#アシオト#

 



「久しいですな、道化」


「黙らっしゃい。筋肉塊アホ




 静寂に包まれた路地裏に、老婆と外套を着た大男が向かい合っている。




「何故あの短剣を手放したのですかな?」


「どこかの脳みそ筋肉なやつには分からないだろうが、時代というのは移り変わるんだ」




「そんなのは理由にならないですな」


「……そんなに憎いか?」





「道化には分からないだろうな、妻を守れなかった屈辱は!」


「お生憎様、独り身なもんでねー」




 意趣返しといった感じで同じように煽るも、大して効いていない様子を見せる。




「まぁいい。終わったことに干渉できる力は俺には無いのだから常に行動しなければいけないというものですな」


「嫌味か?」




 大男が、鼻で笑う。




「分かっているじゃないか」


「ったく、口調を統一しろ」




「お、本職の道化に言われては勝てませんな」


「要件に入る前に、一つだけ言わせろ」



「む?」


「緑色の長髪の天使に手を出すな」



「それは分かりませんな。邪魔をするのであれば、容赦はしませんな。もしや、彼女に託したのですな?」


「忠告はした」




 荷物をまとめ、動く準備を始める老婆。




「さあ、本題に入りましょうな。どこに居ますかな?」


「奈落だ」




 老婆は、内容の重さとは相まってあっけらかんと言う。



「……面倒な」


「彼女らしいだろう?」




 背を向け合う。




「用は済みましたな。お互いの復讐が上手くいくの願っていますな」


「別にヘンテのは復讐じゃないんだけど」



自分を奪われた・・・・・・・のによく言いますな。おや、どちらへ?」


「ここはもう用済みだから、他へ。奪われたものを取り返すのは復讐じゃないんだよ。君みたいな復讐に囚われた者が七徳に数えられるのは不可思議で仕方ないよ」




「お主が未だ生きながらえてるのも些か疑問ですがな」



「ふん」




 優しい挨拶など無しに、二人とも姿を消す。

 残された静かな町は、まだ眠っている――――













「行くか」



 フードを被った人物が、夜に紛れて最初の町を出た。






 そして夜が明ける。

 人々は、勝手にいつも通りの日常の上を踊り始める。









 異物に、気付かぬまま。










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