###26 ソロトーナメント前半1,2回戦、あのときの再戦

 

『試合開始!』

『かいし〜』



 実況の田中さんと解説のリンさんのアナウンスが響く。私の初戦の相手は真里亜さん。

 帝国での闘技大会の時に戦った、テイマーの不良少女である。


「再戦だな! 【召喚サモン・ヒャンちゃん】【召喚サモン・ミント】!」



「『ひらけ、遙か天の先へ至るために』【神器解放:順応神臓剣フェアイニグン・キャス】」


 3号との二刀流で構える。

 真理亜さんの傍には赤色の虎と黄色の大蛇がいる。そして本人も釘バットを肩に乗せている。



「タイマンで勝てる気しねぇからな。悪く思うなよ」


「思いませんよ。やれることをやってこその戦いですから」



 〈【ガルァア】!〉

 〈【シャァー】!〉


 両サイドから2匹の強襲が迫る。

 私は剣で軽く逸らしていなし、真理亜さん目掛けて走る。


 身体能力はやはりレベル統一でそこそこ下がっていてちょっと違和感がある。慣れるために少し打ち合うべきだろう。



「そいっ!」

「らあ!」



 私の剣と彼女の釘バットが火花を散らす。

 空いた左手の3号で斬りかかろうと思ったが、蛇のしっぽで叩きつけようとしているのが見えたのでそっちを斬る。


 カバーに入った虎の爪もかわしつつ真理亜さんと武器を打ち合う。


 〈〖グリァウ〗!〉

 〈〖シィィ〗!〉



 足元から岩の牙が私を噛み砕かんとし、上からは氷柱の雨が降ってきた。

 魔法陣もあったし魔法だろう。それは悪手だよ。



「【吸魔】からの【放魔】」


 全部吸い込んで真理亜さんにぶつける。私依存の火力ではないため少々心もとないが、奇をてらうのには十分だ。

 目眩し程度のそれに紛れ、私は上空に【超過負荷オーバードライブ】で作り出したエネルギーの剣を無数に出現させた。

 私は大きく後退する。


「【従魔合体】!」



 降り注ぐ剣の雨に対抗するためか虎と蛇が真理亜さんに混ざった。私の【超過負荷オーバードライブ】を耐え切る程の強化だったようで、地面を砕く力で踏みしめている。



 しかし――目が合った。距離はそこそこあるのだ。私相手に距離が開いた状態にしておくのは命取りである。




「【残花一閃】」



【無間超域】で射程が伸びた斬撃が彼女を真っ二つに叩き斬った。




『勝負あり! 勝者、ミドリ選手!』




 田中さんの声が聞こえた。

 私は復活した真理亜さんに手を差し伸べて声をかける。




「私相手に手数を減らしたのは失敗でしたね。多少の強化よりまともに攻撃する隙を与えないことに注力するべきでした」

「……みたいだな。てか解説の調子が抜けてねぇな」


「あ、ホントですね。うっかりです。大変失礼しました」

「応。いやー、大差ついちまったけど……次は絶対メタはってぶっ倒してやるからな!」



「私メタとはなかなか面白そうです。首を洗って待っておきます」

「それは自分で言うことじゃないぞ」



 真理亜さんとだべりながら私は次の自身の出番まで時間を潰しに向かう。

 出店も出ているようなので、解説で楽しめなかったお祭り騒ぎを今のうちに堪能するのだ。


 試合フィールドから出る際、黒い外套の男とすれ違った。お互いが認識しあって足を止める。



「真理亜さん、先に焼きそば屋さん行っててください。お代は私が出しますので」

「……そうか。じゃあホイップクリームトッピングでも付けとくかな」


 何その絶妙に不味そうな組み合わせは。

 そんなツッコミはともかく、私と彼――クロさんは背中越しに言葉を交わす。




「1回戦の会話、聞きましたよ」

「それで? ネア辺りに何か言われた?」


「いえ、彼女が私に頼ることなんてありませんよ。これだけは私が言っておこうと思っただけです」

「?」


「もうすぐクーシルに着きます。どうか色々とよろしくお願いしますね、?」

「……向こうに着いたらネア達と合流して協力しておくといいよ。人を使うのは彼女の方が上手い」



 随分と買っている様子だ。

 男のツンデレはあんまり需要ないぞー。とそれはまあよくて、私たちと同じ目的――ソフィ・アンシルの打倒――を持つ者の実力を確かめるには丁度いい機会だ。


「クロさん、なぜ今更表舞台に戻ってきたか伺っても?」

「あんま心配かけるのもあれだからってのと……PvPだし」


「ほんと、血筋ですねぇ」

「かもね。……じゃ、決勝で待ってるから。マツに負けないでよ」


 クロこと黒川こうさんをはじめ、彼の姉のリンさんや母親のレイさんも負けず嫌いだ。血ってのは裏切らないものである。



「リベンジは果たしますよ。では、決勝で」



 それだけ言い残して、お互いに向き直ることなくそれぞれの道へ進んで行った。その先で待ち受けていたホイップクリーム爆盛り焼きそばで胸焼けと吐き気を催したのは、また別の話。

 苦しい……。



 ◇ ◇ ◇ ◇




 肌を撫でるささやかな風と、照りつける太陽があの時を想起させる。

 折れかけた心に大切な人の応援というアイロンをかけ、初めて未来へ手を伸ばした闘技大会の決勝を。



 相手は戦闘狂のメイド、マツさん。

 あの時と違って最初から外套を取っており、くすみがかった碧色のショートボブに、金色の瞳とメッシュが太陽に照らされて爛々としている。

 上に向いた2本の青い角も力強く、種族的な強さを感じさせる。

 既に指をポキポキと鳴らしながら歪んだ笑みを浮かべていた。



「今回は最初から大天使ですからね。【不退転の覚悟】は禁止されていますので最後まで大天使のままですけど」



 あの時は【不退転の覚悟】で大天使になったが、今回は最初から最後までこの姿だ。光の輪を頭の上に置いて純白の翼をはためかせている。


『試合開始!』

『し〜』



 お互いにゆっくりと一定の距離を保ったまま歩き出す。横に、あくまでも平行に。



「いい顔するようになりましたねミドリさんも」

「もしそう見えるならおそらく貴方の影響でしょうね」



 自覚はなかったが、戦闘狂の彼女が気に入るような昂った表情だったらしい。

 自制しないとダメだね。どうも私にもそのがあるみたいだから。


 雑談のついでに飛んでくる衝撃波をかわし、お返しに【無間超域】による斬撃を見舞うが当たらない。


 しばらく、街中でやったら街が滅ぶような挨拶程度の攻撃を交わしたところで、マツさんは足を止めた。



「私は嬉しいんですよ。本気で戦える相手が増えて、ね? 【鬼拳】」



 彼女は、泣き叫ぶ赤子すら冬の野原で駆け回りかねない様な狂気じみた笑顔で接近してきた。



「【スライディング】」



 当たったら風穴が開いていた。

 その場で【走術】のアーツで回避して正解だ。



 やはりマツさんの身体能力は今まで出会ってきた中で、我らがジェニー皇帝陛下さんを除いて一番強い。同レベルでもパッシブ系のスキルや種族的な特徴でひと回り上をいっているように思える。




「【超過負荷オーバードライブ】!」


「【神格化】」



 スライディングした体勢のままマツさんを包囲する形で剣を作り出して射出したが、その全てを粉砕されてしまう。

 青かった角が金色に光っていた。


「追加で【謙譲の天使】と【本能覚醒】」



 天使のような姿も加わり、キメラ感が増す。

 そんな彼女は自身のこめかみに指をあてがい、銃のような形を作った。


「【謙譲の自重】、視覚」


 マツさんの瞳から光が失われた。

 ゆっくりと目を閉じている。


 威圧感が増していることから推察するに、五感のどれかを使えなくすることで他を強化したり身体能力を向上させるスキルと見た。


「【樹海大瀑布】!」



 とりあえずあの身体能力でまっすぐ来られたら秒でミンチにされるのは目に見えているので、木を生やして時間を稼――



「ぬんっ!」

「っ! 【飛翔】!」


 蹴りの構えをしたのが目に入り、急いで空へ退避した直後、木々が地面ごと吹っ飛んだ。

 彼女が蹴った跡はえぐれてぐちゃぐちゃになっている。技もクソもあったもんじゃないパワーである。



「【縮地】【鬼神拳】」

「【空蹴り】【縮地】【理想を描く剣イデアヴルツァ】!」


 横に跳ぶ。

 彼女の攻撃から距離をとった状態で、神力を纏わせた剣でマツさんのHPを斬る斬撃を放った。


 ――しかし、彼女の拳についていたオーラを斬っただけに終わった。



「しまった……」


 神格化して神力を纏わせているのだからそうもなる。神力とはHPとMPの合成したものに過ぎないのだから当然である。


 嫌な予感がして【超過負荷オーバードライブ】の盾を生成する。


 瞬間、マツさんの顔が眼前にあった。




「【鬼神拳】!」




 ギリギリ作り出した盾で受け止めたが、そのまま会場の結界まで押し切られて身動きがとれなくなる。【超過負荷オーバードライブ】の盾も次々と砕けていく。

 私はゴリゴリ減っていくMPを見ながら、死にものぐるいで手を伸ばした。



 MPが底をつき、盾の供給も追いつかず彼女の拳が突き刺さる。しかし、威力はかなり抑えられた。



 HPはまだ残っている。



 私はマツさんの胸に手を当てた。

 別におっぱいを触りたいのではない。ここが生命活動の根幹だからだ。



「『紅く輝け』」



 私の手に深紅の小さな球体が出現する。



「――【命の灯火ソルス・ノヴァ】!」



 神力を練り込んだ炎が鬼神を燃やす。

 その火力は神力と《背水の脳筋》の職業スキルも相まって想像を絶するものであった。


 神力を十全に操作できていないマツさんは一瞬で灰となって消えていく。




『終了だー! 勝者、ミドリ選手!』

『激闘だった〜』



「勝った……んだ」



 ギリギリだった。

 ジェニーさんからコピーしたスキルだし、もう彼女に足向けて眠れないや。


 精神的疲労から膝をついて胸を撫で下ろす。

 ……む、マツさんの方が胸あるかも。そっちは負けたぁ。


 そんなふざけたことを考えていると、復活したマツさんが私を強引に引っ張り上げ、鼻息荒く顔を近づけてきた。



「おかわり!」

「絶対嫌です」



 子供のように駄々をこねるマツさんには悪いが、しばらく彼女と戦いたくない。勝ち逃げさせてもらう。



 そんな思考回路ということは、まだ戦闘狂ではないようだ。ちょっと安心した。

 私はどこにでもいる普通のJKなのだ。間違いないね。

 ……後で試合のログを見返した際に戦闘中ずっと笑っていて自分でドン引きしたくらいには普通のJKなのだ。


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