第12章『世界樹再建』
##75【AWO深夜雑談】無免だけどレースゲームは得意です※よい子はマネしないでください【ミドリ】
地上に戻り、パナセアさんからもらった移動用のなんかゴツゴツしたタイヤの車に乗ってエルフの住んでるらしい森の奥へ進んでいる。
なお、ドン深夜の行軍のためお子様2名(ウイスタリアさんとどらごん)は後部座席で爆睡中である。
お昼はどらごんが鹿形態になって車を引いてくれたし、朝はウイスタリアさんが後ろから押して走ってくれたので夜は私が運転することにしたのだった。
もちろん無言でしたこともない運転をしようものなら眠るかうっかり操作をミスして事故を起こしかねないので配信をつけてある。
「よい子は絶対マネしちゃいけませんよー」
一応気持ちばかりの注意喚起をしつつ、私は優雅に運転しながら適当な歌を口ずさんでいた。
『深夜ドライブもオツですな』
『世が世なら炎上まったなし』
『未成年のわりにはドラテクあるなぁ』
『これがゲームで培ったドライブテクニックか、シンプルに凄い』
今はコメントは読み上げ機能があったのでそれを使っている。今更脇見運転を気にしているのではなく、森の中を無免が木をよけながら走るなんて集中力を要するのだ。
平坦で障害物さえ無ければ、リクライニングで椅子を倒しておやつでも口にしながらアクセルだけ踏んでいたかった。現実は非情である。ゲームだけど。
「ああ、そういえば今の状況をざっと説明しますと、なんやかんやあってあの地底の国でパナセアさんのちょっとした所用が終わるまでの間に、家出したストラスさんを叩きに行っている感じです」
『家出したんか』
『逃げてー! 超逃げてー!』
『終わるまでの間に、の後からが唐突すぎて草』
愛のある鉄拳制裁だから恐がる必要はないのに。いや、別に愛なんてないんだけどね。あるとしたら仲間愛的なやつ。
まあこんな話していても面白くないし、適当に雑談しようかな。
「近況報告はこの辺で、今日は何でも答える質問返答枠に今決定したのでいくらでもカモンヌ」
『ん?』
『今なんでもって……?』
『スリーサイズ』
「すりいさいず〜? ミドリ難しいことわかんなーい」
『何でも答える(答えない)』
『何でも答えるとは言ってないもんね(言ってた)』
『今更純心ぶるな』
『じゃあ家族構成教えて』
「家族構成ですか、そんなの聞いて何になるのやら。一人っ子、母と暮らしてます。父は逝去済みです」
『なんかごめん』
『すまん』
「急にコメント減りましたね。別に気にしていませんよ。きっと今頃異世界にでも転生してギャンブルしまくってますよ」
そんな軽口を挟みながらのーんびり雑談に花を咲かせていると、車の横の窓越しに人影が見えた気がした。
「あ」
『あ』
『まえまえ!』
よそ見した瞬間、運悪く何かにぶつけてしまった。その衝撃で車は結構揺れたが、ウイスタリアさんとどらごんは気にせすスヤスヤである。
「ふぅ、危ない危ない」
『あーあ』
『いや普通に事故ってるやろがい』
『ハイビームにしてないから』
『よそ見したらあかんって』
「ハイビーム? 車ってビーム撃てるんですか?」
『強い明かりのことやで』
『むしろ暗闇を明かりなしで見通せていたのが怖いまである』
『右のレバーを弾丸みたいなマークのやつに合わせてみ』
言われた通り、よく分からないレバーをクイッとしてみる。
「おー」
強めのライトが点いてとても見やすくなった、と同時にぶつかったものがハッキリと見えてしまった。
魔物の山だ。
ここまで魔物を轢いて引きずりながら山にしてきたわけでもないし、おそらく誰かが狩った獲物の山なのだろう。つまり、この周辺に人が居るということに他ならない。
「ここらでエルフの里の場所を聞き込みましょうかね。パナセアさんが設定してくれたカーナビでも限界はありますし」
『そういやカーナビがあれば迷子にはならないんやな』
『推測で場所を当てようとしてるだけで凄いけど確かにそうね』
『大丈夫? おっかない人かもしれんぞ』
私は読み上げ機能をオフにして車を降りた。
真夜中かつ森の中というのもあって見渡しは悪い。歩いて探すのも効率悪いし――お、足跡がある。
見つけた手がかりを頼りに、前側が凹んだ車を素手で引っ張りながら足跡を辿る。
「この臭い、タバコですかね?」
少しするとタバコの臭いが漂ってきた。
私は嫌煙家でも愛煙家でもないから何とも思わないが、まさかこの世界でこの臭いと出会うとは。
「フー……こんな時間にガキが出歩くたぁ、場所が場所なら補導案件だぜ? なぁガキんちょ」
「ガキ扱いなんていつぶりでしょう。……って、そちらこそなんでこんな所に治安悪い系会社員が?」
木にもたれかかったスーツに身を包んだ髪の毛ガチガチの男がタバコをふかしていた。
現実世界の都会に居そうなイカついサラリーマンではあるが、こんなファンタジー世界において彼は異質極まりない。
「俺はおつかいクエストってやつでな」
「なら私はメインストーリーってやつですね」
「変なとこで張り合ってくんなよ」
そう言って男はおもむろに追加のタバコを取り出して、スパスパと有害物質をキメる。
男の容姿は有り体に言えば体力を使うタイプの社会人、別の言い方をするとヤのつく界隈にいそうな人相である。目つきはナイフのように鋭く年齢は30~40代で年季の入ったシワが刻まれている。
それとは別に、右頬に黒い謎の言語の紋様があった。
「人間――ではなさそうですね」
「まあな。俺の種族は禁忌族、聞いた事ねぇだろ?」
「禁忌族?」
「人間族の亜種的なモンだな……なあ、そいつはなんだ?」
「え? ああ、これは配信用のカメラです」
話の途中でカメラに気付いて中断された。
格好から察しはついていたが、案の定プレイヤーだったか。しかし、コワモテの割にカメラNGなのだろうか。
「配信か……見たことあると思ったら同僚が見せてきたナチュラルサイコレズ天使だったか」
「誰がナチュラルサイコですか! 私ほどの常識人はそうそういませんよ!」
心外である。
後半に関しては彼が見せられた場面によっては否定できないが、前半だけは否定させていただきたい。
「……しかし、こうしてずっと立ち話もなんですし私たちの車乗ってきます? 目的地次第ですけど」
「車もあんのかこの世界。目的地は王国の南側の森林地帯だ」
この大陸は大きくわけて三つの領域がある。
北と西側の人が棲む領域、東側の竜の渓谷、そして最も広い南部の魔物が多く居着く領域。
私たちは竜の渓谷から南部の人の住めない領域をぐーっと西方向へ横断している最中であり、現在地は帝国の南辺りで王国はさらに西へ行ったところだ。帝国の南にあると予測されているエルフの里と王国南部の森林地帯は木々で繋がってもいる。
つまり、進行方向的には同じというわけである。
「私たちは帝国の南にあるかもしれないエルフの里に行く予定です。同じ方向ですけどどうします?」
「エルフの里か……おもしれえ。おつかいクエストには寄り道はつきものだからな、しばらく同行してもいいなら乗せてくれや」
「じゃあお願いします。戦力はナンボあってもいいですから」
「おう……自己紹介がまだだったな。俺の名前は“不公平”だ」
「私はミドリです。不公平って……もしかしてリアルの名前が“こうへい”だからだったり? ま、流石にそんな安直ではないですよねー」
「安直で悪かったな」
「……」
気まずい空気にはなったが、とりあえず不公平さんを車に案内することになった。その間色々と聞いたが、どうやら彼は初期スキルでタバコを作るスキルと魔力消費の無い小さな火を生み出すスキルをとったらしく、戦闘はそれほどらしい。
初期の武器も灰皿だそうだ。そんなのが武器判定なのはいささか疑問である。
少し話していて感じたのが、彼は見た目に反して真面目で、会話の途中でもスパスパするくらいにはニコチン依存性ではあるが灰は手に持った灰皿に落とし、吸殻と灰もまとめてストレージに入れて処理していた。
「不公平さんはいつからこの世界に?」
「俺は第1陣からだ」
第1陣となると、私が今まで会ったのはネアさん達のとこと、〘大連合〙の騎士さんと影の薄い人、あとはリンさんとサナさんくらいだ。あ、そういえば帝国の大会で戦ったあの不良テイマーさんもだったっけ。
みんな強かったし、この人も案外強いのではなかろうか?
「軽く手合わせしませんか? お互いの実力くらい測っておいた方が同行するにあたって都合がいいでしょうし」
「俺は別にいいぜ」
そうして、私と不公平さんは深夜3時半に森の中で軽く戦うこととなった。
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