#122 貴方の守った世界

 


 今日は珍しくスケジュールがある。そのため、最初のようなファッションショーは行わない…………わけではなく、意地でもやりたいとキンモクさんが言い張るため実施することとなった。

 割引という条件付きではあるので私たち的にも嬉しいという寸法だ。きちんと巻きの進行でやってくれるといいが……。


 ちなみに配信のカメラは全員が見える位置に配置されている。




「みんな! 用意してた服全部着せてくよ!」


 服をたくさんかけてある、足が動くやつが運ばれてくる。名前は知らない。

 私たちは各々試着室に入れられていて、それぞれが着る服が並べられていく。



「……何か私の服多くないです?」

「一番最初に会っていて、モデルに想像して作っていたのでね!」



 ということは急だったコガネさんとストラスさんのはもとからあった中で似合いそうなのを選んだということか。それなら納得だ。


 でも私の着る量には納得いかない。


「時間も無いみたいですし、じゃんじゃんいきますよ!」




「私は着せ替え人形私は着せ替え人形――」

「ちょっ、これは私には似合わないだろう!」

「ははは……うちは今から弄ばれるんや……」

「吾輩に相応しい服があるかな!」

 〈どら……ごん……?〉




[カレン::わくわく]

[死体蹴りされたい::パナさんのロリータ服だと!]

[半チャー半::用意されてるの全部オシャレそうだからプロってすごいよな]

[戦え::どらごんのドレス姿は最高じゃん泣くじゃん結婚じゃん]

[アフロ風呂::コガネさんのもふもふが更にもふもふに!?]

[トイレの俺氏::ここが天国ですか]



 名状しがたい地獄が始まった――




 ◇ ◇ ◇ ◇


 全てが過去になって、昼ご飯を食べ次第船乗り場に集合となった。


 今回のキンモクさんはかなり攻めていた。幸い配信はBANにならなかったが、昼食を食べながら一応年齢制限をかけておいた。カット出来たら良かったけど仕方ない。ゲームのシステムで簡単にできそうだけどやり方を調べるのがめんどくさいのだ。


 各々最終的に選んだ新衣装に身を包んでここに集合すると考えたら少し胸が躍る。何事も新鮮さは大事だね。



「はぁ〜〜〜」

「パナセアさん、タバコですか?」



 先に到着していたパナセアさんは、私たちの乗る船を眺めて棒状の何かを吸って吐いていた。

 私もその横に腰をかける。



「いや、これは自作のエネルギー補充棒だ」

「今までは要りませんでしたよね?」


「これ一本で私には昼ご飯一回分になるんだよ。特定の種族にしか効果のない超効率的な栄養剤だ」

「燃費良、と」



「その通りだね」

「……それにしても」



 パナセアさんの装備は、胸と首を守るように鎧のような機械、左手にトランシーバーサイズの機械がついていて、腰に銃を仕舞うベルトも巻いている。その他の服装は白衣ではなく黒いパーカーに近い服で、特徴的なのは左手が長袖で右手は半袖、左の脇腹辺りが切れている所だろう。


 前まで四角かったメガネも、今ではオサレな丸っぽいフレームになっている。ああいうのはボストン型というのだろうか?



 ともかく、鎧における胸の上部は機械にひし形の穴が空いていて服が。左脇腹からは直接肌が見えている。

 しかも短パンで生足マーメイドなのだ。




「――えっちですよね」

「!?」



「何か心境の変化でもありましたー? ……おっちゃん、パナセアちゃんが変な男に絡まれてないか心配だよお」


「私のは戦闘で使う箇所を空けておいてもらっただけだよ。オーダーメイドとはそういうものだろう?」



 私のおじさんムーブはガン無視された。

 悲しい。



 ――じゃなくて、そう! パナセアさんは話をつけていた時に自分だけオーダーメイドを頼んでいたのだ。まあ他に必要な人はいなかったから構わないんだけどね。



「人のことを……えっ……とか言っていたが君の方もかなりあざといよ? そもそも路線が違うと思ったんだが……」

「まぁ、今は色々気分を変えたいので」



 パナセアさんのピュアさにツッコミを入れるのは可哀想なのでやめておいて、自分の服装を改めて見てみる。


 ベースは青っぽい黒で、至る所にフリルやらレースが入っているゴスロリ衣装だ。

 鎖骨付近はすけすけのやつでインナーが見え、両肘付近もすけすけのやつで袖が分割されていて、スカートの裾もすけすけのやつ。


 そのセクシーさに対抗するようにゴスロリらしいリボンが後ろの腰と胸元に付いている。



 全体の印象としてはクールで落ち着いた黒。堕天使にピッタリだ。

 堕ちた天使にはお似合い、だなあ……




「……マナくんのことで気に病んでいるなら違うだろう。コガネくんから聞いた話だが、マナくん自身の選択に聞こえたよ。彼女にだって過去がある」

「選択、ですか」




「ああ。生きていれば、向き合わなければならない業はやってくる。それをどうするかは本人が決めることだろう」

「……」



「今回、彼女は自身の誇りにかけて1対1で向き合っていたんだ。……『もし一緒に戦っていたら』はその誇りと決断を踏みにじる言葉だ」

「全部、見透かされているんですね」




 マナさんの封印は解除条件が一切不明。

 あの封印した張本人を倒したら解けると勝手に推測しているだけの現状で、その上スキルによる“別れ”の定義も分からないのだ。


 たったの三日泣いただけでその不安が払拭されるはずもない。私は今も押しつぶされそうにながら、泣かないようにしながら、ここにいる。

 立ち止まるのが最も愚かな事だと知っているから。




「おまたせぇ……あれ? 何かジメジメやなぁ」

「海に近いと湿度は上がりますからね、知りませんけど」



 コガネさんが喧嘩中のストラスさんとどらごんを連れて現れた。軽口に軽口で返して立ち上がる。



 コガネさんは露出の多めなチャイナ服で、右手には指先だけ穴あきのすけすけ手袋をつけている。


 ストラスさんはいかにもファンタジーの弓使いっぽい服で、左足全体を覆う包帯だけが異色を放っていた。


 どらごんは気に入ったバラのヘアゴムを持っている。


 みんな思い思いの衣装で個性が光るなー。



「よし☆ 揃ったね☆」

「ハイハイビックリビックリ」



 いつも通りニュッとシフさんが現れる。

 荷物や乗組員は搭乗済みで残るは私たちだけらしい。


 今から乗る船の行き先は帝国の大会から始まった、皇帝さんへの協力の最終段階の舞台、魔大陸。報酬は蘇生が可能な世界樹の葉。まだ王国で会った姉妹のどちらが先かも決めれていないが、それは貰ってからでいいだろう。



 私を救ってくれた太陽のような皇帝さん、彼女は私では到底及ばないほどの確固たる強さを持っている。そんな彼女が助力を求めるほどのことが待っているのだ。気楽な未来を妄想している暇は無い。



「じゃあ、いいかな☆」


「ええ。――新生〘オデッセイ〙、いざ魔大陸へ!」

「「「おーー!!」」」

 〈どらごん!〉



 気合いのこもった掛け声と同時に、全員で走って船に乗る。しばらくして船が動き出す。


 デッキから離れていく町を、時計塔の上の木を、私たちの歩んだ道のりを眺める。

 途中辛い思いをした時もあったけど、それも幸せな記憶で上書きしてきた。





 ストレージから、マナさんが選んだ花であるカランコエのイヤリングを片耳に、以前奈落で頂いたクールタイムリセットの{破約のイヤリング}を片耳につける。

 そして、私がマナさんに贈るつもりだったスイレンの髪飾りをつけておく。いつか直ぐに付けてあげれるように。



 ――チャリッ。

 ストレージからマナさんの封印された宝石の付いた盾のキーホルダーを取り出す。それを{適応魔剣}の持ち手に括り付ける。



 揺れる緑色の宝石が、海の青を取り込んで輝いていた。




 ――マナさんの居ない今が辛いなら、マナさんと居る未来で上書きしよう。


 どれほど過酷な道でも、貴方の影を、姿を、声を、瞳を、笑顔を思い出せば余裕で踏破出来る。





「私は正義でも悪でもない、ただ大切な人のために進みます。貴方の守った世界で、貴方の守った世界を私は守ります」





 それが私に課せられた使命。

 私が背負うべき運命。

 ――未来を目指す私たちの、当たり前の役割なのだ。



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