##85 イノルモノ

 


 私は昨日寝る前にあれこれ脱出方法やらを考える中で、今回の騒動を改めて辿ってみた。


 まずハイエルフの祖先が幽霊として蘇えってストロアさんとスノアさんの父親に取り憑いた。

 そして世界樹のようなものを用意して意趣返し的な形で彼らを殺すつもりであった。



 ――では、そもそもあの……シリアスとか尻カスみたいな名前の人が蘇ったのは偶然か、超自然的な現象で化けて出たのか。


 そんなことを視聴者さんに聞かせながら、私の予測を話した。



「私、死霊術師ネクロマンサーに心当たりがありまして。と言っても実際に会ったことはないんですけど……」



 結構前、帝都で武闘大会を控えた夜中に襲撃を受けた際にゾンビを作った者のことである。襲撃者が作ったようではなさそうだったが、ネアさん言わくとやらの者らしい。



[ヲタクの友::そんなのあるんや……]

[壁::自分で邪神を名乗ってるってこと? ヤバいやつじゃん]

[枝豆::いかにもな組織もあるんだ]

[紅の園::そんなことが、というか夜の外出は危ないよ!]

[海老丼::神殺し、いっとく?]




「確かに、敵対宗派が相手の祀る神に対して邪神とか言うのが普通ですよね。自ら邪神と名乗ってるヤバい神なんですかね?」



 ま、自称にしろ他称にしろロクな神ではないだろうけど。

 そんなことを考えながら、一際大きな木の建物に着く。普通に入ってもいいが、階段とかめんどくさそうだ。というかエルフの皆さんが避難してもぬけの殻で、警報が鳴りっぱなし――つまり侵入者がいるということだ。逃げられるわけにはいかない。


「そうだ!」




[あ::今何考えてるん?]

[ハナハーナ::おいおいコイツやるつもりだよ]

[唐揚げ::嫌な予感しかしないんだが]



「火を放てばは勝手に出てくるのでは?」



[セナ::え?]

[コラコーラ::普通に放火やぞ]

[階段::はい前科一犯]

[病み病み病み病み::疲れてるんだよねそうだよね?]

[LaLa::もうちょっと穏便な作戦にしよ?]



 考えてみたら確かに放火か。

 ストラスさんの家だし多少燃やしても良いかと思ったけどスノアさんが可哀想だ。火はやめておこう。


「じゃ、脳死特攻で【飛翔】」



[燻製肉::雑過ぎw]

[隠された靴下::よかった……のか?]

[キオユッチ::何とかなるか精神ですね分かります]

[ベルルル::勝ち確BGM流しとかないと死にそうだな]


 一理あると思って配信の設定からいい感じの熱いフリーBGMを流しながら最上階までひとっ飛び。



「悪い子イネガー、お邪魔しまキーック!」



 空中でくるんと無駄に開店してから、勢いよくお高そうな窓に某仮面系バイク乗りのような蹴りをかましてやった。窓ガラスが散る中、運良く泥棒が目の前で儀式的なことをやっているところに出くわしたのを確認。バッチリ目が合った。



「……おはようございます。朝なんですからもっと陽気なことしません?」


「えっあっあっ、えっと、その……大丈夫、です!!」


 前髪はだらしなく伸び、髪の毛はボサボサ、どもりまくりで声量の調節が下手くそ。

 つまるところ――


「典型的な陰……コミュし……コミュニケーションが苦手な人ってはじめて見たかもしれません」



 陰キャだとかコミュ障なんて言葉が思い浮かんだが、流石に面と向かってそれは失礼だから遠回しに感想を述べた。

 コメント欄は共感の嵐で荒れ果ててるだろうから見ないでおく。



「あ、あああ、あなたが、天使の、人。で、ですね?」


「天使なのか人なのか分からなくなりそうですけどまあ多分合ってます。あともう少し落ち着いてから話してもらって」



「い、いえ! に、にゃーさんから伝言があるから、は、は、早くしないとなので」



 にゃーさん?

 どこのどなただろうか。



「とりあえず聞くだけ聞きましょう」


「え、っと。“1週間後に世界滅ぼすよー、あとそれはほんの前菜だから楽しんで”、だそう、です!!」



 世界を滅ぼす?

 前菜とは?


 疑問符が止まらない。だが、何れにせよ分かったことがひとつ。

 この人、間違いなく敵だ。



「不意打ち失礼――」


 私は容赦なくコミュ障な人の首をはねた。

 だというのに、彼女は生首の状態で一言呟いた。


「じ、【擬似神器解放:限定的な銀鍵ネル・ステノス】で、出てきてください、サイサロさん……」


 銀の鍵が消えていく。

 それと同時にうっすらと霧が出始めた。



「人間ではない? 死臭からしてアンデット系ですよね? もしかして死霊術師も貴方だったりします?」



「に、にに、人間では、あります……。この体は、し、死体を弄っただけの人形みたいなものでしゅ!!」


 遠隔で直接コントロールもできるのか。

 厄介極まりない能力だ。


「あ、あの、もう限界なので、さ、さようなら……」



 種明かしだけして消滅していった。

 ペラペラ話してくれたのは私の圧が少し強かったからなのかもしれない。


「さて、残された霧は……!?」


 突如として胸が、否――心臓が破裂したような痛みに襲われた。


「っぐ……」


 次は右腕が消し飛んだ。


『スキル:【即死耐性】を獲得しました』



 マズイマズイマズイ。普通に死ぬ。てか多分心臓吹き飛んでるからもうすぐ死ぬ。


「【不退転の覚悟】!」



 倒す敵はこの霧の中、あるいは霧そのものと広めに解釈して全回復の効果もある超強化スキルを久しぶりに使った。


『「可能性」をステータスに反映します』

『「イノルモノ」の可能性の反映に成功しました』

『【職業神(?)の寵愛】により干渉を受けました』『反映されたステータスの一部が制限されます』


 例のごとく記憶の逆流を飲み込む。

 戦う力をも捧げ、すべてを救わんと癒し、何も救えなかった愚かな天使の記憶。

 善人悪人関係なく蘇らせ、秩序は崩壊した。

 それでも彼女は自分が救われたいがごとくひたすらに癒しをもたらし続けていた。



「ステータスオープン」





 ########


 プレイヤーネーム:ミドリ

 種族:大天使??

 レベル:174

 状態:憔悴

 特性:善悪・混沌

 HP:34800/34800

 MP:∞/∞


 称号:すべてを捧げし者・世界の機構


 スキル

 U:魔力の泉・最盛再生(制限状態)・機構の縛り

 R:全耐性10


 ########


 スキル

【魔力の泉】ランク:ユニーク

 世界の機構となり、無限の魔力が湧き出る。


 スキル

【最盛再生】ランク:ユニーク

 任意の存在を最盛期の状態で完全に蘇生及び全回復する。そのためなら輪廻すらねじ曲げる。

 自身に対してはパッシブで発動。

 CTクールタイム:0秒

 消費MP:100000

(制限状態:パッシブ効果のみ適用)


 スキル

【機構の縛り】ランク:ユニーク

 世界の機構となったことによる縛り。スキル保持者は武器を使えず、いかなる方法でも他者に攻撃できない。



 スキル

【全耐性】ランク:レア レベル:10

 あらゆる状態異常、属性、その他に対する耐性を得る。



 ########



 レベルの割にスマートなステータスだ。

 垣間見えた記憶から察するに、スキルや称号を生贄にこういうステータスを獲得したのだろう。

 フェアさんから制限を食らうくらいには無法地帯な性能だ。ヒーラーとして考えたら最強格。

 おそらくこの彼女は【最盛再生】の任意の存在をこの世すべてに指定して使い続けていたのだろう。



「即死攻撃とそれに伴う痛みも耐性のおかげで大したことなくなったのはいいものの……これ、こっちも何もできないから詰んだのでは?」


【最盛再生】で私は常に回復し続けて負けることはない。しかし、こちらも【機構の縛り】で攻撃できない。

 ――決着の着きようがないのである。


 そんなことなんてつゆも知らない霧は、中から大きな腕を伸ばして私を掴んだ。



「痛くもかゆくもないんですけどねー。皆さん、今私最強の盾になったはいいものの攻撃できない縛りになっちゃいまして。どうすればいいと思います?」



 戦闘中にも関わらず、呑気にコメントを眺める。

 霧の腕が胴体を握り潰そうとしているため、私は自分で立つことすらしなくていい。とても楽な体勢で意見を流し見る。



[蜂蜜過激派切り込み隊長::えぇ……?]

[味噌煮込みうどん::パンチもできないん?]

[あ::増援に期待するしかないのでは]

[バッハ::効果時間は大丈夫なん?]

[天々::余裕そうで草]


「効果時間はたぶんこの霧が倒されるまで続くのでご心配なく。やっぱり助けを待ちましょうか」


 でも即死攻撃持ちの相手を何とかできる人なんて限られてくるからなー。

 誰に救援要請を出すか頭を悩ませていると、タイミング良く一通のメッセージが届いた。


「ふむふむ……どうやら何とかなるかもしれませんので少しだけ待ちましょうか」



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