###14 聖水フェスティバル!!

 

「キャシーさん、朝ですよ」

「うーん……あと2万年……」



「そんなに寝たら文明が入れ替わってますよ。ほら、起きてくだーい!」



 イベントが開始した日の翌日、そろそろ冥界に戻ってくる冥界の神と戦うために出発の準備をしていた。主にキャシーさんを連れていくという重労働を。


「揺らすなぁ……【怠惰の永眠】……」

「残念、効かないんですねこれが。ほらほら、おーきーてー」


「…………分かったから。だっこ」

「動きにくいのでおんぶならいいですよ」



 やっとベッドから出る気になったようなので、私は未だくたびれている彼女を背負って夜勤明けの2人のもとへ向かった。



「おまたせしました。行きましょうか」

「ああ、うん。そうだね……」

「くぅ……はっ! 寝てない! 寝てないからノルマの追加だけはご勘弁を……! ってなんだ夢か」



 この2人大丈夫かな?

 めちゃくちゃ眠そうだけど。私がこの体たらくに心配していると、キャシーさんはうとうとしながら指を地面に向けた。



「【怠惰の臥榻がとう】、3分だけ寝させてあげてー?」

「3分でいいんですかね?」


「そういうスキルだからー」

「なるほど?」



 とりあえずキャシーさんが出したベッドに幽鬼のような2人を放り込む。すると直前まで眠くないとか宣っていたにもかかわらず、即座に夢の世界へと旅立ってしまった。



 ――5分後。

 私たちは新たな装備に身を包んでいた。

 たった3分の睡眠で24時間分スッキリしたと起きて言ったパナセアさんは、思い出したかのように徹夜の片手間で作ったパワードスーツを取り出したのだ。


 ピッチリと体に張り付く謎のラバーのような素材。

 少しニッチすぎやしませんかね?


「パツパツー」

「何かいやらしい衣装ね……」

「これパナセアさんの趣味――」

「性能がよくてね」


「本当ですかね? 性癖とか――」

「性能がよくてね」



 あ、はい。

 しかし実際に軽く体を動かしてみると、いつもより動きやすいし筋力が増している気がする。

 ま、折角作ってくれたんだから少なくともここでは着ていよう。


「では、気を取り直して冥界へ出陣ですよ!」

「おー」

「これサラシとか巻いてから着るべきだったかしら?」

「ふふふ……祭りの開催とシャレこもうか……!」



 自由な人たちだ。

 私の心の安寧はキャシーさんだけだよー。



 ◇ ◇ ◇ ◇



 息を潜める。

 冥界に帰還したかなりの数の兵を遠巻きに眺めながらコソコソと大将首を探してうろつく。


「あれですかね?」

「まあ露骨にラスボスの城って感じだからねー。私の神殿の方がかっこいいけど」

「流石に警備が多いな。いや、退路のことも考えると警備だけではなく他の兵も結構持っていかないとまずそうだ」

「くー」



 冥界の端にあるお城、その周囲にはかなりの数の兵が待機していた。いつの間にか私の背中にいたキャシーさんは眠っているし、3人で片付けないと話にならないだろう。



「2人とも、これを」


「水鉄砲ですか? 何でまた……」

「あーはいはい、そういうことね」


 大きめのタンクの付いた水鉄砲を手渡された。

 意図がまるで読めな――あ!



「これで聖水をかけてやれば連中は殲滅できる。無駄遣い厳禁、やれるね?」


「なるほど、任せてください!」

「私の努力……勿体なくて使えないかも……」



 うだうだと乗り気じゃないフェアさんに、使わないなら私が二丁拳銃でやりましょうと提案するといいと突っぱねられた。めんどくさい女神だなー。



「突撃ー!」


「え、そんな真正面から行かなくても――」


「ハッハッハ! 流石の大胆さだね。私も続こう!」



 私とパナセアさんで完全武装の大軍相手に聖水鉄砲を抱えて突撃した。



「ほんと、ミドリちゃんってマトモぶってるくせに素でハジケてるんだから……」



 ため息をつきながら、フェアさんも少し遅れて参戦した。

 戦場になった冥界で、パワードスーツを来た水鉄砲集団私たちが開戦の狼煙を上げるのであった――


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