##43 剣術のお勉強(ユニークスキルのオマケ付き)
「ふっ――!」
〈しっ――!〉
熾烈な攻防が続く中、私はあることに気が付いた。二刀流は私も魔王さんとの戦いまで使っていたし、とてもロマンのある戦法だと思っていたが、こうやって相手にしてみると案外そうでもないかもしれない。
相手によりけりかもしれないが――
〈【連撃】〉
「よっ、ほいさっ」
絶え間なく斬撃が迫るが、その全てを軽く流していく。
攻撃の威力が両手持ちの一刀流より弱いのは当然ながら、腕の可動域からのノビが小さい。重心のかかり具合も浅くなっているように思える。
二刀流、あんまり強くないのでは?
〈二天一流・昇双龍〉
「っく――」
真正面から両方の刀を同時に振ってきたので受け止めたが、思いの外重い。
上方向への力に押され、体が浮いてしまった。
これはマズイ。堕天使になって【飛翔】が使えなくなった今、次に来る斬り返しが避けられない。
こんなところで負けるのは嫌だ。
何とかして躱せないものか――
〈二天一流・
「――」
ついさっき、私は水の中を歩いた。
なら空中でも歩けるはずだ。
ここで壁を超えないでいつ超える。
こんなところで、たかが一国の剣豪なんかに負けてる暇はない! 私は世界で最強クラスの相手に挑まねばならないのだ。
負けても経験にはなるけれど――
「勝った方が経験値多くもらえるのはゲームの常でしょうが!」
空間は現状感覚だけでは干渉できない。
だから、よく見るんだ。そこに揺らぎを見出して、足場にするだけの簡単な作業。
「どおおい!!」
片足、それも爪先だけが空気を蹴った。
自分でもなぜできたのかさっぱり分からないが、結果的に斬撃を躱せているのだからよし。
「ふぅ、危ない危ない」
二刀流が理論上大して強くないからといって、私の中途半端な練度を基準にしたものだから今の相手のような極めた達人となると話は別だ。なめてかかったら普通にこっちが死ぬ。
向こうの方が技量も総合的なパワーも上、剣速はギリギリ互角だけど刀の間合いでは向こうの方が立ち回りも上。
私が上回っている要素は、絶好調の動体視力と空間認識能力、そして恵まれたスキルだ。
「強みを活かした戦い方が必要になってくる……」
並べてみると、私は回避能力に優れていて、補助系ではあるが理不尽なスキルが多い。
であれば、一番理想の立ち回りは全部避けて高火力でお返し戦法――名付けて、ワンチャン勝てるかもだしそのワンチャンを待ち続けよう戦法!
長……。
略して一撃カウンター戦法とかでいいや。
「集中……」
目を凝らして相手の動きを見る。
視線の動き、両手両足の指先の動き、刀を振るう筋肉の動き、周囲の障害物である竹の位置関係。
そして何より、重心の動き。
〈【神速抜刀】【伸刀】〉
「わっと、そん」
来るとわかっていれば赤い線に合わせて間合いから外れるだけ。今回のは伸びる斬撃だったから普通に避けたけど、普通のだったらギリギリ当たらない位置から最速でカウンターを決めることができるだろう。
伸びる斬撃……欲しいな。
今実際に放つ姿は見れたし、あの腕の振りと斬る前の脱力具合、斬る瞬間の手首のブレを再現すればできるかもしれない。
剣士との戦いは勉強になるなー。
「こうかな!」
お、斬撃が伸びた。
これは便利だ。
『スキル:【伸刀】を獲得しました』
『使用者の特殊な条件保有を確認』『派生スキルへの統合を申請します』『――承認されました』
『ユニークスキル:【
わーい(棒)!
ユニークスキル手に入れちゃった!
我らが皇帝陛下の【絶対領域】と似た響きだし、オソロだね、やった!
軽くステータス画面を開いてスキルの詳細をチラリ。
########
スキル
【無間超域】ランク:ユニーク
空間を捉えている感覚器官によって、スキル所有者の攻撃範囲が永続的に広がる。
########
私が空間を捉えているのは視覚。
つまるところ、私の視界の限りが攻撃範囲になるってことかな?
無茶苦茶過ぎて理解が追いつかないけれども。
「そい!」
〈――ッ〉
私が剣を振ると、私の見える範囲まで斬撃が伸びた。今回は避けられたけどチートスキルの部類だ。
視界の範囲内ならどこでもというわけではなく、指向性を持たせた攻撃は視界の範囲内いっぱいその方向まで間合いが広がるといったところだろう。
範囲系の魔法とか使ったらどうなるのか試してみたいな。
「貴方には申し訳ありませんが、新人研修ということで許してくださいね」
私の視界外から届く攻撃手段のある相手以外には一方的に勝ててしまう。私もそれなりに足は速いから、余程の実力差がないと詰められないし。
勝たせて頂こう。
◇ ◇ ◇ ◇
はぁ〜〜、疲れた〜!
肉体的にも精神的にも。
「タイマンで、技量のある相手にやる戦法じゃなかった……」
こっちの攻撃は一方的に届くけど、避けられたりして意味ないし、向こうのは当たらないように間合い調整していたしで沼試合になったのだ。
かれこれ戦い始めて2、3時間は経過した。
最終的にゴリ押しで削りきれて粘り勝ちとなった。
……眼精疲労ってリスポーンしたら治るかな?
そんなことを考えながら、私はどうやって帰ろうかと途方に暮れていた。なんせここまでどうやって来たかも、そもそもここがどこかすら皆目見当もつかないのだ。
「視聴者さん達を頼っても、ここがどこか分からないと道案内なんて不可能だからなー」
リスポーンして町に戻るという手もあるにはある。痛みと気持ち悪さを伴うから最終手段だけどね。
「師匠いませんかー! 宿に帰れないんですけど助けてくれたりしません?」
しばらく待ってみても何の返答もない。大丈夫、想定の範囲内だ。諦めて適当に
「あ、おったおった。こりゃまたボロボロやな」
「…………コガネさん? 私幻覚でも見てます? あ、でも幻覚ならコガネさんが仕掛けたのかな? あれ、つまりコガネさんが近くにいる? いや、でもコガネさんは幻覚で――」
「幻覚とちゃう。本物や」
「本当に本物ですか? でもどうしてここが……」
メッセージは修行を始めた頃に送ったきり。それ以降の位置情報なんて出していない。やっぱり私の疲れが見せる幻覚なのかもしれない。
「パナセアはんに頼んだら某国民的タヌキみたいに便利な道具くれたんや」
「それ以上はマズイですよ。でもそんな都合のいいアイテムあるんですねー」
「ミドリはんすぐ迷子になるから、念の為着物に位置情報を送信する機械を仕込んどったんやって」
「なんですかそのストーカー御用達みたいな犯罪臭のするアイテムは」
いつか気軽にアウトな物を作って捕まりそう。パナセアさんには、そこだけ十分気をつけてほしい。
「まぁまあ。こうやって役に立っとるんやし許したって。そないことより、もうじき夕ご飯の時間さかい、はよ行こ」
「もうそんな時間でしたか。よいしょっと、ふひぃ……今度ははぐれないように袖掴んでおきます」
「見た目は親子になってまうけどしゃあないなぁ……」
そこは羞恥心を捨てないといつまで経っても帰れなくなってしまう。
疲れきった足でのそのそと帰途に着く。
――約1時間弱歩き、夕焼けに照らされた町が見えてきた。何かお祭りの準備のようなものが始まっていて、この時間帯でも町が活気で溢れている。
「お祭り近いんですかね」
「明後日に花火大会があるらしいで」
おー、それは是非とも参加したい。
今日はゆっくり休むとして、面白そうだし準備のお手伝いでもしようかな。
「楽しみですねー」
「やなぁ〜」
今日は濃度の高い一日だったし、明日は薄めのスケジュールにしようと思う。のほほんとまったりする明日を祈って、今日は早寝に勤しむことに決定した。
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