###“福音”と海神の巫覡&斥候###
コガネによって分断されたサイレンとSYU。
2人はそれぞれ槍と短剣を手に、豪華なドレスに身を包んだ少女と相対していた。
「君は――」
「知り合いか? 敵の手のうちは分かるか?」
サイレンがその少女に反応を示したので相方は相手の戦法を確認した。しかし、サイレンが何か言う前に、少女は堂々と指を天に掲げて名乗りを上げた。
「あたくしはエーデルですわ! 久方ぶりですね、凡人さん」
「……凡人ですがなにか。彼女は人形使いだよ。その場で色んなタイプの人形を生み出してくる、それに自爆もあるから気を付けて」
「面倒な戦い方だな。了解」
情報の共有を済ませたのを確認してから、エーデルは掲げた手でパチンと指を弾いた。
「【人形遊び】【集団生成】『染まれや染まれ、あたくし色に』!」
50体の白い人形が出現。
それぞれの個体によって腕の武器が異なったり、人の形をしていなかったりする。
エーデルの手の甲にある黒猫の紋様が輝く。
彼女の【変幻自在の神の加護:福音】によって、人形達は黒いボディに染まって赤の薔薇が刻まれた。
「さぁ、お行きなさい!」
「【海神の舞】『大いなる海よ、深き海よ、母なる海よ! 産み生みし生命の源流を、今、この手に』【神器解放:
迫り来る軍隊を前に、サイレンはモリモリのバフを掛けて
人形をいくつか砕きながら、エーデルの眼前まで届いた。
しかし、体を使って何とか5体がかりでおさえる人形達。武器を一時的に失ったサイレンに他の人形が迫る。
「露払いは俺がやる! そう長くは保たねぇが本命は任せたぜ! 【疾走】【範囲拡張】【ダブルスラッシュ】!」
「はいよ。女神ヘカテーよ、我が
【音階魔術】で正面の人形達を粉砕しながら、彼は自身の神器を呼び戻した。
そのままエーデルに、矛先を向け――
「【舞踏世界】」
エーデルが、プレイヤーで彼女含めて2人しか使えない世界スキルを発動した。
瞬間、真っ白な空間が
「な――!」
「なんだこれ!?」
サイレンとSYUの動きが固まる。
その隙に人形が襲いかかって――
「すまん……先に逝くわ」
「うん、大丈夫。ぼくに任せて」
サイレンにも敵が迫る。
しかし、彼は少し頭を巡らせ、彼のパッシブスキルをフルで活用して動いた。
「――♪」
「存外踊れるのね。いいでしょう、あたくしのダンスについてこれるかしら! 【人形化】」
エーデルは自身を深紅の人形にして、華やかな社交ダンスを始めた。サイレンも職業:《アイドル》の職業スキルである【踊り】によって軽快に槍をさばきながら舞う。
この【舞踏世界】は文字通り踊り判定の動きしか許されない美しさを重視する世界である。
サイレンはスキルの名前から推察し、試してみたら当たっていたので、できるだけこの場に合うような大袈裟な動きをする。
「【スピアダンス】」
「【ソードワルツ】」
手を剣にしたエーデルをはじめとした人形の軍勢が次々と襲い来る。
サイレンは神器を華やかな動きで振るい、絶え間なく迫る剣を弾いては人形を突き、斬り払って迎え撃つ。彼の武器が描く軌跡に海水が散る。
使役された黒い人形をすべて倒すと、赤い人形のエーデルが正面から相対した。
「【深紅の剣舞】」
「【刺突】」
すれ違いざまにお互いの攻撃が傷を作った。
リーチはサイレンの
「【スカーレットカウンター】!」
「――っ!」
人形姫は、鮮やかに立ち回りながらサイレンより先に致命傷を与えた。
「おーほほほ!! 勝負ありましたわね! 前回は油断して相討ちに持っていかれましたけれど、今回は絶対にスキルも魔術も動きも、ポリゴンになって消えるまで見届けますことよー!」
「油断、してるじゃんか……」
体が真っ二つになったサイレンは横たわったままツッコミを入れる。
「それは見込み違いでしてよ。あたくしは貴方が何をしようと防ぐつもりですわ」
「……ふーん」
サイレンが目を瞑った。
もう限界がきたのだ。
「おほほ、最後まであたくしの勝ちでしたわね」
「そうだね、勝負はぼくの負けだよ。でもさ、凡人なりに面目ってのがあるから――」
――だからお土産をあげるよ、と笑った。
「――――くぅ!?」
サイレンがポリゴンになったと同時に、周囲に散りばめられていた海水が針の林となった。海が無い場所だからこそなかなか使えなかった技、海神の神能である。
エーデルは少し驚いた後、高笑いしながらポリゴンになっていく。
「結果は以前と同じですのに、少しだけ認めてさしあげようと思えるのは何故かしら……?」
おーほほほ! と甲高い高笑いがフェードアウトしていった。
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