#28 訓練します
朝。
お母さんに頼んで早めの朝食を食べ、ログイン。
「おはようございます」
「おあおー」
「おはようっす!」
寝不足そうなサイレンさんに、元気なマナさん。
サイレンさんは順番的に一番寝にくかったから、申し訳ない。
「私たち異界人なので、活動時間的に朝食は要らないんですけど、マナさんはどうします? 熊肉ならまだありますけど」
「う……熊は嫌っす」
「ん〜、あ! そこそこ美味しい実ならありますけど――」
「食べたいっす!」
いいのかなー。副作用まで聞かなくていいのかなー。かなり意地悪な気もするけど、他に食べれる物がないから仕方ないよね!
「どうぞ」
「わーい! いただくっす!」
「……」
ニヤついていたのか、サイレンさんに
「ん〜! 美味しいっす!」
マナさんの体に、変化は無い。
待てど暮らせど、猫耳も尻尾も出てこない。
「どういうことでしょう……?」
「何が?」
「マナさんにねk…………何でもありません」
「無理があるよ!?」
危うく誘導尋問に引っかかるところだった。セーフセーフ。
それにしても、何故?
私が変なのか、マナさんが変なのか。分からない。サイレンさんに食べさせれば分かるかもしれないが、完全に警戒心MAXだ。食べてくれるわけがない。
「ごちそうさまっす!」
「では、行きましょうか」
「そうっすね」
「誤魔化したね」
そうして、再出発ー。
長い長い道のりを歩くこと2、3時間。
遂に――
「見えましたー!」
「やったー!」
「急に元気になるっすね〜」
それはそうなるでしょう。
だって終わりのない様に思えた、慣れない旅が、終わろうとしているんだ。
開放感から元気が湧いてきても不思議ではない。
「あれですかね」
辺境というだけあって広く見晴らしが良い。
それもあってか、立派なお屋敷が
お屋敷の前に着き、門番の人達に話しかける。
「すみません、これをお願いします」
「ん? 届け物かな?」
あ、子供扱いされてる。
「そんなところです」
「待っててな」
門番の一人が、お屋敷へ入っていく。
「お嬢ちゃん達はどこから来たんだ?」
残った門番さんが話しかけてくる。この人も子供扱いしてるね。まったくー。
「王都からです」
「そうなのか。はるばるお疲れ」
「本当ですよ。何であんなに遠いんでしょうね?」
「まあ、最近は友好だけど、少し前までは帝国とバチバチだったからな。防衛として距離を置いてるんだろ」
「なるほどー」
まあ、国際事情なんて私たちに関係ないし、聞き流す。
その後、やれここの領主がどれだけ強い、やれその娘さんも天才だと、雑談していると、先程の門番が
私と同年代ぐらいの子を連れて。
「初めまして、私はキアーロ・プリマ・エルガーだ」
朝日に照らされて輝く金髪に、凛々しい碧眼、青いドレスのおかげで高貴な身分だとひと目でわかる。
「私はミドリです」
「マナっす!」
「サイレンです」
「案内する。着いてきてくれ」
キアーロさんの後ろを着いて行く。
この人は女性かな? サイレンさんの件もあって分からなくなってきた。
胸は……うん。判断がつかないぐらいの大きさ。
「キアーロさんは、どういった立場の方でしょうか?」
失礼な質問かもしれないけど、気になる。
「私か? 私はここの領主であるお父様の娘だ」
「そうなんですか」
「逆に何だと思った?」
「えーと…………」
いけない。胸に視線がいってしまった。
「なるほど。胸が小さかったと。これはさらしとかいう布を巻いてるからな」
「何故ですか?」
「胸が邪魔だからだ」
「あー」
私のは平均的な大きさだから大して意識したことは無いけど、大きいと苦労しそうだよね。
この大きさでもそこそこ肩凝るし。
「マナ、この人嫌いっす」
「でしょうね」
マナさんはA。ロリだから。可愛いから。そんな所こそチャームポイントだと思います!
「男の前で話す話題じゃないんよ……」
目を逸らしながらボヤくサイレンさん。
そういえばこの人、男性だった。
「んんっ! 着いたぞ?」
「あ、はい。失礼します」
通された部屋は豪華で、まさにこれぞ貴族って感じの
「ほう。君たちが……」
ソファーに深く座って足を組んでいるのは、世紀末な映画とかに出てきそうなワイルドな方だ。
「お世話になります。ミドリです」
「マナっす」
「サイレンです」
さっきと同じ挨拶を済ませる。
「
「そうですね」
チラシにもそう書いてあった。
「突貫になるが、仕方あるまい。今日いっぱいは泊まっていきなさい。部屋は用意させた」
「ありがとうございます」
「「……」」
横の二人は目の前のリヴェレルさんにビビり散らかして返事する余裕が無いようだ。
「うむ、着いてこい。キアーロもだ」
「はいっ!」
向かった先にあったのは、室内にも関わらず床が土になっている広い空間。
「ここは……?」
「む、見ての通り訓練場だ」
「広いですね」
「そうでもないがな」
広さ的には近所の公園二つ分くらいかな。やっぱり田舎だから土地が有り余っているのかも。
「お主は儂と、他はキアーロとだ」
リヴェレルさんが指したのは、サイレンさん。
私とマナさんはキアーロさんが相手らしい。
あ、サイレンさん白目剥きそうになってる。
顔色も青というより白くなってる。
頑張れー。
そのまま、フラフラと訓練場の奥側へ着いて行く。
「さあ、武器を構えてくれ」
「はいっす!」
「え? 刃があるんですけど……」
「私に当てれるぐらい強くなってから言ってくれ」
私にはどれくらい実力差があるか、全く分からないが、もしもということがあるだろうに。
念の為寸止めできるように注意を払おう。
「そもそも大会も寸止めですし、丁度良いかもしれませんね」
「そうなんすか?」
「公の場で殺しが起きたらたらまずいでしょう?」
「なるほどっす」
「準備まだ掛かる?」
「いえ、万端です」
「マナもっす!」
大剣を取り出し、キアーロさんに剣先を向ける。
マナさんは鉄の盾を向けている。
「じゃあ、始め。【
キアーロさんの身体を赤いエフェクトが包み込む。
「【縮地】」
「え? 二人同時に――――ッ!?」
赤い線。
キアーロさんの、木の双剣による斬撃が迫る。
横に転がって回避。
向こうだけ木製って完全に
「【追撃】」
「【パワースラッシュ】!!」
寝転がった状態から起き上がりながら、再び来た斬撃にぶつけ――
躱された。
雲でも触ったかのように感触が全く無い。
気づくと、横から二対の剣が視界に入る。
間に合わない。
「っ!」
「【スーパーノックバック】っす!」
「よっと。ほい」
マナさんが援護してくれるが、簡単に避けられ、剣の持ち手がマナさんの横腹に深く入る。
「グベッ!?」
その勢いのまま地面を転がっていく。
ああなったら復帰は難しいだろう。
「てやっ!」
マナさんに意識が向いていたところを、バックアタックで横に薙ぐ。
が、
「なっ!?」
後ろにバク宙、私の大剣の平たい部分で軽く跳ねられて――
「ぐっ……」
ガラ空きになった脇腹に一撃が入ってしまった。結構痛いが、何とか踏ん張って
「【飛翔】!」
飛んで体勢を立て直したい。
「させない」
「ッ!?」
飛び立とうとした瞬間、胴にいいのが入る。
早く、離脱をしないと――
「ふっ」
「ぐぅぅ、ぁ…………」
加速している。速すぎて対応が追いつかない。
全方面から、浅い斬撃が張り巡らされる。
「まい、りました……」
「そうか」
惨敗だ。
何も、できなかった。
「マナさん、は……?」
「気絶してるだけだよ」
良かった。ずっと倒れたままで、心配だった。
「何がダメだったか、分かる?」
「ぇ?」
敗因か……。
速さが足りなかったかな。
あと、一番大事な問題が出てきた。
【天眼】の赤い線が、反応していない。いや、してるはしてるけど、殆ど役に立たなかった。
今の感じ、おそらく判定が攻撃だけ赤い線になっているんだと思う。だから距離を詰めて瞬間的に攻撃した場合、線が短くなっていた。移動まで含まないということだ。
まあ、単純に赤い線も速かったから反応しきれなかったんだけどね。
「当てれる技術があれば……」
「そうだ。だが、攻撃より先に防御の練習をした方が良い」
「何故です?」
「理由は二つ。一つ目は先手を取られて負けたら元も子もないから」
「なるほど」
「二つ目は、攻撃で当てるより、待って防ぐ方が簡単だからだ」
「そういうことですか」
「理解が早くて助かるよ」
動く敵に当てるのは相手を観察しつつ、自分も動かさないといけない。
防御だと、攻撃してくる場所を読んで、そこに置くだけで防げる。
理解はできる。
でも、
「大剣で防御は無理では?」
「ん? そんなことない。大きく動かしすぎなんだ。大きい分、力加減は難しいが、防ぎやすい武器だと思う」
「練習あるのみですね」
「そうだ」
「あれ? 終わっちゃったっすか?」
マナさんが起きた。
「マナさんにも指南、お願いします」
「分かっている」
マナさんと向かい合い、私の時と同様に問題点を洗い出していく。
盾だけなので、基本的に仲間の近くに立つなりしてカウンターを決めやすくする方針のようだ。
私は、先程の戦闘を思い出し、あの連続攻撃を脳内でシミュレートする。あれを
両手を離して、コントロールしやすいように、てこの原理で横に動かして防ぐのが一番やりやすそうだ。
強者に揉まれ、実りある時間を過ごしていく――――
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