##20 お宝探しへ
魔王城内の訓練場。日差しがダイレクトで差し込んでいる。
「おつかれさまでーす」
「おつかれ。しかし、戦うにつれて強くなるな?」
「成長期真っ盛りですからね。貴方に素の戦闘技術だけで勝てるようになれるのもそう遠くないですよー」
「いいぜ、のぞむところだ」
私はコガネさんらが魔王国の用事をしている間、特にすることもないので、四天王のテメリテさんと稽古をしていた。彼女は先日の戦いでパナセアさんと戦ったそうで、そのリベンジに燃えているのを見かけて手合わせを申し込んだのだ。それが昨日のイベント前の出来事。
私たちは約束通りたくさん戦ってから、昼休憩に一度食堂へ向かっていた。
「お二人とも鍛錬ですか。お疲れ様でした」
「あ、ソルさん。どうも」
「よぉソル嬢! あんま勉強ばっかしてっと体が鈍るぜ」
図書館帰りのソルさんが通りかかった。その手には山積みの書類を抱えている。
魔王さんの娘だから勉強は必要なのだろう。
大変そうだなーと他人事のように思っていると、ソルさんは困り眉をつくって苦笑いをした。
「勉強だったら楽なのですけど、実はわたくしの預かっております領地で遺跡が発見されまして」
「なるほど、面白そうですね」
「それとその書類はあんま関係なくね?」
それは確かにそう。新発見の遺跡なんて現地調査が1番手っ取り早いだろう。
「……発見された場所が問題なのです」
「遺跡の立地ということですか」
「おいおい――」
「そうなのです。遺跡があるのは魔王国の最北端、その一帯を覆う
「へーそうなんですか」
「――――」
明らかにテメリテさんの様子がおかしくなっている。喜怒哀楽でいうところの怒だ。歯ぎしり音が隣の私にまで聞こえてくる。親の仇か何かだろう。
「えーと、その
「その名の通り黒い霧に覆われている場所でして、一歩でも入った者は二度と帰ってこないと言われています。なので遺跡の発見は当然魔道具による魔力検知で発覚したのです」
物騒極まりない。でもそういう未開拓の場所ってワクワクしてくるよね。
「ソル嬢、調査なら――」
「それは許可できません。四天王の責務がありますので」
そうか、と渋い顔を浮かべているが、自身の立場は分かっているようで、ちゃんと諦めたようだ。しかし魔王軍の幹部である彼女でも帰ってこられない可能性がある場所かー。
「ちなみに、その書類はその遺跡に関することを調べたやつですか?」
「ええ。これは図書館で集めてきた
熱心なことで。
「ソルさんソルさん。ちょうど暇な、死んだら復活して霧から抜け出せる人材に調査してもらうのはどうです?」
「そんな方がいらっしゃるのですか?」
ソルさんは、そんな都合の良い人材がいるのか不思議そうに首を傾げている。そもそも異界人がリスポーンすることを知らないのかもしれない。いずれにせよ、私は自慢げに、高らかに胸を張って言いのけた。
「――誰であろう、この私です!」
◇ ◇ ◇ ◇
「むんむんむ~ん♪」
「今日は随分とご機嫌だね」
「だって遺跡ですよ! 遺跡!」
「はしゃぐ気持ちもよくわかるが、警戒は怠らないように」
「はーい」
昨日の昼からソルさんが頑張って手続きをして、遺跡調査の準備をしてくれた。そしてせっかくの遺跡なのでパナセアさんもお誘いしたのだ。今は用意してもらったワイバーンに乗っている。御者の人は背中に乗っているが、私たちはワイバーンの足に直で掴まれている。急な要請でワイバーン急行便の空きがなかったらしいのだ。
快適とは言い難いけど、体に力を一切加えないでいい点は楽と言えるかも。
「おーいお客さーん! そろそろ着陸するから降りる準備しときなよ!」
「はーい!」
「なるほど。あれが
前方の一帯、何ならここから見える海の手前まで真っ黒な霧で覆われている。深海の方が明るいのではないかと思えるぐらい中の様子は全く窺えない。あそこに入ったら帰ってこられないというのは間違いないだろう。
霧の近くまで行ったところでゆっくりと下降し、地面の少し上からワイバーンの足は掴むのをやめた。
降りる準備というよりは落とされる準備が必要だったと思う。流石に怪我するほどの高度ではないから何の問題も無く着地できたからいいんだけどね。
「よっと! ここまでありがとうございましたー」
「なかなか爽快な空の旅をありがとう」
「……まあなんだ、生きて帰ってこられるのを祈ってるよ。事情は知らんがせいぜい頑張んな!」
御者さんが熱のこもった激励をくれた。素直にそれを受け取ってお礼を言ってから、私たちは改めて
「さて、予定通りいきますか」
「ああ。機械の調子も特に問題は無いから、早速入るとしよう」
そう言って地面に1本の杭を打ち込み、足並みそろえて踏み込んだ。
「パナセアさん?」
体が完全に入ったところでパナセアさんの足音が止まった。霧で何も見えないけど立ち止まっているようだ。離れないように一応腕を握っておくことにする。
「悪いニュースが2つある。どちらから聞きたい?」
「いやそれ選べないじゃないですか」
「それもそうか。まあ1つは外に打ち込んだ杭からの超音波信号が途絶えたことだ。これはもともと折り込み済みだからいいだろう」
「やっぱりでしたか」
リスポーン以外の方法で脱出する算段もしてきていたが、予想通りそう都合よくはいかないようだ。ソルさんが集めていた資料では魔力感知による脱出方法の記述もあったので、失敗している魔力とは関係のない方法にしたのだが……結果はこの通りというわけだ。
「そしてもう1つは、この霧に毒性のようなものがあることだ」
「あー、霧自体の調査結果が残されていなかったのはそういう…………」
収集の段階で失敗したのか研究段階で失敗したのか。どちらにしても、私の肌感覚としては特に苦しいとかはまだないから遅効性だろうか。
「その様子だとそちらは平気か。私はまともに動くのも厳しいのだがね」
「なら私が抱えていきますよ」
「そうしてくれると助かる」
私は奇襲に備えて左手でパナセアさんを抱え、彼女の指示通りの方向に動くことにした。遺跡のおおよその位置を把握しているのは彼女だけだから、絶対離れ離れになってはいけない状況である。とりあえず立ち止まるのも危険だという虫の知らせと彼女の指示に従って走り出す。
「このまま障害物がなければ一直線で遺跡だ」
「了解です!」
直線距離でつっきれたらいいが、どうなることやら。
「――ッ!」
赤い線が走る。
何とか身をよじって躱した。
「攻撃来てます!」
「音からして大きい。それに大量だ……よし、戦わずに逃げよう」
「でも倒した方が後々楽なのでは?」
「いやそうでもない。この霧の中で生存していることを考えると、やつらは硬い外装か君並みの高レベル、そして目が見えない中攻撃してきたということは別の感覚器官が発達しているだろう。そんなのが複数だ。まともに相手するのは悪手なはず」
「なるほど、それもそうですね」
敵の姿かたちは見えないが、先の攻撃速度を見るに霧の中で発達したのも影響しているのか奇襲メインの戦い方だ。あの速度が常に出せるなら絶えず追撃が来るはずだが、それもない。こんな霧の中の奇襲を避けられたときの対処法を知らないのだろう。相手が出方を窺っているうちに逃走を決めたい。
「【スタートダッシュ】【疾走】【持久走】」
走って逃げる。それを察知したのか、後ろから馬の足音のようなものが聞こえた。先程襲ってきたのとは別の個体だ。奇襲する敵はその場で襲うタイプだったのかもしれない。
しばらく視界が使いものにならない中、足元すら見えない結構怖い鬼ごっこをしていると、不意にパナセアさんが声を発した。
「正面に地下への階段だ。飛び込むんだ!」
「了解、ダーーイブ!!」
彼女はソルさんから預かってきた簡易的な魔力スコープとやらを使って遺跡の入口を見つけてくれたようだ。頼れる仲間の指示を信じて地面のある方向へ飛び込む。
私が地下へ続く階段を転げ落ちて、壁に激突して止まると、入ってきた方から岩が擦れる音がした。しばらくしてLEDっぽい明かりが灯った。
「霧は壁でない何かで遮断されているね。結界とかだろうか。よっと、ここまで抱えてもらってすまないね」
「いてて……いえ、大して重くなかったのでお気になさらず」
額を抑えながら立ち上がる。砂とかを払うために体をブンブンと振る。
――は?
「え、ちょ! ってパナセアさんも!」
「ん? ああ、服のことか。肉体が霧に耐えても服は保たなかったようだね」
「冷静に言ってる場合ですか! とりあえず危ない部分は隠しますよ!」
「こんな所に人がいるわけもないし、私達だけなのだから気にする必要はないと思うが……」
同じような遺跡に棲みついていたパナセアさんが言うのは説得力皆無すぎる。無理やりストレージに入っている初期の服を上から着させる。もちろん私もささっと服を着た。
「ふぅ、これでようやく落ち着いて調査に移れますね」
「ミドリくんミドリくん! この照明、電力で動いているよ!」
いつの間にかパナセアさんは照明を無理やり分解していた。
遺跡って保存すべきもののはずだが、これは遺跡の破壊に入らないよね? 誰もこんなところまで観光に来られないからいいか。バレなきゃ何とやらってよく言うし。
「……魔道具とかではないんですか?」
「まだ魔道具の仕組みを理解しているわけではないが、これは一般的なLED蛍光灯の構造と一致している。それにこの壁に電線が埋め込まれているようだから間違いないだろう」
「よくそんな構造とか知ってますね」
「ほら、子供の頃は分解とかみんなやってただろう?」
「シャーペンとかならまだしも蛍光灯はなかなかしないと思いますよ」
「そう、なのか…………」
そもそも女子でやる人もそんなにいない印象だし。私もほとんどしたことないから、そちら側の気持ちは微塵も分からない。完成されて綺麗な物をわざわざ壊す理由が皆目見当もつかないのだ。
少し残念そうにしているパナセアさんは、一息ついてから蛍光灯をストレージに仕舞った。
「ひとまず詳しいことはこの先で調べようか」
「罠があるかもですからあまり先行かないでくださいよー」
「――その心配は要らない」
通路の先から色白の男が歩いてきた。金髪で深紅の瞳、手には銀の短剣が握られている。隠す気のない敵意と殺意が肌に刺さる。
それに応じて私は腰の剣を抜いた。パナセアさんも銃を取り出す。
「ここが貴様ら侵入者の墓場だからな」
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