#25 知らないことばかりです

 


 精神的なダメージを癒すため、現実で一日を過ごした翌日。朝からいつも通りログイン。






「知らない天井……ではないね」




 一日ぶりにログインすると、視界に映ったのは見たことのある天井だった。


 ここは孤児院の私が寝泊まりしていた部屋。あの火事でも孤児院は無事だったのか。すごい。




「もしかして、運んでもらった?」



 マナさんあたりが運んでくれたのかもしれない。服もパジャマみたいなのに変わっている。

 お礼を言いに行かなきゃ。



 右手首のミサンガを見ながら大部屋に行くと、マナさんとサイレンさんが居た。




「あ、おはようっす!」

「おはよう」



「おはようございます」




 向かい合って座っていたので、近かったマナさんの隣に座る。



「運んでくれてありがとうございました」



 とりあえず二人にお礼を言うと、二人揃って顔を見合わせる。




「運んだのはブラン母さんっす」


「そうなんですね。今どこにいますか?」



「復興の指揮を行ってるっす」




 指揮?



「何故ブランさんが?」


「お偉いさんからギルドに復興、国は今回のことを調べることに分担したそうっすよ」



「なるほど。ブランさんもギルドに入ってたんですか」


「いや、王都のギルドマスターっす」


「ほえ?」



 初耳なんだけど。

 私やマナさんの昇進の件って、もしかしなくてもギルドマスター権限だったのか。


 納得。




「朝食食べたらギルドに行きますけど、お二人はどうしますか?」


「マナも同じっす」

「ぼくも」




「結局のところ、固定パーティーで決定なんですか?」



「マナはもう昨日皆とお別れ会したっすから、よろしくっす!」

「ぼくは地縁も仲のいい人もいないからね、よろしく」



「よろしくお願いします」



 伸びをしながら、キッチンへ向かう。




「そういえば、ここに寝泊まりするのを許可してもらった時にご飯は別で摂るように言われてたんですけど、大丈夫でしょうかね?」



「ん? あー、ブラン母さんは気に入らなければ追い出すと思うっす。かなりミドリさんは気に入られてるっすよ」



「そうなんでしょうか?」


「ぼくはやめとこうかな」



 気を使って一歩引いてしまうのが、サイレンさんの悪い所だと思う。




「ここで除け者にした方が怒られるっすから、一緒に食べるっすよ」


「それは……うん。ありがたくいただこうかな」




 マナさんは少し強引さもあるけど、そのおかげで仲が良くなってる気がする。



 あれ? 私は何なんだ?




「ミドリさん? 作るっすよ?」


「ああ、はい」



 危うく自分を見失うところだった。

 私は私。よし!



「他の子供たちは何を食べたんですか?」


「トーストっす」



「その時食べなかったんですね」


「数が足りなかったからっす」



 あらら、ブランさんも意外とドジをするんだ。




「本当はマナちゃんが待つって言い張ってたからだけどね」


「ちょっと、何で言うんすか!?」


「照れちゃって」


「照れてないっすよ!」



「ふふっ」



 親子みたいで微笑ましい光景だ。和む〜。



「よし。私たちはスクランブルエッグにしましょう」



 謎の大きな卵、塩があるからね。簡単にできる。ご飯があれば尚良かったんだけど、流石に無いし。



「「はーい」っす」





 調理を始めながら、すごく気になっていることを聞く。



「この卵、何の卵ですか?」


「確かに。妙に大きいもんね」



「それは怪鳥の卵っす」



「「怪鳥?」」



 聞きなれない単語に、意図せずハモってしまった。



「そうっす。山の近くにいる巨大な鳥らしいっす」



「よくこんなの取ってこれますねー」


「そこそこのランクの冒険者の依頼でたまにあるらしいっす」



「ミドっさん、焦げてるよ」




「え? ああああああ!」



 焦げてる。急いで火を弱くして、お皿に移す。




「危なかったですね……」



「アウトなんよ」




 まだ黄色がかってるし、食べれるからセーフだと思うんだけどなー。



「お二人とも、上手ですね」


「慣れっすね」


「ぼくも料理はそこそこするから」




 まるで私がしない人みたいじゃないか。

 まあ実際、しないというか危ないし難しいんだけどね。



「これも魔道具なんですか?」


「そっすよ」



 コンロみたいなのも魔道具なのか。現実の電化製品は全て魔道具に置き換えられているのかもしれない。



「動力は何ですか?」


「食べながらにするっすよー」


「あ、はい」



 問い詰めすぎてしまった。反省反省。




「いただきます」

「いただくっす!」

「いただきまーす」



 各々追い塩を掛けて食べる。

 ガツガツいってないところから、朝は皆食が細いのが分かる。ピクニックの時はまあまあ食べてたから、小食というわけではないだろう。



「んぐっ、魔道具は魔石が動力っす」


「魔石?」



「強い魔物の体内にあるらしいっす。それを砕いて小さくして運用するとかなんとか言ってたっす」




 なるほど。分かりやすい。

 でも、強い魔物限定なのは不思議だ。




「弱い魔物には無いんですか?」



「んーと、理由は知らないっすけど、無いらしいっす」


「……そうですか」



 気になるけど、分かったところでって感じかな。


 あー、苦い。

 塩を追加。



「塩かけすぎじゃない?」

「体壊れるっすよー」



「こうでもしないと苦いんですよ」



 焦がした私が悪いんだけれども。



「ん、そういえばよくここ焼けてませんでしたね」


 この孤児院は路地裏にある。

 つまり火の海に呑まれていたはず。

 なのに、完全に無事だ。




「防火の護符のおかげっす」



「「?」」



 サイレンさんも知らなかったのか。むしろ私が来るまで何話してたんだろう?




「ブラン母さん特製の護符っすよ。いやー、そんなのがあると知ってたら慌てずに済んだっすよ」



「護符って何ですか?」


「何かすごい御札おふだっす」



 分からないのね。



「ごちそうさま」



 サイレンさんが一番早く食べ終わった。

 私もあと少し。



「ごちそうさまでした」


「ごちそうさまっす!」



 続いて食べ終わり、皆で一緒に洗い物をテキパキと終わらせる。



「行きましょうか」


「っすねー」

「配信しないの?」



「途中で始めますよ。ここでやるとここに迷惑がかかるかもですから」



「確かに」




「あ、私の服ってどこにありますか?」


「そこに置いてあるっす」



 棚の上に、私の服一式が置いてある。

 手に取って、着替える。



「わちょっ!? なんでここで着替えるかな!」



 サイレンさんが顔を真っ赤にして、目を覆いながら叫ぶ。



「え? 女性だけですし大丈夫かなーと」




「ぼくは男だよ!」




「「え?」」

 




「お・と・こ!」



「「ええええぇぇぇぇ!?」」




 マナさんも知らなかったんかい。




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