#31 クランを設立します
「理由を聞いても?」
「もちろん。オデッセイは
「かっこいいっす!」
なるほどねー。
「原点というか、その言葉が何から来たかご存知で?」
「何かあるの?」
「ええ。古代ギリシアのホメロスによる叙事詩、『オデュッセイア』です」
[カレン::そんなのがあるんだ]
[天麩羅::さては詳しいな?]
[蜂蜜穏健派下っ端::?]
「叙事詩ってなんぞや?」
「??」
「簡単に言えば、物語の詩です。英雄の伝説とか神話を題材にしたものですね」
色々端折ってるが、そんな長々説明してもね。
「話を戻しますが、『オデュッセイア』は確かに長い冒険の話なんですが…………」
「が?」
「ゴクリッ」
マナさんが固唾を飲んで身構えているけど、そんな大したことではない。
「内容が苦難ばかりなんですよ。そんな和気あいあいとしたイメージでつけるのは何か、こう……良くないといいますか……縁起が悪いと言いますか…………」
「……そっかー」
「なるほどっす」
上手く言えない、漠然とした不安のようなもの。
「言葉に、引っ張られそうな感じがするんですよ」
「確かにね」
「考え過ぎな気もするっすけどねー」
「……ですよね。うん、他に良い案も無いですし、オデッセイなら、オデュッセイアとは若干違いますし、大丈夫でしょう!」
「あ、いいの?」
「〘トップアイドル、サイレン様とその他〙で良いならそっちにしますけど?」
「〘オデッセイ〙で!」
[壁::その二択は流石にね]
[あ::草]
[天変地異::草]
[芋けんぴ::草]
[ヲタクの友::異様なそれ推しはなんなんや……]
あらら、残念。
「決定っすね!」
「リーダーは誰がやります?」
「「…………」」
計四つの目が、同時に私に向けられる。
あー、そういう空気?
「何故私なんですか?」
「リーダーシップがあるから」
「仕切る人と言えばミドリさんっすからね」
そういうイメージがついてしまったのか……。
私的にはマナさんが
「まあ、やることが多くなる訳でもないでしょうし、やりたくないならやりますよ」
メニューからクランの欄を選択、設立するを押す。
クランの名前は、〘オデッセイ〙っと。
ヘルプから説明をざっと読む。
「えーと、勧誘できるのはリーダーと副リーダーで、フレンド登録が必要、だそうです」
「じゃあマナちゃんはできないの?」
「えー………………あ、プレイヤー以外の参加方法というのがあります。ちょっと待ってください」
わざわざ
……なるほどね。
「近くに居れば申請が送れるみたいです。ただ、プ……異界人のイベントの参加にはその時のルールによって変わるそうです」
「どういうことっすか?」
「実際に意味のあるものかは分からないということです。繋がりを表明するものという感じになるようです」
「よく分からないっすけど、繋がりはあった方がマナ的には嬉しいっす!」
「もちろん除け者になんてしませんよ。すぐに申請します、今すぐ、急いで」
「近いっす」
おっと、興奮して顔を近づけてしまった。マナさんが可愛すぎるのがいけない。
「おかしいな……女の子同士のはずなのに事件性を感じるよ…………」
世界のRTA走者もビックリな速度で、マナさんに申請を送る。この速度に適う者は、未来永劫現れないだろう、知らないけど。
「おー…………はい!」
『あなたのクラン:〘オデッセイ〙にメンバーが加わりました』
アナウンスで同意を求められる形、とは書いてあったけど、こうして目の当たりにすると、すごい変な感じだ。
「ぼくにも送ってー」
「はいはい」
「扱いの差よ」
一人しかいないフレンド欄から選択して、申請。
『あなたのクラン:〘オデッセイ〙にメンバーが加わりました』
メンバー一覧を見てみる。
これは……。
マナさんだけ、はてながついている。
記憶喪失が原因だろうか。
こういうのは正式な名前を表記してくれてもいいだろうに。
「あ! 見えたっすよ!」
タイミングのいいことに、着いたようだ。
無駄の無い完璧な時間の使い方だった。
「あれに並ぶんですか……」
「うわー」
「早く行くっすよ〜!」
元気に駆けていくマナさんを追いかける。
入国なのか、入都なのか分からないが、ここでもちゃんとチェックが入るようだ。
ただ、その列がかなり混んでいる。
大会があるからだろうか?
「どのくらいかかりますかね……?」
「進み具合はかなり早いし、そんなにかかんないんじゃない?」
「あ! 獣人っす! 初めて見たっす……」
列の少し先に、犬の耳と尻尾のついた人が居る。
そんなにケモ耳が好きなら、私がなったら……もしや、もふもふしてくれるのでは!?
今すぐならねば!
「ちょいっ」
「あだっ!?」
そんなことを考えていると、サイレンさんが唐突にチョップしてきた。痛くはないけど、反射で言ってしまった。
「何考えてるか分かんないけど、興奮してないで、進むよ。それと、公衆の面前であの顔はやめて欲しいなぁ…………」
酷い。興奮なんて、別にしてないのに。
「どんな顔してました?」
「よだれを垂らしながら、にやけてた」
「まっさかー」
「ほんとほんとー」
「…………ガチのヤツですか?」
「ガチのヤツ」
なら無意識のうちに興奮してたのかー。
気をつけないと。本当に!
[階段::目にハートがあるレベルだったな……]
[カレン::あの顔はこちらもそそった]
[唐揚げ::マナちゃん好き過ぎだろ]
[死体蹴りされたい::マナちゃん好きなのか、ロリコンなのか……]
「ロリコンではないです。マナさんが可愛いだけです。多分私より天使です」
「どうかしたっすか?」
「いえ、混んでますねー、と」
「っすねー」
あら、かわいい反応。
…………ちょっと我ながらテンションおかしい気がしてきた。お前は誰目線だよってセリフしか出てこない。
「マナちゃんはもうちょっと人を疑うことを覚えた方が良いと思うんだけどなぁー」
「疑うっすか?」
はいアウト。
「……ちょっといいですか?」
「え? ぼく?」
「耳を貸してください」
「い、いいけど、怖いんよ」
差し出されたサイレンさんの耳に、
「マナさんは純朴な天使なので、変なことを教えないでください。疑わない心こそマナさんを体現しているのであって、その汚れなき白を失わせるのは禁忌なんです。そういう変な連中は私たちがはっ倒せばいいんですよ。次ああいうこと吹き込んだら私は貴方を一生許しませんし、赦されることはありません。いいですね?」
「は、はい!」
釘は刺した。
マナさんという天然記念者を保護するのは、なんて過酷な道なんだろう……。
次は無いと、目線で圧をかけながら、マナさんの方へ向き直る。
「楽しそうっすね!」
「マナさんもやります?」
「やって欲しいっす!!」
「では、耳を貸してください」
「はーいっす」
可愛らしい、小さな耳元で囁く。
「ちっちゃい耳、食べちゃうぞー」
「きゃははっ! くすぐったいっすよー!」
「ふふっ」
そうやって
「次!」
「行きましょうか」
「っすね!」
「う、うん」
未だに青い顔をして、怯えている様子のサイレンさんに普通の態度をとるように笑顔で訴え掛けながら、関所へ。
頷いてくれたから、分かったということだろう。
「ここに来た目的は何だ」
「三人とも大会の出場です」
「身元を証明するものはあるか?」
「あります」
各々冒険者カードを取り出して、門番さんに渡す。何か機械のような物に通した後、返される。
「通っていいぞ」
「ありがとうございます」
「どーもっす!」
「お疲れ様です」
ようやく入れた帝都は、朝から大変賑わっている。個人的な感想で言えば、王都より綺麗だし、人もかなり良い生活をしていそうだ。
服しかり、身につけているものがかなり現実に近い。
流石に電子機器は無いけどね。
「申し込みは冒険者ギルドで行っているそうです。道分かります?」
「分からないっす」
「来たことないから分かんない」
「そういうわけで有識者の方、道案内よろしくお願いします」
[トカゲのしっぽ::草]
[あ::い・つ・も・の]
[紅の園::いつも通りで安心した]
[芋けんぴ::【定期】視聴者は地図]
[蜂蜜過激派切り込み隊長::冒険者ギルドは南側にあるから、次の通りを右、その後の大通りを左に行くと左側にある]
「切り込み隊長さん、ありがとうございます。有能ですね。名誉道案内長に任命します」
言われた通りの方向へ行こうとするが、入ったすぐのところにリスポーン地点が。
サイレンさんと一緒に更新。
――PIPI
『リスポーン地点が更新されました』
「マナもできたらいいんすけどね……」
「本当、そうですよね」
「それはまあ、仕方ないしね……」
というかマナさんが復活できない時点で、簡単に死ねないんだよね。全滅したらやり直しがきかないから、慎重に行動しなければいけない。
街並みを眺めながら、ノロノロ進む。
ここら辺はお土産なのか、雑貨屋さんが乱立している。王国と帝国の国境付近が首都なのは驚いたけど、王国から人あるいは労働力を呼び込むための立地なのかもしれない。
「…………はぁ」
「どうしたっすか?」
「いえ、何でもないです」
入ってから、どこからか視線を感じる。
ねちっこい視線だ。しかも一つじゃない。
よく味わう好奇の視線とは違うのもあって、かなり
どうせこんな人混みでは捕まえれないし、無視無視。
そうして、実害は何も無いまま冒険者ギルドに到着した。
中では、入都の審査の列よりかは短い。
直前に申し込むアホは少ないのだろう。
「ここから試合は始まってると思って、強そうな顔で申し込みましょう」
「了解っす! ふんっ」
「よく分かんないけど、分かった」
各々の思い描く、強い自分像を主張しながら列に並ぶ。
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