##19 一か八かの大一番一発勝負

 


「【ギャンブル】、ユニークスキル、裏!」



 私と敵の両者が持っていて、賭けに勝てばワンチャンありうる選択肢。それが今宣言したユニークスキルである。



「お祈りしておきましょう。【天運】」




 ネアさんが作ってくれた壁の向こうから凄い轟音が聞こえてくるが、今の私はコインが落ちるのを待つことしかできない。



 地面に軽い音を鳴らしてコインは弾む。

 そしてゆっくりと静止に近づき、表が上のまま床につき――――



「……ミドリ、任せた」



 壁が吹き飛んで、ネアさんが消えていきながらそう言い残した。そしてコインも完全に止まった。


 先程の衝撃で裏になったのだから、私の勝ちである。【天運】さまさまだ。




『ユニークスキル:【超過負荷オーバードライブ】を獲得しました』



「【断裂剣】」


「くっ……」



 何とか躱して手に入れたばかりのスキルを発動した。



「【超過負荷オーバードライブ】!」



 左腕にいつの間にか巻き付いていた黒い紐と4つの金属片がほどけた。紐は空気に溶けるように消え、金属片は円を描くように私の後ろで回転し始めた。

 よく分からないけど、私の左腕に小さな亀裂が入って赤い光が盛れ出している。



 ――ってあっつ!

 そして痛い!

 内側から火がついたような感覚だ。



「わぁっ?!」


 左の手のひらから黒と赤の混ざった球体が飛び出た。それは相手の頬をかすめ、僅かにかすり傷をつけた。



「あれ? ちょ、止まって!? 制御が……ふん!!」



 次々と射出されて暴走しかけた左腕を気合いで制御し、私は右手で剣を、左手で謎の球を出せるようにしておく。



「よし、仕切り直しといきますか。まあ悠長に長期戦は無理みたいですけどね! 【縮地】」



 距離を詰める。

 相手の剣による猛攻をひたすらさばいて凌ぎ切る。純粋なステータス差は赤い線と少しずつ積み重ねてきた技量で埋める。こんなつまらない剣筋で死ぬことはないだろう。

 厄介なのは相手の潤沢で予測不能なスキルだ。それだけは警戒しながらわざとかすり傷を蓄積させていく。



 スキルはネアさんが使わせたのか、クールタイム待ちっぽいのでそろそろ仕掛けたい。貯めてきたダメージがあるので、一瞬だけステータス画面を開いて残りHPを確認。


 一桁台に突入していた。これで私の職業背水の脳筋の職業スキルである【風前烈火】が発動しているはずだ。最大限火力が出るようになったのであとはそれをぶつけるだけ。


「【断裂剣】」


「そい!」



 相手のスキル込みの剣を、純粋な力だけで弾く。がら空きになった土手っ腹に――



「ありったけをあげますよ!」


 左の手のひらを触れさせ、絶え間なく球を撃ち込む。ゼロ距離でなら防げまい。少しずつ相手の腹部が崩れていく。




「【破約】」


「――ッ!」



 そのスキルはよく知っている。つい先日お世話になったのだから。相手にイヤリングは無いし、あのチートスキルを素で持っていたということなのか。


 待って、ここでクールタイムのリセットということは対象にしたスキルは……まさか!



「【自爆】」



 最初の爆発よりは小規模だが、それでもこちらはゼロ距離で攻めていたので爆心地に巻き込まれてしまった。



「【復活】」



 やはりそのスキルのクールタイムリセットだったか。


「…………ってあれ? なんで私生きてるんです?」



 目を開けてみると、私の背中で回って遊んでいた金属片がふよふよと私の正面に浮かんでいた。黒と赤の混ざった色の半透明な障壁を張った状態で。



「よし、これならまだ勝てます」



 そう息巻いていると、左腕の禍々しい光が収まった。金属片が勢いよく左腕に近づいて、黒い紐がどこからか現れて私の腕に巻きついた。戻ってきた金属片もその紐を厳重に固定するようにひっついてしまった。



「……効果時間とか先に言ってくださいよ!」


「『始まりは小さな闇であった。それはすべてから見たら小さくとも、人にとっては途方もない存在であった。人よ、今こそ闇に帰る刻』【神器解放:常闇楽園ブラックホール】」



 相手の首にかかっていたペンダントから黒いモヤが出る。そして私と敵の間に小さな漆黒の球体……いや、あれはあなだ。

 空間に一つの孔が出現した。



「まずいぃぃ――」





 必死に地面に剣を突き刺して堪えようとしたが、無駄だったようだ。気付いたら私は魔王城の自室に寝そべっていた。



「なんか落ちていった感覚はしましたけど、死んだんですか? 全くそんな気しませんでしたけど」



 完全敗北に納得がいかずにボソボソと愚痴を吐く。



『レイドイベント、難易度“サンクチュアリ”の挑戦が終了しました』『結果及び報酬はメッセージ機能からご確認ください』



「……終わりですか。いやー、復活と自爆2回してブラックホール出すとか無茶苦茶すぎでしょうに。あれってどうやったら倒せるんですかね?」




[高速実況::ブラックホールは不可能かと]

[唐揚げ::おつかれ〜]

[カレン::頑張った!]

[永遠の空腹::gg]

[あ::しゃあなしよ]



 コメントをチラッと流し見したが、解決策は出ていない。

 悔しいなー。絶妙に惜しい気がするから余計に。



「さてと、まあ今日はこんな感じで終わりますかー。明日は普通に予定があるので休みで、とりあえず魔王国は色々と配信向きではないので別の国から本格的に再開しまーす」



 文化の違いとはセンシティブなもので、服を着ない文化圏とかあったらBANになってしまうのだ。色んな種族が共存しているらしいのはいい事だけど、配信する者としてはリスクがね。



「じゃあまた今度です。おやすみなさーい」



 挨拶もしっかりやって配信を終わる。

 それから私はメニュー画面を開いてメッセージを見てみる。



「やっぱり報酬は無しかー」



 敗北ということで想像通り何も無かった。集まったメンバーにそこまで報酬を欲しがりそうな人もいないから気にする事はないけど、少し申し訳ない。


 ……ん? 他にもメッセージが来てる。



「リンさんから?」


 内容を見ると、どうやら配信を見てくれていたようで「ナイスファイト〜」と励ましの文面が来ていた。私も「すみません( ̄▽ ̄;)ナイファイでしたー!」と返信しておく。



「おーい、ミドリはん入ってええ?」


「どぞー」



 コガネさんの方も終わったのか、ノックに応じて部屋に入れる。



「配信見とったけど惜しかったなぁ」


「ですかねー。まだ向こうも数枚は手札持っていそうでしたけど」



「それはあるかもなぁ」


「そっちはどうでした?」


「うちらもボコボコにされたわ。“ナイトメア”なんて言いはるだけあって悪夢かと思うたさかい」



 そう言ってため息をつくコガネさん。

 彼女に加えてパナセアさんもいるから正直意外だ。私なんかよりずっとどんな相手にも戦えそうなものなのに。



「一応それだけ報告しに来たさかい、おやすみなぁ」


「はーい、おやすみなさい」



 コガネさんは明日から魔王国内にある、彼女の師匠さんの家に行くらしい。聞いた話だとコガネさんがいない間にお亡くなりになったそうで、身辺整理をしにいくそうだ。付き添いに魔女友達だったらしきエスタさんと、暇を持て余しているウイスタリアさんもついて行くようだ。


 だからそれに備えて眠りたいのだろう。



「私もそろそろ……あ、確認しないと。ステータスオープン」



 ########



 プレイヤーネーム:ミドリ

 種族:堕天使

 職業:背水の脳筋

 レベル:63

 状態:冷静沈着

 特性:天然・善悪

 HP:12600

 MP:3150


 称号:異界人初の天使・運命の掌握者・理外の存在・格上殺し・魅入られし者・喪った者・■■■の親友・敗北を拒む者・元G狂信者・対面者・破壊神のお気に入り・色の飼い主・復讐者・神殺し



 スキル

 U:ギャンブル・職業神(?)の寵愛・破壊神の刻印・超過負荷1


 R:(飛翔9)・(神聖魔術6)・縮地6・天運・(天眼)・(天使の追悼)・不退転の覚悟・祀りの花弁(不撓不屈)


 N:体捌き9・走術6


 職業スキル:脳筋・背水の陣・風前烈火



 ########



 スキル

超過負荷オーバードライブ】ランク:ユニーク レベル:1

 己に尋常ではない負荷をかけて種族の力を最大限以上に引き出す。スキルレベルに応じて効果時間が伸び、使える技が増える。なお、このスキルのアーツにクールタイムは無い。

 アーツ:エネルギーバレッド・エネルギーシールド

 CT:1日


 アーツ

【エネルギーバレッド】

 アーツの読み上げなしに使用者は自由に扱える。自身のHPやMP、その他のエネルギーを弾丸にして撃ち出す。


 アーツ

【エネルギーシールド】

 アーツの読み上げなしに使用者は自由に扱える。

 自身のHPやMP、その他のエネルギーの盾を出す。



 ########



 まだ成長の余地があるスキルな様子。というか、これってもしかして【ギャンブル】で手に入れるとスキルレベルは1からになるのだろうか?

 あの相手がスキルレベル1のままにしているとは思えないし。それに効果時間が明確に記載されていないのは不親切だ。



「ま、何でもいっか」




 ふかふかのベットで目を閉じてログアウトする。もはや慣れたもので目をつむっていてもログアウトボタンを押せるのだ。


 明日は定期検診だからインできないので、続きはまた明後日だ。



「今日も何だかんだ楽しい1日だったなぁ……」



 そう呟いてから私は夢の中へダイブした。

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