###先手、王手、瓦解###

 

 ――ミドリが別世界線で奮闘している頃の本筋オリジナルの世界。


 王国南部の広大な森を索敵と隠密と雑談を同時に行う集団が居た。それは当然、邪神教への襲撃を目論む森の魔女の一行であった。


 メンバーは――

 案内役兼隠密系幻術担当の幻狐コガネ。

 索敵・マッピング担当の戦略級魔導工学人形SGポエインドールパナセア。

 パナセアの補助担当の男の娘サイレン。

 副流煙が出ないタバコをパナセアから貰ってずっとそれを吸ってる不公平。

 そんな不公平の背中で寝転けているウイスタリア。

 雑談担当の魔女リン。

 自由なメンバーを適宜とりまとめているサナ。

 リンとのんびり雑談している正義のつるぎ

 退路を確保するために木に印をつける担当SYU。


 ――以上9名の愉快な仲間たちであった。



 〘大連合〙を総動員して数で制圧するという選択肢もあったが、何かあった時に町を守れない上に隠密行動に向いていないという理由により少数精鋭での作戦実行になっている。



「そろそろ本丸やさかい、おしゃべりはこの辺で堪忍な」

「了解です!!」

「は〜い」


「声でかいなぁ……まあ幻術でどうとでもなっとるけど心臓に悪いんやんな」


 正義の剣の元気な返事に少し呆れながら、コガネはメニューを開いて目の前の建物と先日撮影したスクショを照らし合わせる。


「完全に一致やな。な、ちゃんと道しるべつくっといてよかったやろ?」


 ここまではコガネが以前誘われた時にわざと残してきた痕跡を辿ってきたのだ。当然邪神教もその辺りは折り込んでいるので痕跡など残さず消しているのだが――


「痕跡は複数用意しておくのが誘拐される側の定石やさかい」



 彼女が残したのは、最も分かりやすい自身のしっぽの引きずった跡と、そのしっぽ毛を軽く横道に抜いておいたものと、そして今回活用したの魔物の痕跡だ。


 かなりの種類の魔物の体毛、血肉、爪などなどを彼女はストレージから不自然にならない程度に散りばめていたのだ。


「本当に君は強かだね」


「それほどでもあらへんよー」



 パナセアの言う通り、敵の本拠地に敵と同時に行く道中でこれほどの策を巡らした機転は年不相応だろう。それはコガネの過去の素行が関係していたりしている。


「リン、今回はプレイヤーもいるから捕縛優先よ。無理そうなら倒してデスペナ食らわせてから捕縛でもいいけど」

「大丈夫だよ〜。みんな頼もしいんだからサナちゃんは心配しすぎ〜」

「そうです!! この私の目が届く限り悪が勝つことなんてありませんよ! 天誅!!」


「てんちゅ〜」


「はぁ……」

「なんかうちのアホが悪影響与えてるみたいでもう訳ないな」

「別にいいわよ。あの子のノリは一過性だから」

「それはいいわけではないだろ」



 自由人2人とその保護者の支度の横で、サイレンもちょっとした苦労をしていた。



「ほら、タバコ終わりー。そしてウイスタリアちゃんは起きてー!」

「あと5分だけ頼む。まじで」

「あとじゅっぷん…………」


「じゃあ俺は15分」

「にじゅっぷん……」



「2人ともしゃんとせい!!」

「「あだっ……!」」



 ――サイレンのデコピンが炸裂して少し経ち、メンバー全員の準備が整ったところでコガネは敵へのリソースを割くためにと幻術を解いた。

 ここからは騒げないという事実に、先程までうるさくしていた面々も流石に押し黙って沈黙を貫く。


 邪神教の本拠地、そこは廃工場のような場所であった。どこかの脳筋天使と違って真正面から突撃するようなバカはこの場においては少数派だ。

 裏へこそこそと回り込む。


 普段から斥候ポジションにいるSYUが罠が無いことを確認してから、ソッと裏口から侵入した。

 先頭は罠やスキルによる索敵のためSYU、中央は臨機応変に対処出来る多彩な手札を持ったリン、殿しんがりには撤退が必要になったときに退路の切り開きと道の把握が可能なコガネ。

 冷静で穴の無い布陣であった。


 そのまま一行が進むと、だだっ広い空間でチンピラのような者達がヤンキー座りで駄弁っているのをSYUが確認した。

 2番目に位置しているパナセアは、幹部的存在が居ないのを確認させてから速やかな処理をSYUに任せた。あの程度なら彼でも問題できると確信していたからこその指示だ。


 そしてどこかに幹部のプレイヤーが潜んでいるのならば彼なら気付けるはずだとも思っていたから。



 優秀な斥候、順調な行軍、脅威たり得ない敵、状況は最高だった。

 そして幹部的存在がここにいないという事実から何かがの町で起きているのではないかという思考をする余裕すら出てきていた。

 先手で動き、初手で本拠地の占拠という王手に迫っていた。


 だからこそ――――















「残念、詰みや。【幻現指定アウェイキングオーダー】」



 ――その一言ですべてが瓦解した。

 破壊できない壁がメンバーをそれぞれ分断したのだ。




 順調でありながら最後の一歩までは届かないというあまりにも現実味のあるそれに、塗り固められただと誰も気付けなかったのだ。


 当然、コガネが本拠地を知っているとを疑問に思った。しかし「勧誘された」という真実、そして「既に本拠地は移っているかもしれない」という正当な推測が、「勧誘には当然乗っていない」という確認するべき事柄を勝手に信じ込んだのだ。



 コガネは目の前に居た正義の剣の心臓を軽く貫き、未だ困惑している魔女と強く睨む魔剣士と相対した。


「悪いとは思ってんねん。やけど、必要経費やとも思っとる。どの道うちらは決着を望んどるやろ? はじめよか?」



 誰よりも陰湿で、目的のためなら手段を選ばないわるーい狐は、爪を白黒に輝かせながら邪悪な笑みを浮かべていた。






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