##45 【AWO】子守り【ミドリ、どらごん、ウイスタリアさん】

 


 昼食を済ませた私は、ウイスタリアさんとどらごんを連れて町をうろついていた。

 葉小紅さんは普通にお仕事で、エスタさんは行きたいところがあるそうで、子守りを任されてしまったのだ。




「こんにちはー、ミドリです」

「我こそはウイスタリア・メチャツヨ・ボルテスタである!」

 〈どらごん〉



 ウイスタリアさんには配信のことを説明したが、理解できていなかったようなので、小人が見えない窓越しに私たちを見ているという感じの設定にしておいた。




「今日はお祭りの準備を手伝いをします。といっても屋台の設営くらいですかねー」



[タイル::高頻度たすかる]

[セナ::こんにちわー]

[ごま油::お祭りあるのか]

[バッハ::こんミドー]

[焼き鳥::ウイスタリアたんかわいい]




「つまみ食いもあるよな?」

 〈どらごん?〉


「無いです。でも、ちゃんと働いたら後でおやつにアイスでも買いますから」



「やった! 我働くぞ!」

 〈どらごん!〉


 やっぱりこの子達似てるなー。



 なんて、ほのぼのしながら手伝えそうな所を探す。



「すみませーん、お手伝いしましょうか? 私たち、こう見えて力持ちなんですよ」


「そうかい? この飾りを屋根に乗せようと思ってたんだけど……」



「我に任せるのだ! とう!」



 軽く跳躍して飾り付けをしてくれた。元気が有り余っている様子だ。



「おー、こっちもお願いできるかい?」

「わりい、こっちも頼む!」

「すげえな。うちの屋台も――」



 今のを見ていた人たちがどんどん頼みごとを持ち込んでくる。次々とそれらのお手伝いを、私たちはスムーズにこなしていく。



 いやー、たまにやる労働もいいものだ。



 ◇ ◇ ◇ ◇


 お手伝い開始から2時間ほど経過した。



「ふぅ、労働の後のアイスは格別ですね……」

「あたまがきーんってするのだああ!!」

 〈どらごん〉



 近くの駄菓子屋で売っていたアイスで休憩していた。冷凍庫のような魔道具で保存していて、時代に合っていない違和感はあるが、それ以上にアイスが美味しいのでなんでもいい。


 保存系の魔道具は今まで見たことないし、冷凍庫もここにしかないという噂だが、どこで手に入れたのだろうか。




「頭きーんはおでこを冷やすとマシになりますよ」

「本当か? ……本当だ!」




 私の助言を素直に受けとって、アイスの包みを額に当てている。ちなみに、脳の血管を収縮させることによって痛みを和らげるみたいな原理だったはず。




「――む、どこぞの堕天使――ミドリだったか?」


「あ! 仙老さん。どうもお久しぶりです」



 以前、イベントで一緒に肩を並べて戦った仙老さんがたまたま通りがかった。あの時と同じ渋い雰囲気だ。



「久しぶり、という程でもないがのぉ。む、竜巫女も一緒なのか」


「おや、顔見知りで?」


「あん? …………仙老か! 偶然だな!」



 お互いに面識があるようだ。

 どちらも強者を求めている系の人だから割と意外でもない。



「こやつは我の住処に現れた異界人の竜人、その仲間だぞ!」


「もともと儂はここが初期のリスポーン地点とやらでな。それから竜の渓谷へ行き、竜人の異界人と知り合ったり巫女と会ったりした流れじゃ」



 なるほどねー。どうやって海を渡ったかは気になるけど、この人の人間離れ具合からして海の上を走るなんて余裕で出来そうだし野暮だろう。

 それ以上に気になるのは――



「ここが初期リスなら、人間ではない感じで?」


「ああ、最初は落ち武者じゃな。種族進化して今はSAMURAIになっておるがのぉ……」



 ふざけた種族名だ。

 その名に恥じないくらいの強さを持っているのだけが救いになっている。



「御託はよかろう? 約束を果たすときじゃ」


「あー、そういえば次会ったら戦うとか言いましたね。やりますか」



「ずるい! 我もやる!」



 ウイスタリアさんが駄々っ子のように割って入ってきた。ゲームをねだる子供みたいな感じだが、実際は戦闘というのが恐ろしいところである。


 しかし、この人のあしらい方はかなり慣れてきた。食いしん坊だから食べ物で釣れば一発なのだ。



「夕食前に禁断のおやつ、しちゃいます?」


「しちゃうぞ! よし、立会人は我とどらごんに任せるのだ!」

 〈どらごん!〉



 チョロい。



「場所、変えましょうか」


「そうじゃな。町外れに儂の拠点がある。そこには十分な場所も確保できるからそこで構わんか?」


「どこでもいいですよ」


「ではこっちじゃ」




 私たちは仙老さんの先導で町の外へ向かって進んでいく。




「そういえば、仙老さんって技使う時にスキルのエフェクト出てませんけど、あれって――」


「スキルなぞ使ったらかえって動きにくいだけじゃからな。素の剣技じゃよ」



 イベントの時に見たのは、光の速さで天使の軍勢を圧倒していた姿。ステータスの力が乗ってるとはいえ、常人にあんな芸当は成し得ない。

 一度の振りで数多の斬撃を生み出すのが素だとするなら、現実でもできてしまうことになる。



「……化け物では?」



「ケッケッ! よく言われるわい。しかし、儂もかれこれ剣を振り続けて70……む、80だったか? あまり覚えとらんがそんなもんじゃからな」




 どちらにしろ元気なお爺さんだ。

 これならこの人の子供や孫も安心だろう。



「すごいですね……そんなに長い時間、ひとつのことと向き合うのは相当の胆力が必要でしょう」


「若い割にしっかりしておるな。剣術に限らずじゃが、極めた先にしか見えてこないものもある。儂はただそれを追い求めていた――馬鹿野郎なんじゃよ」



「馬鹿なんて、私には思えませんけどね」



 とても、羨ましい生き方だ。皮肉でも何でもなく、純粋に憧れる。




「――――のぉ、堕天使の」


「ミドリです」




「一を究めし者と全を修めし者、どちらが秀でていると考える?」



「……難しい質問ですね。ただ言えるのは、優劣をつけることではないでしょうね」




「ほう?」


「貴方の仰っていたような見えてくるものが、それぞれ違いますから」



 だから、自分の景色しか分からないから、別の道に惹かれてしまうのだ。私みたいな中途半端な……いや、それ以下な人間からしてはこの人を羨ましく思う。逆に仙老さんが、違う道を選んでいたらと夢想するのも当然のことだ。



「貴方は貴方の選んだ道に誇りを抱くべきでしょう」


「――ケッケッケッ! たしかに、今の問いは儂自身の後悔の表れか。若者の説教もたまには聞いてみるものじゃな!」




 まあ無理もない。

 この世界ではスキルというものがあって、それを使えば簡単とはいかずとも、仙老さんのような常軌を逸した訓練はしなくてもいいのだ。

 強者と戦う機会もあるだろうし、そんな後悔が顔を出したのだろう。



「まあ、こうは言いましたけど、今回の勝負は譲りませんよ。貴方に比べたらちっぽけでも、私にとっては大切な思いの積み重ねがありますから」



「ほう、それは楽しみじゃ。もちろんこちらも手加減はせぬ」




「ふぁあわぁ……難しい話は眠くなるぞ…………」

 〈どらごん……〉



 うん、なんかごめんね。あとでお菓子いっぱい買ってあげよう。


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