸による場面制圧力と、サイレン選手の万能なフォローが輝くペアといったところでしょうか。どの距離感でも相手にしたくありませんが、特に遠距離ですと弾幕と槍の投擲をさばくのは難易度が高いはずです」
「遠距離メインの万能型というわけですね! 隙が無さそうです! そして――」
まあ近付いたところで文字通り神と、神器持ちとやりあうしかない。ある程度の自力がなければ無理ゲーではあるが、そんなこと言わすとも映像を見れば察せられるだろう。
私の解説を聞いて、及第点に達した回答だったのか田中さんは満足気に実況を続けた。
「――対するはBリーグ代表『はあ!? なんでお前(アンタ)なんかと!』“ファンブル”!」
「こちらは逆に近接メインの戦術ですね。彼らは現実ではフェンシングとかで使われる、レイピアを武器にしています。そして阿吽の呼吸とも言える連携で心身ともに予選では相手を圧倒してきたようです。客観的に見て連携力なら“ファンブル”の方が上でしょう」
「ミドリさんの予想は“ファンブル”に軍配が上がると?」
「いえ、そこまでは断言できません。なにしろパナセア選手の高密度の弾幕がありますからね。回避系のスキルや弾丸をすべて斬り伏せられるのなら別ですが、基本的に相性としては不利でしょう。いかに距離を詰めて自分達の土俵に持ち込めるかがキーとなるはずです」
「なるほど、そこも含めて注目しましょう! ――そうこうしている間に両ペア、出揃いました!」
ここにあるカメラとは別のカメラが戦闘の舞台に現れ、映し出した。
私たちは小さな窓枠――ワイプで映るようになっている。向こうの会話もマイク機能付きのカメラが拾ってくれるので、それも含めて解説するのが私の仕事である。
『アカリ、そういえばなんだが……』
『なによ? 今言うこと?』
『あ、ああ。その……なんだ、この大会が終わったらちゃんと話したいというか……』
『な!? そ、それは私だって……で、でもまずは勝たないとだかんね!』
『分かってる。俺達なら強敵にも打ち勝てるはずだ!』
『……そうね! でもアンタがいなくたって勝てるんだから!』
『あ、ああ!? 俺だってお前が相方じゃなくても……!』
『な、なによ! 文句あんの!?』
なにこいつら。
どっちもデレデレのツンツンじゃないか。
映像越しでもイラつかせおる。リア充爆発四散しろ!
『…………ぼくらは何を見せられてるんだろう?』
『…………独り身への当てつけか? そんなに仲良しがいいならミンチにして混ぜ込んでやろうか? ハンバーグにしてやる』
パナセアさん、あんまり気にしないと思ってたけどここまで露骨だと流石にピキるよね。かなり物騒なこと言ってらっしゃる。
「ミ、ミドリさん、これは……」
「盤外戦術というやつですね。あのような演技を見せつけることで気まずくさせたり腹立たせて連携を乱す戦法でしょう」
知らんけど。
演技ではないだろうけど、解説っぽく解説するためにそういうことにしておく。
「なるほど、そのような高度な心理戦が既に仕掛けられていると!」
感心した様子の田中さん。
それが本心なのか演出なのかは知り合ったばかりの私には窺い知れない。
パナセアさんがガトリング砲を構え始めた頃、田中さんはさらにテンションを上げてマイクを握った。スクリーンに数字が表示されている。
「おっと! カウントダウンがはじまった! 3! 2! 1! ――」
「レリゴー!!」
大事な部分を掻っ攫うと田中さんはショックを受けたような表情で口をパクパクさせながら私の方に視線を向けた。
しかし、彼もプロだ。すぐに持ち直してバトルの実況のためにカメラに向き直る。
「さぁ開始早々弾薬の洗礼が見舞われた! どう凌ぐ“ファンブル”!」
実況の通り、開始と同時にパナセアさんのガトリング砲が火を噴く。
『『【磁石・N極】!』』
カップル(仮)が何らかのスキルを使って弾幕の範囲から逃れた。私の【縮地】と同じくらいの速度だ。
そして続けざまに【走術】のアーツ、【疾走】でカップルはパナ・サイコンビから距離をとったまま周回している。
戦闘開始がお互い中央付近なので綺麗な円を描いていた。
「おーっと! 一定の距離を保ったまま狙いが定められないように走っているぞ! これは何が狙いなんだ!?」
「最初に大きく動いたのはスキルの名前からして、反発する性能なのでしょう。その後の【疾走】は撹乱……いえ、これは――」
なるほど、狙いを定めさせないためではない。
「クールタイム稼ぎというわけですね」
『【磁石・N極】!』
『【磁石・S極】よ!』
今度は引き寄せられるように一瞬でパナ・サイコンビを挟む形で接近した。
道理でパナセアさんの追撃が入らないわけだ。とっくにカップルの狙いを察したパナセアさんはガトリング砲を捨ててレーザーブレードを手にしていた。
彼女も初動から読んで警戒していたのだろう。そしてその推測もサイレンさんに共有していたようで、それぞれの獲物がぶつかり合って火花を散らす。
「これは一体どのような駆け引きが行われているのでしょう……!」
「おおかた【磁石】というレアスキルといったところでしょうか。それぞれの性質を獲得して吸引と反発の効果が出ているのでしょう。パナセア選手達もスキル名から次の行動を予測して誘いには乗らずにちゃんと迎撃していますね」
つらつらと喋っているが、要するにパナセアさんの方が戦術面では上を行っている。その証拠に――
『サイレンくん!』
『うん、【始原の海】』
「槍から水が出て“ファンブル”の2人を押し流す! そしてサイレン選手、波の上に立ったぞ!?」
「かなりの水量ですね。膝の高さほどまで到達する海のフィールドになりました。しかしなかなかえぐいことをしますね」
「パナセア選手、手をスポッと外して筒状の金属を出した! 電気が迸っている! 何をするつもりだー?」
「膝の高さほどある海水、そして電気。……つまりはそういうことです」
パナセアさんは体の一部にしている筒を海水につけた。瞬間、電撃が目に見えて拡散した。
カップル2人は感電死まではいかないにしろ、麻痺的な効果が現れている。パナセアさん自身は電撃系への体制があるのか普通に動いているし、サイレンさんは靴で水上に立っているから感電はしていない。
「動きが止まった! そしてそこに容赦ない一撃が見舞われるー!」
「これは決まりましたね」
槍が心臓部を、ビームの剣が首を飛ばして決着。
スクリーンに勝者達が映し出された。
「Winner! “パナ・サイ”!! いやー、あっという間の決着でしたが、ミドリさん、いかがでしたか?」
「そうですねー、弾幕への対策として回避の手札を持っていたのは良かったのですが、もう一押し欲しかったですかね。一貫して場面制圧力が“パナ・サイ”側の方が上で、“ファンブル”は後手に回っていた印象です」
「なるほど、手札の多さで勝敗が決まったといった形でしょうか」
「それもありますし……少し勝負を急ぎすぎたのもありますかね。【走術】のアーツ、【疾走】による時間稼ぎは良かったと思いますが、【疾走】より先に習得できる【持久走】を切ってから相手の銃撃の間合いギリギリを効果時間まで走るべきでしたね」
指をクルクルさせながら真面目に解説する。
「傷を少し負ってでもせめてパナセア選手に近接武器を持たせる隙を与えないことに注力すべきでした」
「より意表をついたらもしかしたら、ということですか! 駆け引きは難しいですね!」
田中さんの相槌的にそろそろ次に行きたいのだろう。ごめん、つい楽しくなっちゃって。
まあでも、実際パナセアさんが銃を持っていてもサイレンさんを何とかできないとすぐに持ち替えられるけどね。だから遠距離でサイレンさんを倒して近距離でパナセアさんを倒すのが1番楽なのだが……今回はペア戦だからお互いフォローし合っていて難しいだろう。
「そうですねー、駆け引き、特に当人になると難しいですからね」
「ですね! ……さて、もっと語りたいところですが、次の試合もすぐに始まるので切り替えましょう!」
そうして1回戦はスムーズに進行していく――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます