#26 【AWO】大変でした【ミドリ、マナ、サイレン】

 


 衝撃の事実を知った後、寝床で着替えて出発した。



「始めますね」



「いいっすよ〜」

「これ、やっぱり言った方がいいよね?」



「確実に女性だと思われてるでしょうね」


「だよねー」





 告知、そして配信開始。


「おはようございます」





[唐揚げ::おはミドリ〜]

[紅の園::おはミドリ〜]

[テキーラうまうま::おはミドリ〜]

[セナ::おはミドリ〜]

[あ::おはミドリ〜]

[枝豆::おはミドリ〜]




「統一しなくていいんですけどね。ミドリです」



「マナっす!」


「男です。サイレンです。さ、ギルド行こう」



 あっさり流した。逃げ切れるわけないと思うんだけどねー。





[壁::ファッ!?]

[カレン::!?]

[ピコピコさん::おとこの娘ktkr]

[天変地異::男の娘なんか]

[隠された靴下::それもそれでよき]





「なるほど。こういう時におとこのという言葉を使うんですね」


「おいこら」


「男の子っすね」




「そうなんですけど、そうじゃないんですよ」


「もういいから、行くよ」


「?」




 まだ頭の上にクエスチョンマークが出てそうな顔をしているから分かってないんだろうけど、説明する隙も与えてもらえず行ってしまった。

 慌てて追いかける。




「あ、ブランさん」


「本当っすね」

「挨拶してく?」



「してきます」




 二人に待ってもらって、土木工事の指揮をしてる風のブランさんに声を掛ける。




「ブランさん」


「ん? ああ、やっと起きたのかい」



「運んでくださったようで、ありがとうございます」



「軽かったから気にしなくていいのに」




 軽くても私を担いでピリースから王都まで行くとか苦行でしかないだろうに。




「本当にありがとうございます。私達も何か手伝います」



「いらないね」



「流石にそれは――」


「色々あるからいらないんだよ。森の魔女も居るしね」




 目線が、何かを訴えかけている。

 人目があると言いづらいこと、何があるかな?


 ブランさん関連だとやはりマナさんか。

 でも別にそれでいらないなんて理由にはならない。

 いや、マナさんの性格上、別れが辛くなるかもしれない。別れが引き延びることで起こりうる心変わりを憂慮している可能性が高いかな。




「…………そうですか」



「そうだ。これとこれ」




 何かのチラシと、前と同じような手紙を受け取る。


 チラシには、でかでかと「皇帝御前大会」と書かれている。どういう意図で渡されたのかさっぱり分からない。




「これは……?」


「腕試し、賞金目当てでも良い。行ってきな」




 もしかして、次の行き先として目標まで挙げてくれたのか。アウトレイジっぽいけど、シスターなだけあって面倒見が本当に良いよね。


 姉御あねごって感じ。



「分かりました。ありがとうございます」


「そんでその手紙は帝都へ行く時に通る村の、辺境伯に渡してみな」



「辺境伯ですか?」


「そ。あんた達はまだまだ弱いから、鍛えてもらうように書いといたよ。場所は行けばすぐ分かる」



「何から何までありがとうございます」



 深々とお辞儀をする。返しきれないほどの恩を貰ってる。いつか、この人の力になりたい。




「ほら、さっさと行きな」




 照れ隠しか、軽く足を蹴られて急かされる。

 会釈をして二人のもとへ戻る。




「お待たせしました。何やら帝都とやらでこういう催しがあるそうです。ここの手伝いはいらないから行ってこい、とのことです」



「おー、大会っすか」


「この中で勝ち抜けそうなのはミドっさんだけじゃない?」




「途中で鍛錬してくださるように手配もしてくれたので、大丈夫でしょう」




 そんなに甘いものなのかは知らないけどね。




「とにかく、出発しますよ」

「おー!」

「……ぼくも強くなれるといいなぁ」




 サイレンさんがボヤいたのを、私は聞き逃さなかった。一昨日おとといからだけど、何か劣等感のような感情を抱いているように見える。


 何とかしてあげたいけど、今ではないかな。

 余計な刺激になるかもしれないし。




「大会といえば、プレイヤーのイベントが第5陣参入の延期に続いて延期になりましたよね」





[カレン::何でなんだろう?]

[芋けんぴ::まだ当選発表もしてないんよな]

[階段::はやくやりたいのに]

[ゴリッラ::イベントはむしろ今までが短周期だったんだ]

[唐揚げ::そうなんだ〜]





「?」


「プ……異界人しか参加できない催しのことだよ」



 この中で唯一の現地人であるマナさんにサイレンさんが補足してくれる。




「いや、それは知ってるっすけど、何で延期なのかなーって思ったんすよ」


「へ!?」




 あー、配信のことも知ってたからイベントのことも知ってておかしくないのか。



 サイレンさんがこちらを見てくる。私が教えたのか聞きたいのだろう。首を横に振って否定する。



「………なんでだろうねー」



 しばらく呆けた後、思考を諦めて流した様子。




「知らない方に説明しますと、元々一週間ごとにイベントがありまして、その翌日に次の人達が参入する形だったのです。それが二週間に延びる旨が公式サイトに書かれてまして、そのことです」





[セナ::そそ]

[テキーラうまうま::へー]

[あ::普通に大人の事情だろうね]

[蜂蜜穏健派下っ端::そうなんよなー]

[壁::説明感謝]




 まあ、大人の事情なんだろうね。

 増産のために参入周期を長くして、それに合わせてイベントも頻度が低くなるって感じだと推測。



 ワイワイと騒いでるうちに王都の東門に着いた。どれくらい長く離れるか分からないが、寂しいものを覚える。


 振り返って復興途中の王都の街並みを眺める。





 黒猫が路地裏から頭を出し、こちらに笑いかけてきている風に見える。


 何かを、期待しているかのように。





「ミドリさん! 行くっすよ!」



「あっ、はい」




 呼ばれたので返事をして追いかける。

 先程の場所をもう一度振り返ってみるが、黒猫は居なくなっていた。





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