##76 闘力
不公平さんはタバコを咥えたまま拳を構えている。彼の戦闘スタイルはマツさんと同じ完全フィジカルスタイル。ウイスタリアさんは稀に魔法も撃つので少しだけ違う。
相手が徒手空拳なら、と私も拳を構えた。本気の殺し合いならともかく、軽い手合わせで素手相手に剣を持ち出すのはなんだか悪いのだ。
「じゃあ、いくぜ」
「どこからでもどうぞ」
【天眼】の赤い線はまっすぐ私の腹めがけて伸びている。動き出しは私の体感だと少し遅く、避けるのも容易いがここはあえて手をクロスして受けにでる。
「ふん゛!」
彼はその場から動かなかった。
動いたのは踏み込むため、その場で拳を素振りのように振った。
――それも、赤黒いオーラのようなものを付けて。
赤黒いオーラが拳の形をして【天眼】の予測線通り飛んできた。思わぬスピードで一瞬焦ったが、辛うじて受け止める。
「くぅ……!?」
重い。
吹き飛ばされないように踏ん張り、地面に靴の擦れた跡が残った。
見かけの威力で言えばマツさんの方が上、しかし内部への衝撃と実質的なダメージ量は彼の方が上だった。
面白いものが見れた。
◇ ◇ ◇ ◇
一撃もらった意趣返しに、私も戦闘経験を活かしたテクニックスタイルであっと言わせた後、手合わせもほどほどに車に乗り込んで話していた。
運転は未成年がやるもんじゃないと不公平さんがしてくれている。ちなみにお互いのステータスに関わる話のため、配信は切ってある。
「
「ああ、さっきの赤と黒が入り混じったやつは、禁忌族の技なんだ」
「相伝ってことですか、私もかっこいいからあれ使ってみたかったんですけどねー」
「他の種族のことは知らんが頑張ればできんじゃねぇのかな」
「マジですか。コツとかあります?」
「コツか……戦いながら心臓の左隣らへんにある熱い何かを転がす感じで操作の練習をして、そっから出力の練習って感じで俺は習得したな」
習得ということは種族特有のスキルではなさそうだ。闘力なるものが禁忌族特有の器官に関係するものだった場合は別だが。
「心臓の左隣………………」
私は目を瞑り、自身の胸に手を当てて探ってみる。できるだけ戦いの最中だとイメージして闘力を感じられるようにしておく。
「これは殺気、これは……魔力?」
『スキル:【魔力認識】を獲得しました』
欲しいのはそれではない。
魔力に関しては心臓の右側にあるし。
「ぬぬぬ……」
「そんな一朝一夕でできるもんでもねぇよ。長老もセンスで習得期間も左右するつってたしな」
熱いなにか、熱いなにか、熱い――
「ありました!」
『スキル:【闘力認識】を獲得しました』
「どのみちセンスかよクソッタレ」
「あ、前危ないですよ」
「うおお! ぶっねぇ、今度こそボンネットが吹き飛ぶとこだったじゃねぇか」
私が言えたことではないが是非とも安全運転していただきたい。
さて、認識はできた。次は操作する段階に移行しよう。認識した熱いなにかを動かそうとやってみる。
「転がすイメージで」
体をクネクネしたり試行錯誤しているが、一向に動かせる気配がしない。というよりあれだ、遠くの机に置いてあるコップを「はぁ!」ってありもしない念能力で浮かそうとしている感じだ。
とっかかりさえ掴めない。
「うーん」
一度転がすイメージから別のアプローチにした方がいいかもしれない。
◇ ◇ ◇ ◇
『スキル:【闘力認識】はスキル:【闘力操作】に進化しました』
様々なやり方で練習を続けて2時間経過した。
その間私の不審な動きを無視しながらが吸ったであろう不公平さんのタバコの数はとんでもないことになっていたことだろう。
私は遂に闘力を動かすことに成功した。
物理的にあるのかも分からない闘力の入った器官を、ポンプのように押し出すイメージでできるようになったのだ。筋肉をイメージしたら一気に楽になった。
筋肉! やはり筋肉はすべてを解決する……!
「これ、魔力も同じ要領で動かせ……あ、できた」
『スキル:【魔力認識】はスキル:【魔力操作】に進化しました』
「天才かよ……はあ、ったく世は不条理だな」
「人には得意不得意あるものですからね。次は飛ばせるように頑張ってみますね」
「あっという間に闘力関係も抜かれそうだな……」
闘力を操って、まずは各部位に纏わせ、少しずつ分離していく。完全に闘力を独立させた状態で球体を維持するところまでできた。慣れれば意外と簡単だ。
ふわふわと闘力の塊を操って振り回す。
この調子で魔力操作も練習しよう。
「……ふんすっ! にゅううう!」
体内で魔力を循環させるところまでは簡単だったが、纏わせようとしたら失敗した。魔力単体を出して操ろうとしたのも失敗。
この様子だと私の実力不足というより、魔力の性質の問題の気がする。
色々と操作して試してみよう。
「ふむふむ」
魔術発動中に使うと
しばらくいじくりまわしたり、職業を変更して色んな魔法を使ったりしているうちに推測を立てることができた。
「魔法や魔術発動時には属性のようなものがヘカテーさんとやらから与えられ、属性を持った魔力は魔法陣として具現化、それを世界が認識して事象を引き起こす、って感じでしょうか」
魔力単体に属性はなく、それ自体は空気に溶け込みやすいのか、気化してしまうのかは分からないが、少なくとも空気に触れると離散してしまうのは事実。
闘力のように纏わせたり飛ばしたりは不可能なのかもそれない。
「とりあえず闘力が使えるようになっただけ成長したってことにしておきましょう」
「プレイヤーの中じゃ、俺の専売特許になると思ったんだがな。若さと才能ってのは恐ろしいぜ」
そうこうしている間に、ゆっくりと日が昇ってきた。今日は土曜だからのんびりできるとはいえ、眠気が顔を出してきた。ウイスタリアさんを起こすのは可哀想だし、どらごんと交代しようかな。不公平さんも休みたいだろうし。
実りある深夜のドライブは幕を引き、お昼頃まで眠ることにしたのであった。
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