###6 王国領、噂の港町ケネルなう
災獣との
道中で試したのだが、上空の乱気流は虹を纏えばものともしなかった。これで上空に逃げてネチネチ遠距離から攻撃する戦法もできることになったというわけだ。
オマケに上空の乱気流を生み出しているのも神能によるものだと予想がついたので、いつかシバいてやろうと息巻いておいた。
閑話休題。
門番さんに冒険者カードを見せてから、仲間の特徴を言ってもう着いているか確認したら、昨日の夜に町に入っていることを教えてもらった。
「着いた旨のメッセージは送っておきましたが、気付いてくれるまで何して時間潰しましょうかねー」
時刻は15時。
この時間帯ならみんなインしていると思うが、私をはじめとした〘オデッセイ〙のメンバーは緊急時以外メッセージを確認するようなマメな性格はしていない。平時において1番コンタクトが早いのはサイレンさんだろうけど、あの人もあの人でパナセアさんと居ると意識が他のことに裂けないだろう。
「じゃあ私のコメントの下の人が書いたことをやります。常識の範囲内で」
[はみがき::ん? 今なんでもって……?]
[階段::逆ナン]
[紅の園::食べ歩き]
[ミントヒヒ::町破壊]
[唐揚げ::あいさつ運動]
[◆ミドリ◆::↓]
[チーデュ::釣り]
「釣りですか……。やったことありませんが、とりあえず釣り堀とかがあるか探してみましょう」
なければ素潜りで剣を使って魚を採ればいい。いや、よく考えたらそれって密漁なのでは?
やっぱり釣り堀が無かったら冒険者ギルドに相談しに行こう。
「んー」
キョロキョロと船着場から釣り道具を持ってそうな人を探す。しばらく探していると、髭の長いおじいさんがこちらに近寄ってきた。服装を見るに、船乗りだろうか。
「釣れたのはおじいさんでしたってね。ちょうど良いですし聞いてみましょうか」
顔の険しいおじいさんが船着場から堤防に居る私に声をかけてきた。
「おいお前」
「あ、はい。ジロジロ見ていてすみません。この辺りで釣りができる場所はないかと探していまして」
「…………何だ違うのか」
「違うというのは?」
「いや、目があまり良くなくてな。今日来るはずの異界人がすっぽかしやがったからようやく謝りに来たと思ってな」
「それは……大変でしたね。私も異界人なので言えたものではありませんが、異界人全員がそんな不義理な人ではありませんとだけ言っておきます」
まったく、とんだスカポンタンも居たものだ。
約束ごとは命にかえてでも守れって習わなかったのか!
ちなみに私はそこまで厳しくは習わなかった。
「分かってる。異界人もこっちの俺らも人それぞれ性質は違うのはよく知ってる。……ところでお前さん、釣りがしたいんだったか?」
「そういえばそうでした。釣りをしに来たんでした」
「なら俺の船に乗らねぇか? 今から出発なんだがさっき言った通り欠員が出てな」
「ありがとうございます! あ、釣った魚はそちらに譲りますね。釣り自体が目的ですので」
「いいのか? こっちにとっちゃありがたい話だが……」
「ええ、大丈夫ですよ。ほら、はやく出港しましょう! 海の主が私を待っていますから!」
◇ ◇ ◇ ◇
「…………」
「すげえなお前! メデテーしか釣らないとか幸運の女神かよ!」
私は今、虚無に陥っていた。
メデテー(現実だと多分真鯛)しか釣れないのだ。ここら辺は岩礁も少なく、メデテーの生息域的には公国でならそこそこ釣れるらしいが、ケネル周辺でメデテーが釣れることなんて滅多に無いらしい。3年に1匹とかそういうレベルのようだ。
それを私は、釣りを開始してからたった10分近くで150匹くらい釣っているのだ。単純計算で4秒に1匹釣れていることになる。
……メデテーはアホなのか。数秒間隔で目の前から消えていく仲間を見ても尚餌に食いつくなんて、アホなのだろうか。アホに違いない。
「何か私が想像してた釣りと違うんですけど。完全に工場の機械の気分ですよ」
さっと餌をとりつけては海に投げ入れ、一瞬待ったら引き上げて魚を後ろのクーラーボックスのような魔道具に放り投げる。
これの繰り返しだ。もはや拷問まである。
[枝豆::こんなの釣りじゃないだろ……]
[セナ::運がいいのか、メデテーに好かれるフェロモンでも出てるのか]
[タイル::実質450年分釣ったことになるのか、こわぁ……]
[壁::目が死んでるよ]
目が死んでて何が悪い。
そんな開き直りをする気力も無いまま私は釣りという名の精神修行を続けた。
――ピロンッ♪
――――は!!
しばらく無我の境地に辿り着いていた。
あらかじめONにしておいたメッセージの通知で何とか正気に戻ることが出来た。
片手で釣りを続けながら、届いたメッセージを確認する。
「ふむ、どうやら皆さん既にリンさんと合流しているらしいですね。冒険者ギルドまでコガネさんが迎えにきてくれるみたいです」
一般的な漁と比べたら早すぎるが、釣れた魚の量もとんでもないので問題は無いだろう。
「親方ー。そろそろ帰りたいです。というか船の積載量的にもそろそろ沈むんじゃありませんか?」
「緑頭、バカ言うんじゃねぇ。流石に沈まねぇよ。まあお前さんが帰るってなら引き上げるかね」
途中から数えていなかったが、結果的に私が釣ったのは429匹と1足だったらしい。内訳はメデテー429匹、高級そうな長靴が1足だ。
よく考えたら高級そうな長靴は明らかに異質で、船の乗組員さんいわく古代文明の遺品なのではないかとのこと。何か神の気配がするし、多分当たりだろう。
私はそんな長靴要らないので引き取ってもらい、親方から心ばかりのお礼とメデテーを20匹ほど頂いて別れた。
「今日はみんなでこれを食べきりましょうかね。20匹ならウイスタリアさんの胃袋を考えたらちょうどいいでしょう」
[あ::贅沢者め]
[鮭フレイク::いいなー]
[唐揚げ::分けてくれ]
[紅の園::リアルラックがスゴすぎる]
[バッハ::養って欲しいまである]
[単芝::裏山]
その後、コガネさんと合流した私は魚臭いと罵られ、森にある川で念入りに洗われましたとさ。
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