###7 造船所

 

 メデテー真鯛フェスティバルとして豪華な夕食を森の魔女ことリンさんの家で行った翌日。

 私はパナセアさんとサイレンさんと共にある交渉を行いに昨日訪れた船着場――の横にある建物へ向かっていた。


 以前三本皇国でエスタさんから聞いた情報から、クーシル天空国への道のりでここから南に向かうと孤島があり、そこから天空国へ行けると聞いた。


 そのため、私たちは長距離を移動するための船を手に入れるために造船所に向かっているのだ。

 造ってもらうにしろ、パナセアさんが見よう見まねで造るにしろ、プロのお話は聞いておこうという算段である。



「ごめんくださーい」



 私が代表して造船所の入口で声の張った挨拶をしてみる。ギロッと色んなところから一睨みされただけで、特に何も反応は無い。

 取り仕切っている人をパナセアさんとサイレンさんが探している横で、私は顔見知りを発見したのでリーダー探しは任せて軽く挨拶しに向かった。



「こんにちは、親方。今日は漁しないんですか?」

「おう緑頭。昨日のメデテーの大漁の話がまとまったから弟に自慢しに来たんだ」



「へー、弟さんがこの造船所にいるんですか」

「おうよ。お前さんはどうしてまたこんなむさ苦しい場所に?」


「実は――」


 ここにきた理由を親方に話すと、親方はそれならと案内しようとしてくれたので私は未だリーダー探しをしている二人に手招きした。

 集合したのを確認してから、親方は作業中の船造り職人さん達の横を通って関係者以外立ち入り禁止の扉の奥まで案内してくれる。

 奥の事務所のような部屋では、大きな設計図らしきものとにらめっこをしているこれまた歳のいったおじいさんが座っていた。



「うーむ……」


「レンツ、お前さんに客を連れてきたぞ」


 集中していてこちらに気付いていなかったので、親方がレンツさんと呼んだ人に声をかけた。


「む? ルーターか。俺に客だって?」


「どうも。アポも無しに失礼しています。私はミドリ、こちらが仲間のパナセアさんとサイレンさんです」

「船を造って欲しいんだとよ」


「この俺に船をだァ?」



 ギロッと探るような不躾な視線を向けてくるレンツさん。私とサイレンさんは少し背筋を改めて伸ばしたが、パナセアさんは設計図に首ったけだ。

 しまいにはボソッと設計図に口出しすらしていた。



「…………艦艇に近いが、攻撃手段が魔力依存だと動力源である魔力までも食うな。攻撃対象は海の魔物だろうからカミオロシ製の魚雷で――」


「……お前、同業か?」



「いや、すまない。1度潜水艦を造った時に船関連もある程度調べていてね。見たところ長距離艦艇の図面だとお見受けするが――」


「ああ、前俺が造ったのが長距離用の船だったんだが、そいつらは自分たちで魔物には対処できるから弱い武装は不要と武器搭載のは断られてな。んな事言われて黙ってられるかと考えているんだ」


 たぶんそれネアさん達だろうね。

 そう思いながら、私とサイレンさん、親方はその場で職人船オタ発明家ミリオタの談義が終わるまでお茶をして待つことにした。


 ――

 ――――

 ――――――


「――よっしゃ! お前とならとんでもねぇ船が造れる! できたらそれを持ってきゃちょうどいいだろ?」

「ああ、レンツ君ほどの職人が協力してくれるなら海の守り神すら倒せる船ができそうだ!」


「一応ぼくその海の神から力を借りてるからその例えはやめて欲しいけど、話がまとまったのならいっか」

「神殺しなら私の十八番オハコですよー」


 サイレンさんまでボケに回られては困るので更なるボケを入れておく。



「いや、パナセアさん達も本気で殺すつもりは無いでしょ。……あれ、ないよね!?」


 途中まで冗談だと思っていたようだが、凄いやる気に満ちた目をサイレンさんから逸らしたので彼は狼狽した。


 ま、海神の生死の行方はともかくとして、南の孤島に向かうための船は2人で造ってくれるようなので成果としては上々だ。

 何だか無駄に疲れたので、リンさんハウスに戻ろっと。




 ◇ ◇ ◇ ◇



「あ゙ァ〜、ここが安寧の楽園ことエデンですね。天使の私が言うのだから間違いないです」


「お〜上手いこというね〜」


「……」



 リンさんハウス。

 造船所にパナセアさんとそのお守り二サイレンさんを残して、私は一足先に帰っていた。


 今はリンさんのふくよかな胸部装甲に顔をうずめて癒し成分を確保している。背後からサナさんの冷たい視線が突き刺さっているが、正面の温もりと背後の冷感で実質適温だから気にしない。

 女性でもリンさんのお姉ちゃんパワーには勝てないのだ。



「ねぇ、話をはじめていいのよね?」


「いいよ〜」

「どうぞ、私の体勢にはお構いなく」



「……はぁ。まあ報告に入るけど邪神教の連中、嵐の前の静けさ並に動きが無いわね。こないだの墓荒らしから被害報告がひとつもあがっていないそうよ」



「墓荒らしれふか?」


「あんたいい加減リンの胸から離れなさいよ」


「まあまあ〜。いいじゃないの〜。お墓荒らしはね〜、ケネルが管理運営? している共同墓地が一つ残らず掘り起こされてたんだ〜」



 ふーん。

 現実ならそれこそ宗教的な動機による犯行だろうけど、こっちの世界で邪神教のを鑑みるにそんなフワッとした理由ではないだろう。



「ネクロマンサーみたいな人も向こうには居るみたいですから、それこそ何か仕掛けできそうですね」

「そうね〜。あの時邪神を仕留められてたら話は早かったんだけどね〜」



 そう、リンさんとサナさんは既に邪神と交戦したことがあるらしいのだ。

 しかし消耗が大きく勝ち目が無さそうなのでリンさんの転移による撤退といった結果になったらしい。ちなみにその転移先がたまたま先日のエルフの里だったそうだ。

 彼女らは邪神との戦闘の後に立て続けに世界樹とかいうクソボスを相手にしたのだ。彼女らが来ていなかったらどうなったか分からないので、私的には邪神から敗走してくれていて助かったとも思ってしまう。



「それで、どうするんです?」


「まあ向こうさんの足どりは掴めないからね〜」


「ええ。残念ながら2度もしっぽを掴ませてくれるほど間抜けではないないようだから、いつでも戦えるようにはしつつ様子見かしら」



 いくら邪神教が相手でも、この2人に加えて私たちがいるのだ。今更ネクロマンサーが操る死者の有象無象では話にならない。

 相手を買いかぶりすぎるのも精神的に疲れるしそれくらいのスタンスでいいだろう。


 私はそう結論づけてリンさんの胸にしっかりと顔をうずめるのであった。



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