##82 樹の呪縛

 

 なんとかウイスタリアさんたちと合流した後、私はうっかりを装って人質スノアさんを解放して、全員仲良く大人しーく投獄された。最初ウイスタリアさんが暴れかけたのは危なかったが、かなりの疲労でまともに動けていなかったのが幸いした。


 獄中生活ブームを実感していた私は、夜になったので脱獄をし始めた。


 入っては出て、マッチポンプで入っては目的のため出て……もはや実家と言っても過言では無い。




「よっこいせ」



 ストレージに隠しておいた3号で檻を切り取ってあっさり脱出。あとは足音を立てないように出口まで向かい、作業中の看守の背後を 【縮地】で通り抜けて外に出た。




「ミッションポッシブルすぎる……」



 そんな軽口を呟きながら、私は夜闇の中を駆けていった。


【飛翔】を使って大きな木のお家の窓からあちこち探して回る。目的は当然、スノアさんに約束した彼女の父親と、取り憑いたハイエルフの先祖、その弟の方である。



「居ない……というかストラスさんの結婚式にもそれらしい人は居なかったし、どこかで隠れているとか?」



 頭を悩ませていると、日中の結婚式場であったエルフの里一の大広間が目に入った。

 暗くて見えにくいが、複数人動いているように見える。


 不審に思い、少し迂回しながらこっそり遠巻きに観察する。一人は王冠をして魔法か何かで水を土にかけていて、その後ろに3人ほど従者らしき立ち振る舞いをしている。

 どうやら当たりらしい。



 できるだけ気配を消して接近する。

 従者達の背後から、私は首に手刀を入れて眠らせた。



「ふぅ、慣れないことはやるもんじゃありませんね」



 トントントン、とテンポよくやったが、如何せん首トンは難しいし、危うく永遠の眠りの方をさせるところだった。もう二度とやらない。ヒヤヒヤしたからね。



「さてと、貴方がここの長ですね? あ、いや実際は昔のハイエルフなんでしたっけ?」



「――外の者が首を突っ込むことではない」




「私はお話をしに来たわけではないので今更引き下がりませんよ。というか要するにあれですよね? 昔兄に負けたから腹いせに兄の子供らに八つ当たりしようってやつ」



「……」




「兄本人には勝てないからってその子孫に当たるなんてクソガキな精神年齢してますねー」



「どうやら死に急いでいるようだな」




 挑発成功っと。

 煽りながらじっくりとてみたが、もともとの王様の人格は微塵も感じられない。気配というのは人によって千差万別だが、目の前の相手は邪悪な気配のみでストラスさんやスノアさんに近いものは感じられない。



 ……ていうかこんなことまで分かるようになってきたって、私も人間離れした武人に仕上がってきたなー。


 


「いいだろう。お望み通り奈落の底に落としてくれよう」


「『光は集い、闇は巣食い、焔は焚べられる』」



「貴様はこの私が兄に勝てぬと言ったな?」


「『そこには希望も絶望も無く、目的も未来も見い出せず』」



「私はとうに勝てているのだ。生物の限界、死を乗り越えたのだからな!」


「『数多の救いを切り捨て、終焉を迎える道を歩む』」




 お生憎様奈落の底は経験済み。

 余裕たっぷりの私は相手が呑気に話している間に詠唱を済ませた。



「さぁ、贄となるがいい!」



「【総てを砕く我が覇道イニグ・ミカエラ】」



 問答無用でぶった斬った。




 ……間違いなく、斬ったはずだった。

 しかし、彼は私の背後に現れた。



「よくできているだろう。一度きりだが強力な一撃を凌ぐには十分だ」



 私が斬ったのは里長ではなく、その姿をした木の根だったのだ。

 私は困惑して足元が疎かになってしまった。

 微かな異変も夜で見逃してしまっていた。



「言っただろう、贄にしてくれると――『樹よ、今こそ貯めた養分で世界に根付け』」



 彼の持つ宝石が黒く輝く。



「――【追憶成長】」


 私の真下から樹が生えてきた。

 無限にも思える数の枝が折り重なったそれは、私を強引に縛りつけ、呑み込んでいった。


 ――PIPI

『リスポーン地点が更新されました』



 ◇ ◇ ◇ ◇


 まずい。

 これは全く予想だにしなかった事態だ。


 かれこれ私は世界樹のに閉じ込められてHPやMPを吸われ続けて2時間は経った。その間身動きはおろか呼吸すらまともに行えず何度も窒息死してはその場でリスポーンを繰り返していた。


 リスポーン地点は通常不思議な石で行われるはずなのだが、この世界樹らしきものもその性質を持っているらしく――



「うっ……」



 また死んだ。流石にこれだけ短期間で窒息死を続けていると頭も痛くなってくるし、今夜はもうログアウトしよう。


 頭の中でメニューを操作してなんとかログアウトした。




「はあ、どうしたものか……明日の私よ、あとは任せました……!」




 疲れたしもう寝よう。

 明日の風はなんとやらだっけ? そんな感じのこと言うしきっと打開策は見つけられるはず。



 そんな楽観的な考えのまま、私は眠りについた。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る