##38 初めての妖怪狩りへ

 

 大きな部屋で、電源マークのように葉小紅さんを半ば囲うように座って話を聞いている。



「まずはこちらをご覧ください」


 早速畳の上に広げられたのは複数の紙。すべて妖怪の手配書である。

 左から順番に――〈獣の災害〉白面金毛九尾の狐、〈海の災害〉海坊主、〈陸の災害〉だいだらぼっち、〈風の災害〉大天狗、と書かれていた。



「この中から選べってことでしょうか」


「いいえ。これらは説明のために用意した、災害と称される最上位の妖怪です」



 災害かー。私たちなら何とかできる気がしないでもないが、ここはプロフェッショナルにお任せすべきだろうね。



「今紹介した妖怪と遭遇したらまず逃げてください。人の手に負える存在ではないので、絶対に戦おうなんて考えないでいただきますようお願いいたします。そもそもこれらの妖怪は中立を掲げているので、こちらから刺激しなければ問題はありません」



「我ならそんなの余裕だぞ!」

「こら、話を遮らない」



「うぅ……」

「悪いネ。続けて」


「そうさせていただきます」



 ウイスタリアさんの茶々も入ったが、葉小紅さんは粛々と話を進める。



「次にこちらを」



 改めて紙が置かれた。

 今度は雪女、土蜘蛛、大蝦蟇おおがま、河童、くだん――などなどのこちらも私でも知っている妖怪が並べられている。



「こちらは人に害を為す場合がある妖怪でして、皆様にはここから討伐する対象を選んでいただきます。生息地が被ることはないため、基本的に1日1体が目安となっております」



 そう言われるやいなや、私たちは光にたかるハエのように各々面白そうな妖怪を探していく。

 私はやはり雪女かくだん、ぬえ辺りに惹かれている。手配書の抽象的な絵ではあるけど、そこら辺がビジュアル的に気持ち悪くなさそうでホラー要素も少なそうだからね。



「じゃあ多数決で決めましょうか。候補も多いですし、1人3回投票という形式で」


「せやな。でもうち何でもええんよなぁ」

「同じく正直何でも構わない」

「吾輩も何でもいいな」

「我も強ければ良いぞ!」

「あたしもどれでもいけるネ」

 〈どらごん〉



 私の仲間に弱点は無いようだ。

 頼もしい限り。意見は出してほしいのだけどね。


「じゃあ全会一致ということで雪女に決定です。葉小紅さん、雪女でお願いします」


「承知しました。雪女はここから少し行った山に生息しており、どの季節でもその周囲は吹雪いているのが特徴です。今でしたら遠くからでもすぐに分かるでしょう」



 そうなると防寒具は必須か。まあこの真面目な葉小紅さんのことだからどれを選んでもいいように用意はしているんだろうなー。

 そうなってくると面白味が薄れそうだ。少しくらい遊び心がほしい。




「よし、決めました! 生息地は分かりやすいみたいですし、3グループに分かれて競争しましょう!」



 ◇ ◇ ◇ ◇



 上手いこと3・3・2でグループ分けに成功。

 内訳としては、ウイスタリアさん&エスタさん&どらごんグループ、パナセアさん&コガネさん&ストラスさんグループ、そして私と葉小紅さんのペア。

 これにはもちろん理由がある。葉小紅さんとの時間を確保して、今後のためにも連携の練習なりお互いの戦い方を見せ合いたいのだ。暗躍めいた行動を共にするわけなのだから、得意不得意は十分理解するべきである。


 妖怪退治のプロフェッショナルがついているのだからと2人にさせるよう納得させた手腕は、私の言い訳力の賜物だろう。



「それにしても――寒いですね!」


「それだけ雪女も近いということね」



 現在、私と葉小紅さんは雪女がいるとされている山の中腹部にいる。山頂から雪が吹いているのでひとまずそこを目指しているわけだ。

 スタート地点からは雪は見えず、他のグループとはバラバラになったけれど、これは私たちの勝ちかな。




「ミドリ、油断してはいけない。今回選出したのはあなたの強さを見た結果によるもの。つまり、本気でいかないと簡単に死ぬの」


「了解です。気を引き締めます」



 寒くて体がかじかんでしまうのは結構なデバフだから、判断が遅れないようにしないといけない。常に刀に手をかけておく。




「ところで、先ほど見せてもらった災害レベルの妖怪の中に、“白面金毛九尾の狐”と書いてありましたけどあれって――」


「そうね、ご想像の通り。あれは神だけど如何せん性格が腐ってるから色々と問題を起こして災害扱いなの」



「そんな災害みたいな神を相手に、約束をとりつけた貴方のご先祖さんはどんな化け物だったんですか……」


「九尾の話だと、私の父が九尾をコテンパンにしたそうよ。純粋な刀捌きだけでね」




 災害扱いの妖怪を刀1本で制圧する侍……なにそれかっこいい。

 葉小紅さんの父親ってことは年齢的にも実力的にも生きているだろうし、まだまだ世界は広いんだなぁ……。



「少し不躾かもですけど――」


「ん?」



「何だか色々と事情があって亡命して、親御さんとは離れ離れなんですよね?」


「そうね。思うところはないのかって話?」



「思うところというか、家庭の話なのでどうかとは思うんですけど、貴方のご家庭の全貌が未知すぎて好奇心がくすぐられまして」


「そういうこと。面白い話でもないから話さなかっただけ。別に聞きたいなら話してもいいもの」



 冥界で見たナズナさんも七草家の姉妹らしいし、そこら辺の興味は尽きないのだ。特に、葉小紅さんや鈴白さんは日本人みたいな黒髪なのにもかかわらず、ナズナさんはド派手な虹色の髪だったこととか。



「私達の親は……父親多少マシだった。でも、あの国はどこかおかしかったの。……ごめんなさい、あまり明確に何があって逃げてきたか覚えていない」


「無理に思い出さなくても大丈夫です。国の方針とそりが合わなくて亡命してるのは分かりますし」



「方針というか…………あそこは終わりのない永遠の国、常に人類の最先端にあって進化の無い停滞した場所だった。あそこはおかしいって、誰かが言っていたのは覚えている。あれは誰だったか――――っ! 頭が……」


「ちょ、大丈夫ですか!?」



 突然頭を抑え込んで立ち止まってしまった。思い出そうとしてそうなっているようだが、これはもしかしたら、小さい頃のことで記憶に残っていないのではなく、記憶を消されたとかそういうパターンじゃなかろうか。

 天空国家、どうもきな臭いな。



「…………ふう、落ち着いた。取り乱してごめんなさい」


「いえいえ。頭痛はもう平気ですか?」



「ええ。結局あまり思い出せなかったのだけど――どうやらおしゃべりはここまでね」


「うわぁ、そうみたいですねー」



 粉雪で視界は悪いが山頂から雪崩が迫っていた。今私たちのいる場所に雪は積もっておらず、雪崩がちゃんとこちらに狙いを定めていることから鑑みるに、雪女の仕業で間違いないだろう。



「【瞬閃】」


 隣にいる彼女が刀に手をかけた瞬間、眼前にまで迫っていた雪の塊が綺麗に割れた。

 ちょうど私たちの立っている場所を避けるように雪が山を崩れ落ちていく。




「おー!!」


「ミドリ、来る!」


 私が呑気に感心しているのを待ってくれるはずもなく、雪女の遠距離攻撃が続く。

 次は空から氷柱つららが降ってきたのだ――




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