#19 【AWO】パーティーを組みます【ミドリ、マナ】

 



 現実は雨、ログインすると快晴。

 こういうのもこのゲームの醍醐味だいごみだろう。



 昨日貰った白い天使の正装のような服に着替え、その上からケープマントを羽織る。準備完了。




 大部屋に行くと、マナさんとブランさんが朝食の支度をしていた。




「おはようございます」



「おはようっす!」

「おはよう、食べていきな」



 着席を促されたので座る。この様子だともう作ってしまったのだろうし、頂こう。




「ほら、お前さんも食べな」


「昨日言ってたやつっすか……」



「そ」


「…………分かったっす」




 そう言って隣の席に座る。

 昨日マナさんが寝る前に冒険のことを言っていたのかな。


 出されたメニューは、小さなコッペパンのようなものと野菜スープ。美味しそうだ。



「いただきます」

「いただきまっす」



 ????



「どうかしたっすか?」


「いえ、何でもないです」




 まさかそこに語尾を入れるのか。不自然極まりなくて凝視してしまった。




「いただきますの場合、いただくっすとかでいいと思いますよ」



「変だったんすか?」



「まあ、多少」


「分かったっす。いただくっす」



 仕切り直して朝食を食べ始める。

 薄味だけど、朝食だしこれぐらいが丁度良い。




「マナさんは戦えるんですか?」


「盾を振り回すぐらいならできるっす」




「剣とかではなく?」


「そうっす。何となくっすけど、記憶があった時もそうだったんだと思うっす」




 うっすら残ってる記憶の残滓ね。そこまで言うならそうなんだろう。


 ただ、このままだと構成が完全にまずい。

 私は飛び回って一撃必殺の大剣、かたやマナさんは防御しかできない。


 噛み合ってない。他にも後衛が居ればマシになるから、本格的に仲間を探そうかな。




「ごちそうさまでした」

「ごちそうさまっす」


「ほれ」




 食べ終わって立ち上がると、ブランさんが巻手紙をこちらに軽く放り投げてくる。




「これは……?」


「冒険者ギルドの受付に出しな」




 それだけ言って、子供たちの部屋に向かってしまった。よく分からないが、マナさんをお願いします的なやつかな?




「行きましょうか」


「はいっす!」




 マナさんの格好は修道服で、木の大盾を担いでいる。


 それはいいとして、問題が残っている。

 配信のことをどうやって説明するかだ。


 チャット欄の共有ができれば楽なんだけどね。


 頭おかしいと思われたくはないが、言ってみるしかない。



「あの〜」


「?」



「実は私、配信というのをやってまして――」




「そんなんすね。 それならマナもだらしないところ見せれないっす!」





「え?」



 何故分かる? 何故知っている?

 他のプレイヤーが話したのかな?




「知ってたんですね」


「う〜ん……何か覚えてたっすね…………」



「!?」



 記憶が失われる前から知っていた? そういうプレイヤーと関わりがあったのかな?




「…………げえむ?」


「な!?」




 マナさんが、ポツリと口からこぼれ落ちたようにそう漏らす。


 そこまで理解していたのか。でも本人も不思議な顔しているし、意味までは覚えてないのだろう。


 この人、何者なんだろう?




「記憶戻ると思ったんすけど、全くでしたっす」



「そうですか……」



 文字は書けないのに、配信やゲームのことは知っていて、名前も辛うじて覚えてる。


 エピソード系の記憶を中心に失っているのか。



「配信が何かは覚えていますか?」


「多くの人が別の場所から見れるやつっす」


「正解です」




 大体合っている。

 説明は省けたけど、謎が深まった。

 私もマナさんの記憶が戻るのが楽しみになってきた。




「とにかく、その配信を始めるので一緒に挨拶だけお願いします」


「了解っす!」




 メニューからいつも通り、告知と開始のボタンを押す。カメラが現れ、歩いてる私たちの正面に来るまで待つ。




「おはようございます。ミドリです」




「こっちっすか?」


「そうです」




 マナさんからは見えないであろうカメラの位置を教える。




「おはようっす! マナっす、よろしくっす!」





[唐揚げ::おはミドリ]

[壁::おはミドリ〜]

[ギガ社員::ライブ初見です]

[ベルルル::おはミドリ!]

[蜂蜜過激派切り込み隊長::おはミドリ〜]

[病み病み病み病み::おはミドリ〜]

[枝豆::おはミドリ〜]

[芋けんぴ::友達?]

[階段::よろしく〜]

[紅の園::かわいい。よろしくね〜]

[天変地異::よろしく]





「よろしくと歓迎されてますよ」


「嬉しいっす!」



「皆さん、こちらは私の……知り合い? でしょうか?」


「親友っすよ!」




「私の友達のマナさんです。色々ありまして、一緒に冒険することとなりました。プレイヤーではないので、カメラもコメントも見えないのですが、何かありましたら私を通してください」



「親友じゃないんすかー?」



「まだ会って一日でしょう」


「ぶ〜」



 親友というのは、もっと長い間共に居て心を通わせた人のことだ。居たことないんだけどね。



「今日は、配信のタイトル通り仲間探しと依頼をします。今日は休憩を挟んで丸々やるつもりなので、ご了承ください」





[金魚のフン::了解!]

[蜂蜜穏健派下っ端::承知!]

[あ::はいよ〜]




 そうこうしているうちに、冒険者ギルドの脇まで来ていた。ここら辺の地形、理解わかっちゃったよー。



「入りましょう」


「はいっす!」




 二人で足並みを揃えて、冒険者ギルドに入る。

 朝というのもあって、中は多くの人で溢れかえっていて、職員たちは忙しそうだ。



「登録のために並びましょうか」


「長そうっすね〜」



「ですね。……そういえば、マナさんって何レベルなんですか?」



 並びながら、暇潰しに質問タイムといこう。お互いのことを知ることで一層仲良くなるし。



「1っす」


「1!?」



「変っすか?」


「いや、まあ…………いえ変じゃないです」




 小さな子供とかなら兎も角、私と同い年ぐらいでこんな物騒な世界で1レベルで生きているのはすごいと思う。

 普通、多少なりとも上がってるだろうに。


 謎が深まっただけになってしまった。



「ミドリさんは何レベルなんすか?」



「えと……ステータスオープン」


######


プレイヤーネーム:ミドリ

種族:天使

職業:大剣使い

レベル:18

状態:正常

特性:天然・善人

HP:3600

MP:900


称号:異界人初の天使・運命の掌握者・理外の存在・格上殺し・協力者



スキル

U:ギャンブル・職業神(?)の寵愛


R:(神聖魔術2)・飛翔2・天運・天眼・天使の追悼


N:体捌き2・走術1



職業スキル:筋力増強3・大剣術2


######


 確認を怠っていて忘れたので、確認。ぼちぼちかな。




「私は18レベルでした」




 そういえば、ステータスの称号とかを確認すれば身元の特定できるのでは?




「ステータスに記憶の手掛かりって無いんですか?」


「無いっす。見えなくなってるんすよ。名前、種族、称号、スキルと全部っすね」



「記憶が無いとそれも表示されないんでしょうかね?」


「さあ? 他に記憶が無い人と会ったことないっすからねー」




 そんなポンポン居るようになったら滅茶苦茶怖い。



「次の方ー!」



 あまり実のない話をして、親交を深めていると、受付の人に呼ばれる。




「行きましょう」


「ふぁ〜いっす〜」




 欠伸あくびをしながら着いてくるマナさん。朝だから仕方ないよね。




「これ、お願いします」



 行く前にブランさんから預かった手紙を、言われた通り受付に出す。




「はい。ご確認します………………うげぇ」


「どうかしましたか?」



 内容を読んでうなっている。

 流れから察するに、冒険者ギルドにコネがあるのは確実だけど、どんなことが書かれていたのだろう?




「……冒険者カードをお願いします」



「? はい」




 ストレージから取り出して手渡す。



「お預かりします。あ、貴方はこちらにサインを」



 規約の書類がマナさんに渡る。

 真剣な面持ちで内容に目を通していっている。


 その間、受付の人は急いで何かをしている。



 手持ち無沙汰になったので、マナさんの様子を見てみると、必死に名前を書いてる姿が目に映る。


 文字練習、してたからね。


 手伝おうかな………いや、それは失礼か。

 あんなに真剣に集中して一生懸命書いているんだ、野暮だろうね。





「できたっす!」




 満足感MAXのキラキラとした目で書いた文字を見せてくる。子供みたいで愛らしい。




「上手です」


「えへへ、実は文字書けなかったんすけど、ここまで書けるようになったっすよ」



「えらい!」


「えへへへ」




 思わずでてしまった。可愛いなぁ〜。



「んんっ!」


「あ、すみません」




 受付の人の咳払いで現実に引き戻された。




「こちら、お預かりします。そして、どうぞ」


 受付の人は、マナさんのサインの入った規約書類を回収し、小さなカードを私達に渡す。



「これは……!?」


「かっこいいっす」



「特例です。あ、規約にもあったと思いますが、そのランクからパーティーの登録が出来ますので。次の方ー!」




 あっさり流され、適当なテーブルに座って休憩。



 私達の手には、Eランクと書かれた冒険者カードが。


 そう、私は昇格、マナさんは飛び級的な感じのやつである。



「コネって凄いですねー」


「こねこねっすか」



「違いまーす」


「あははは!」



 感心して脳死の会話をしてしまった。

 しっかり、私!




「とまあ、次へ行きましょう」


「次っすか?」



「今回限りでもいいので、ある程度横の関係を作って、本命の仲間を見つける作戦です」


「おぉー」




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