###“桜華”と魔女&魔剣士###

 


「リン!」

「〖テレポ〜テ〜ション〗! ……あれ〜、転移ができないみたい?」



 危機を察知したサナは一度離脱しようとリンに指示を出したが、その試みは失敗に終わった。


 転移が失敗したのはあらかじめこの本拠地に設置された転移阻害の遺物アーティファクトが原因であった。もともとはソフィ・アンシルのようなじゃじゃ馬による奇襲を防ぐためであったが、結果的に退路確実に断っていた。当然これもコガネの計算のうちである。


 

「仕方ない、やるしかないようね。理由はあとでゆっくりと聞こうかしら」

「負けないよ〜」


 剣を抜き、闘争心むき出しにするサナとゆるっと魔術の準備をするリン。

 コガネはそれを見て不敵にわらう。



「『咲き誇れ、彼岸の桜華』」



 コガネは自身の着物を気崩し、胸元を少しはだけさせた。そこには黒い光が揺らめく猫の紋様があった。

 彼女はキーワードを言い放って【変幻自在の神の加護:桜華】の下地を発動した。


 周囲に幻で出来上がった桜の花が何も無いところから降り始めた。それは実体が無く、サナとリンには触れられない。


「……我は光を纏う者〖エンチャントライト〗、我は闇を纏う者〖エンチャントダーク〗」



 不審に思いながらも、サナは剣に光と闇を纏わせた。リンも合わせて攻撃に入る。



「〖ツインハリケ〜ン〗〖スカーレットフレア〜〗」

「【チェイン】!」



 リンは二つの巨大な竜巻と深紅の炎で、サナは敵を吸い寄せる闇の斬撃と光速の斬撃による連鎖攻撃を放った。

 コガネが居た場所に目が眩むような光と爆風、爆煙で埋め尽くされた。


「やった〜?」

「リン、追撃の手を緩めちゃダ――」



「残念、ハズレや。【ラグ】【白黒無爪】」



「――ぁ」


 思考を遅延させるユニークスキル【ラグ】によって反撃の魔術を封じられたリンは、そのままコガネの爪撃の餌食となった。



「【ダブルスラッシュ】!」


「よっと、ちょっと浅かったみたいやな」


 サナはコガネとリンを引き離すように攻撃し、コガネは特に警戒することなく避けた。



「私が時間を稼ぐ。リンは回復して立て直し、そのあと私ごとでもいいからここ一帯を消し飛ばして!」

「――ぁ、うん。わかった〜〖ハイヒ〜ル〗〖ハイヒ〜ル〗……」


 リンを庇うように構えながら、サナはコガネを観察する。先程の一斉攻撃には手応えがあった。間違いなく当たったはずだ。

 にもかかわらず、コガネは予兆なくリンの背後に現れていた。あの時はしっかり耳をすませていたが、スキルを発動したような声は聞こえなかった。


「桜、かしらね」

「おー、よぉ観察しとったなぁ」



 コガネは感心しながら、新たな自身の力を自慢するように話した。



「うちが手に入れた【変幻自在の神の加護:桜華】の力のは、この数え切れん桜がうちの命と肩代わりしてくれる――要するに無限変わり身の術ってとこやな」



 サナは言われて散りゆく桜を見る。

 それはどこからともなく現れ、地面に着いた途端に消失するというループを繰り返している。消えた桜は再度頭上から降るため、時間切れが起こることもない。


 当然無限湧きというわけでもなく数には限りはあるが――その総数、およそ10万輪。

 コガネを倒すには10万回の復活を退ける必要があるのだ。



「ま、そないなこと知っても意味あらへんけどな。これで終いや」



「リン――!」

「〖フォンドプロテクション〜〗!」



 リンの【神聖魔術】による防護が張られる。

 その直後、コガネは三割ほどの桜を二人に差し向けた。



「たまや〜、なんてな」


 二人に降りかかった触れることのできない桜の花が、爆発を伴って開花する。空中で桜の花のマークが輝き、それが3万近く続いたことで二人は閃光に呑まれ――



「さて厄介なのは片付けたことやし、良い状況も作った。ちゃぁんと見返り搾り取るさかい、用意しとるやろなぁ? はん?」


 〈――まったく、君の実行が早いから用意するの大変だったんだからね?〉



 コガネの前に、一匹の黒猫が居た。

 その猫の傍には神器を強化するための、鍛冶神ヘファイストスが遺した神器級の遺物アーティファクトである1枚の羊皮紙が。



「ご苦労さん、もらうで」

 〈ああ、これは対等な契約だからね。ここからは君の目的のために協力を続けるかどうか、改めて尋ねようか〉


 コガネは拾い上げた羊皮紙を自身の神器である左耳のイヤリングに当てた。白い雷の形をした神器は、それによって白と黒の2面で別の色になった。



「……あのソフィ・アンシルを殺せる場を作ってくれるんやろ? 乗ったるわ」


 〈君ならそう言うと思ったよ。誰よりも復讐に取り憑かれた君ならね。じゃあこちらの支度が終わるまで、君の元仲間も蹴散らしておいてね〉


 そう言って黒猫は溶けるように消え去った。

 コガネは瞑目したまま、外に出てそれぞれの勝者を待つことにした。



「悪いなぁ。ミドリはん、抜けがけさせてもらうで」


 適当な石に座り、彼女は大きく息を吸った。

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