#37 新たな出会い




 白衣に白ブチのメガネを身につけ、金髪のお団子で、薄緑色の目、余裕のある笑みからは現れた女性の性格が垣間見れる。



「貴方は……?」



「初めまして、私はパナセア。ここで色々機械をいじってる者さ」



「敵ではないのですね?」



 油断せず、尋ねる。


「もし敵でも自分で敵とは言わないけど、まあ敵ではないよ。君達がどういう目的でここに来たか分からないが、立ち去ってくれればね」


「長居する気はありませんが、私たちが調査を終わらせたら別の冒険者がくるかもしれませんよ?」


「……敵になってほしいのかな?」


「まさか。ここに住んでいるのなら引っ越した方が良いとの提案ですよ」


「…………まあ、いい。それより、そのフワフワ浮いてるそれは何かな?」



 パナセアさんが指しているのは、配信のカメラだ。もしかして、これに興味があって現れたのかな? ……いや、それは違いそうだ。


 答えるか迷って横の二人をうかがってみる。マナさんは首を傾げながら事の成り行きを見守っている。


 そして、サイレンさんは――――



「…………教えてもいいですが、その前に勧誘してもいいですか?」


「勧誘?」



「ええ、私たちのパーティーというか、クランに入っていただけませんか?」



 カメラが見えるなら、この人はプレイヤーだ。クランと言っても通じるだろう。



「私にメリットは?」


「強いて挙げるなら、愉快な冒険ができますよ」



「愉快さにでも自信があると?」


「それなりにはあります。…………話題を変えますが、貴方は作る側ですか? それともただ弄っているだけですか?」




 愉快な冒険だけでは無理そうだから、別のアプローチが必要になる。その糸口を探る。

 何としてでも、この人は仲間にしてあげたい。



「作る側だよ」


「なら、ここにずっと居ても良くないのではないでしょうか? 環境を変えて、考えを変えなければ新たな物なんて作り得ませんよ」


「…………随分と口が達者だね」



「それはどうも。口から生まれたとよく言われますよ。そんなことより、私たちと接触したのも何かインスピレーションが湧かなかったからなのではないでしょうか?」



「へぇ……?」


「貴方が出てきた時、視線は私たち全員に向いていました。そして、興味はあたかもこれにあるように指し――――」


「あーー、やめてやめて、そういうガチ推理聞かされると照れるから」



 わりかし適当にそれらしいことを並び立てただけなんだけどね。駄目そうなら潜在意識ではそう思っている〜とか心理面から説得しようかと画策していたけど、必要なかった。



「それで、仲間になってくれるんですね?」


「なるよ。よろしく」



 いさぎよい即答だ。



「よろしくお願いします。ミドリです」

「よろしくっす! マナっす!」

「あっ、よ、よろしくお願いします、サイレンって言います……」


 挙動不審になっているサイレンさんに触れず、話を進める。



「荷物とか回収してきます?」


「いや、既に準備してある」


「最初からついてくる気満々じゃないですか」


「いや〜、ハハッ!」



 照れ隠しで騒がしく笑うパナセアさんと談笑しつつ、横目でサイレンさんの様子をうかがう。


 先程と変わっていない。

 この調子だと色々支障をきたすから、何とかしとこうかな。



「マナさん、カメラ等の説明をパナセアさんにしてあげてください。サイレンさんは、こちらへ」


「了解っす!」


「あ、ぇ?」



 カメラをパナセアさん付近に置き、未だに心ここに在らずのサイレンさんを連れて部屋の端へ行く。



「サイレンさん」


「な、何?」



 二人になってビビり散らかしているサイレンさんに語りかける。



「応援はしますけど、あまり放心しているようでしたら、腹パンしますから」


「え?」


「腹パンしまくりますから」


「いや、増えてる増えてる。……じゃなくて、応援って…………」


「マナさんは純朴で、パナセアさんは鈍感ですし、カメラはパナセアさんしか写していなかったので、気付いているのは私だけです」




 パナセアさんが現れた時から、サイレンさんはずっと見蕩みとれていたのだ。それでずっと放心して黙りこくっていた。


 要するに、一目惚れとか言うやつだ。



 人が恋に落ちる瞬間を見てしまったのは、何とも言い難い申し訳なさや気まずさがある。



「…………分かった。いつも通り、やらせていただきます」


「よろしい。さあ、戻りますよ」



「……ありがとう」




 生憎あいにくと、ボソッとつぶやいたお礼を聞き逃すような主人公っぽさは持ち合わせていないので、


「いえいえー」


 おちゃらけて返事をする。




 戻ると、何故かパナセアさんから尊敬するような眼差しを浴びる。




「ミドリくん、配信者だったとは驚いたよ」


「大したことはしてませんけどね。あ、マナさん説明ありがとうございます」


「いいっすよー」



 お礼を言い、メニューをいじる。



「さっきは緊張してて敬語になったけど、仲間にはタメ語だから、年上でも許して欲しい……です」

「敬語、抜けてないよ。ハハハッ!」


「あ、サイレンさんは男っすよ」

「えぇ!?」

「一応男だよ」


 三人で親睦を深めているうちに、フレンド申請をパナセアさんに送信。


『プレイヤーネーム:パナセアにフレンド申請しました』


「送っときました」


「OK」



『フレンド申請が承認されました』『プレイヤーネーム:パナセアとフレンドになりました』



 フレンド欄からクランの申請を送る。




『あなたのクラン:〘オデッセイ〙にメンバーが加わりました』



「さて、出発しましょうか」

「いぇーいっす〜!」

「おー」

「楽しい空気感だねぇ」


 四人で足並みを揃えて、外に出る。





[味噌煮込みうどん::仲間はどんどん増やそう!]

[壁::てぇてぇ]

[唐揚げ::エモいねぇ]

[枝豆::出発だー!]

[セナ::賑わってきたね]



 コメントも暖かくパナセアさんを歓迎してくれていて何より。




 遺跡を出ると、誰かの気合いの入った掛け声とも取れる怒号が聞こえた。


 全員で顔を見合せ、声のする方へ駆け出す。




「クッ……」


 声のする場所へ辿り着くと、レイピアを握っている軽装の少女が何かの植物のつたと戦っていた。






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