##21 ひとりぼっちの吸血鬼
「――その心配は要らない。ここが貴様ら侵入者の墓場だからな」
口ぶりからしてここを守っているのだろう。しかし、こちらも大人しく帰るつもりも負けるつもりもない。
様子見がてら私から接敵した。
「ふっ!」
「【速射】」
「遅い【デッドリーダンス】」
謎の舞で私の攻撃を難なく避け、パナセアさんの銃弾も躱される。動きが洗練されており、どこか貴族の舞踏会を彷彿とさせる。
「冥途の土産に聞かせてくれよう。我が名はアルマ! 偉大なる
「……え、シロさん関係の人なんですか?」
「知り合いかい?」
「えぇ、イベントとかでときどきお世話になっていました。私的には友達だと勝手に思ってます」
初対面は帝国で、最後に会ったのは公国にいる時のイベントだ。言われてみれば彼女の赤い瞳と目の前の人の瞳は瓜二つな気もする。シロさんが吸血鬼だからこの人もそうなのだろうか。
「――外見と内面の特徴を言い当てれば信じてやろう」
意外とすぐに思いとどまってくれたようで、戦闘が中断された。きちんとシロさん側の人間か確かめるために内面も聞いている辺り、相当大事にしているのが窺える。
「シロさんは黒髪のサイドテール、貴方と同じ瞳を持っていて、身長は私より大きめですけどたぶん年下ですかね。ツンツンしてるところもありますけど、基本的にノリが良くて優しい子かなと思います」
「……今
「確か天空に浮かぶ島へ向かっているとかいってましたね。絶賛向かってる途中かもう着いているかは知りませんけど。あ、でも元気に仲間たちと仲良くしてましてたよ」
「そうか、元気ならよい」
最初に出くわした時の殺意とは打って変わって優しい表情を浮かべている。完全に親の顔である。
しかし、一抹の寂しさに似た感情も孕んでいる顔に私には見えた。私は剣を納めて詳しい話を聞くことにした。
「シロさんとの関係にここを守る理由、よければ聞かせてもらえませんか?」
「私としてはまず奥まで調査したいがね」
「
向こうも武器を仕舞ってくれて、完全に信用したのか背中を向けて着いてくるように言った。私たちはそれに従って、のんびりと遺跡の奥へ進む。
ここの住人にして吸血鬼のアルマさんに案内されて数分ほど歩いた。すると、現代的な研究室のような部屋に辿り着いてしまった。部屋には怪しげな機械が大量に並んでいる。
「生者をもてなせる物は無いが適当に座るといい」
「どうも」
座るところが床しないというツッコミはナンセンスなので黙って座る。話を聞く気満々の私とは別に、パナセアさんは部屋の物を片っ端から弄り出している。
「彼女は気にせず事情説明お願いします」
「そうか。では遠慮なく話させてもらう」
◇ ◇ ◇ ◇
自己陶酔と過度な脚色にまみれた回想を浴びたので、私が現実フィルターをかけ直して要約する。
アルマさんとシロさんの出会いは霧の外、魔王国内の廃れた片田舎の墓場らしい。吸血鬼というだけで命を狙われていたシロさんが、彼の眠る地に逃げ込み、そこで彼に血を浴びせたことでアルマさんは吸血鬼として目を覚ましたようだ。
アルマさんはもともとかなり昔の魔人族の貴族で、相当強かったのもあってシロさんを守りつつ共に国内各地を転々としていた。そんな無意味な逃避行の最中、強敵に執拗に迫られこの霧の中へ逃げ込む。そして、霧の中から脱出できなくなりシロさんだけリスポーンによって出した、とのこと。
「迎えに来るように言わなかったんですか? 彼女なら世話になった人を見捨てるとは思えませんが」
「すぐに合流すると……自分一人ならなんとでもなるからと納得してもらったからな。騙してでも、あの方には進んで欲しかったのだ」
彼女も薄々気付いているかもしれない。でも、それでもきっと大丈夫だと信じたのだろう。
当事者間で完結しているのなら、私もこれ以上口を挟むつもりは無い。ここに来たのが私たちではなくシロさんだったら良かったのだが、彼の望み通り進んでいるからこそ、もうここにはいないのだ。
「――なら、貴方も一緒にここを出ましょう」
「何?」
「彼女の中でほんの僅かに残っているかもしれない不安を拭うために、また会いに行きましょうと言ってるんです」
「そう、だな。しかし……」
きっと今更会ってどうすればいいか分からずに逡巡しているのだろう。表情でまるわかりである。別れてからもうかれこれ数か月経っているらしいから気まずいのは分かるが、そこは保護者ムーブかました自己責任だと思う。
「まあまずは出る方法を探さないと始まりませんけどねー」
私たちはともかく、アルマさんは正攻法で帰還する必要がある。
そんなこんな話を進めていると、大きな物音が後ろから聞こえた。何かが開いた音である。
「パナセアさん、それ……」
「隠し部屋があったから開けてみた」
いや開けてみたじゃないのよ。何の
「こっちもまた機械だらけですね」
「完全に趣味のものみたいだがね」
趣味とはなんぞ?
頭を傾げていると、補足をしてくれた。
「爆発物の開発関係の物だ」
「爆発物ときましたか……」
「ああ、私の父だからすぐ分かったよ」
「なるほど。だから隠し部屋とか見つけられたんですねー」
…………ん? んんんん?
「ちょ、ちょいちょいちょいちょい!!」
「ん?」
「父ってパナセアさんのお父さんってことですか!?」
「その通り。ここでは技神などと呼ばれていたようだ」
リアルファザーがここに居たというのにこの淡々とした態度。しかし、これほどの設備となるとかなり高レベルのプレイヤーになると思うが……ん? 技神って言った?
「たぶん技神って私が使っていた{吸魔剣2号}の製作者なんですけど、相当昔の神だとシフさんが言ってましたよ?」
「父はこのゲームの開発陣だから当然だ。
「時間軸を弄ってるってどういう……?」
「
そんなことができるのか……。いや、それを言ったらNPCに人間と区別のつかないようなAIを搭載しているから今更か。
「何より、公式から謎のキャラクターとしてぬいぐるみも出ていたから、そういうことなのだろう」
「……ぬいぐるみって何なんですか」
「運営のおふざけ兼伏線なのだろう」
「でしょうね」
段々脱線していっているので話をこの隠し部屋の機械にまで軌道修正する。
「それで、この大量の爆発物開発装置はどうするんです?」
「全部叩き壊しておく」
そう言いながら銃を乱射し始めた。なんだかご機嫌斜めなので特にツッコミも入れずに隠し部屋を去った。そっと扉も閉めておく。
「騒がしいが大丈夫なのか?」
「お構いなく。すこし危険な物を処分しているだけなので」
「そうなのか? 随分と物騒な方法なのだな」
目を背けて無視で誤魔化す。背中側から幾度となく銃声が聞こえてきて、念入りにしっかりと壊して回っているパナセアさんの姿が脳裏をよぎる。
「待たせたね。すべて壊しておいたよ。それに遺跡調査の目的としての資料もいくつか集めておいたから、いつでも出発できるがどうするかね?」
「じゃあもう行きましょう。アルマさんもいいですね?」
「……そうだな。いつまでもここにいるわけにもいかない」
「よし! では、
私たちは遺跡の入口まで戻って外へ向かう。
たとえ進む先が暗闇でも、自分たちを信じて確かな足取りで進まねばならない。アルマさんもきっとそういう決心があったのだろう。彼の表情は、初対面の時より決意に満ち溢れていたのであった。
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