【Alternative World Online】翠の天使、VR世界で徘徊中【ミドリ】

#38 植物の災獣

　女性は苦悶の声を零（こぼ）しながら、レイピアで迫りきている蔦（つた）を捌（さば）いている。

「援護要りますかー？」

「え？　あ、欲しいですぅ！」

　確認をとって戦いに割って入る。

「【パワースラッシュ】！」

「【パリィ】っす！」

「【スラスト】」

「……」

　私は斬撃で、マナさんは弾き、サイレンさんは槍で、そして、パナセアさんは懐から拳銃を取り出し無言で乱射。

「これ、どこかに本体が居るんですか？」

　大剣でバサバサと斬りながら、女性に尋ねる。

「わ、分からないですぅ……」

「そうですか」

【天眼】が発動してくれれば楽だけど、そう都合よく発動してくれない。

　四方八方、地面から、周りの木の隙間から、植物が一斉に襲いかかってくる。

　各々対処しながら、本体を探す。

「っ！　マナさんっ！」

　マナさんが、他の人の数倍の量で狙われる。

　手助けに入ろうとするが、地面から生えた枝に足を取られる。

「【スーパーノックバック】っす！」

　マナさんも足を取られたが、盾を地面にぶち当てて吹き飛んで回避している。

　私も急いで足元の枝を斬り、空中で無防備なマナさんのフォローに入る。

「【飛翔】！」

　マナさんに向かって一直線に飛び立つ。

　そして、落下中のマナさんをキャッチして、更に襲いかかってくる太い植物の根を避ける。

「あ！　変な鹿がいるっす！」

「あれが本体でしょうかね」

　流石に二人で行くのは危険だ。一旦みんなに伝え、全員で行こう。先程の場所に降り立ち、報告する。

「本体らしきのがいました。そこまで全員で駆け抜けますよ！」

「了解！」

「先頭は任せるっす！」

「背中はこの私に任せたまえ」

「あ、あたしも行きますぅ！」

　構成的に、陣形はこれぐらいしかないかな。

「マナさんが先頭で突撃して、そのすぐ後ろでサイレンさんは詠唱、私と貴方は横の攻撃を捌き、後ろや足元のはパナセアさんに、という感じでどうでしょう」

　一箇所に集（つど）って作戦を伝える。

　全員が首肯するのを確認し、駆け出す。

「ふんんんぅぅ!!」

　マナさんが、最初に盾を前に突っ込む。

　その後を作戦通りについて行く。

「せいっ！」

「しっ！」

　横から植物が迫るのを、私と女性で斬り捌いていく。足元から小さな芽が出てきているが、パナセアさんが一瞬で狩りとってくれる。

　順調に進むと、木の葉の隙間から陽の光を浴びている幻想的な植物の鹿が、そこに居た。正面から見ると、それが何かすぐに分かった。

　ギルドの手配書にあった、植物の災獣だ。

「まずっ……！　全員、中央から離れたまえ！」

　パナセアさんの焦る様な声を聞き、陣形を崩して離れる。

　先程私たちがいた所に、太い木が生えてきた。

　流石にあれは避けるしかなかった。

　パナセアさんが教えてくれなければ吹き飛ばされていただろう。

「なぁぁ〜〜！」

　無事に避けれたと思っていたが、マナさんが吹き飛ばされていた。前の方に転がっているサイレンさんを庇（かば）ったようだ。

　これはヤバい。

「ひし――――」

　スキルのクールタイムが、まだ戻りきっていない。飛べない。

「【疾走】!!!!」

　マナさんの真下に向かって走る。

　そして、マナさんに向けられた大木の枝に狙いをつけ、

「【ヒートアップ】、はああぁぁぁぁぁぁ！」

　大剣を投擲（とうてき）する。

　大きく回転しながら飛んでいき、太い枝を切り落とす。

　バフがあるうちに、マナさんを回収するために跳躍。途中、横から枝の邪魔が入る。

「【連射】」

「――〖サウンドノック〗！」

「【跳躍ぅ】」

　パナセアさんの射撃が、サイレンさんの魔術が、女性の跳躍による援護が、私を守る。

　女性のスキルによる跳躍では、私のバフ盛りの跳躍には届かないようだ。届いてくれればもう少し楽だったんだけど。

「マナさん！」

「ミドリさん！」

　あと少し、手を伸ばす。

　〈どらごん！〉

「はい？」

「おぇ！？」

　脳に直接語りかけられる。

　マナさんも反応的に同じようだ。

　それでも、気にせずに手を掴――――

　視界の端で、木の幹が映る。

「グッヘッ…………」

　がら空きの腹に、思い切り重いのが入ってしまった。さっき私が斬り落とした所から、新たに生えてきたようだ。

「ミドリさんっ！」

　私が吹き飛ばされてしまい、離れていくマナさんの姿が目に焼き付く。そのままの勢いで遠くへ吹き飛ばされてしまった。

「ガハッ…………」

　血反吐を吐く。

　両腕、片足、肋骨、その他諸々の骨が折れている。【ヒートアップ】の反動で身動きが取れない。

　マナさんを、マナさんを助けなければ。

　死んでいなければまだ何とかなる。

　職業を、《司祭》に。

『職業:《司祭》になりました』

　マトモに働かない口を何とか動かし、

「女神……ヘカテーよ…………我が、嘆願の声に応――――」

　駄目だ。もう、喋れない。舌が回らない。

「っぁ……」

　更に、何か矢のようなものが、私の太もも辺りに突き刺さった。少しずつ力が抜けていく。

「やっと……」

「何をしている！」

「チッ……」

　誰かが走り去る音が聞こえた。

　そして、別の複数人の足音が私の近くに寄ってくる。

「これは、矢だけではない……」

「急に走って、どうしたのー？　その子は！？」

「分かりません、とりあえず治してください」

「はいよー」

　それだけ聞こえ、意識が途絶えた――