###27 ソロトーナメント前半決勝

 



『向かって右側〜、今の所魔力を爆発させて勝ち抜いてきた、私の愛弟ことクロ〜』

『リンさんの弟さんなんですか!?』


『そ〜だよ〜。かわいいでしょ〜』

『あははは……』



 賑やかな実況解説席だ。

 人を爆発四散させる人間をかわいいとは思えないんだけどそこら辺は姉フィルターでもあるのだろう。


『この前もね〜』

「は、はい」



 田中さん、その人マイペースの極みにいるので合わせなくていいと思います。無視して進めてください。自身の姉の無邪気さに本人であるクロさんも頭を抱えてるから。

 頭を……あ、違うわ。どんな恥ずかしい暴露をされてもいいように耳を塞いでるだけだ。



『私が定規をろうと代わりにしてカブトムシゼリーを……あ、ごめんなさい。進めなきゃだった〜』

『そ、そうですね! そんなクロ選手の相手は、解説でもお馴染みのミドリ選手です!』



「定規をろうと代わりにしてカブトムシゼリーをどうしたんですか!? マッドサイエンティストもビックリのその実験にはどんな意味が……?」



 突拍子の無さすぎる行動の真意を探るため思考の海へダイブしていくと、すぐに試合開始の合図が聞こえて忘れることにした。じゃないと瞬殺されてしまう。


 好奇心は猫を殺すとも言うからね。たぶんここまで直接的な意味合いではないだろうけど。



「姉さんにはネットリテラシーを叩き込まんとな……」

「それには私も是非協力させて下さい」




 ひとしきりお互いの精神的疲労を労った後、彼はこちらに手をかざした。


 ――体が内側から張り裂けそうになる。


「ぐぬぅ……」


【魔力操作】でそれを鎮めると、クロさんはこちらに接近していた。魔力を操り、短剣の形にして斬りかかってきた。




「『ひらけ、遙か天の先へ至るために』

【神器解放:順応神臓剣フェアイニグン・キャス】」




 私も剣を2本取り出して彼の攻撃を防ぐ。

 魔力でできている短剣なのでもしかしたらと思い【吸魔】を使ったが、効果は無い。スキルによる魔力の吸収すら拒むのか。



 ……まさか。




「魔神の神能、ですか」

「――正解だ」



 マナさんの担っていた役割であり、一度過去へ行った私だから辿り着いた答え。その魔力制御技術によって武器スキルである【吸魔】すら無効化するとは。3号は仕舞って置いた方がいいかもしれない。

 ……この戦いにはついていけないってやつだ。



「後輩、ちょっとした授業をしようか」

「授業?」


 大技のための時間稼ぎだろうか。それがブラフにせよ、彼は私なんかよりずっと情報を持っているだろうから耳を傾ける価値はある。


【無間超域】で斬撃を飛ばしながら続きを待つ。




「魔法と魔術とは何か。一般的なスキルとは違い、詠唱を必要とするそれらはどのような処理が行われているか」

「魔神が管理してるとか、ですかね?」



超過負荷オーバードライブ】の剣も交えて攻撃しているが、どれも軽くいなされてしまう。純粋に技量が凄まじい。




「魔法は世界……つまりシステム側に一任されている簡易的なものだ。それに対し、魔術は詠唱の通り旧魔神が“女神ヘカテー”に託した技術だ」

「マナさんが……」



「生成された魔法陣に応じ、対応する神能の一部から抽出した結果をもたらす技だ。スキルという形によって有耶無耶になってはいるが、大事なのは魔法陣なんだ」

「まさか……!」



 足元につい先日見たばかりの大きな魔法陣が光り輝く。



「姉さんのはいくつかの魔術を組み合わせる異質なものだけど、複数の魔法陣が併存しているこの魔法陣を組み立てれば同じ結果に辿り着く」



 彼は漏れ出る閃光の中、口パクでその技の名前を告げた。


「エクストラアルティメットスーパーノヴァ〜」



 ムカつくくらい似ていないリンさんのモノマネに眉をしかめながらも、私は冷静に対処した。


 一度生還しているのだから問題は無い。



「【理想を描く剣イデアヴルツァ】!」



 魔術によるを斬り、五体満足で私は立っていた。

 そこに当然のように追撃の一手が迫る。



「〖chaotic giants〗」




 黒い巨人が5体現れ、私を踏み潰さんと手や足を振る。【超過負荷オーバードライブ】で処理し、色神の虹を纏ってから詠唱を始めた。





「『光は集い、闇は巣食い、焔は焚べられる』」



 全身全霊で――



「『そこには希望も絶望も無く、目的も未来も見い出せず。数多の救いを切り捨て、終焉を迎える道を歩む』」


 ありったけを込めて――



「【総てを砕く我が覇道イニグ・ミカエラ】!」



 私の必殺の一撃に彼は――笑っていた。



「【スリップ】」



 その一言で私は何の前触れもなく足を滑らせ、大きく外す結果になった。

 システムへの超特効の斬撃で会場の結界が割れた直後、再度眩い魔法陣が足元で光っていた。

 ……連発できるんかい。



「ソフィ・アンシルは卓越した魔力操作技術と魔神の神能のもう半分を持ってる。……こんな魔術は撃てないだろうけど。ま、先輩からの助言さ」



 私は為す術なく光に包まれ――気がついたら観客の人達と一緒にリスポーンしていた。

 うん、結界壊しちゃってごめんね。



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