#121 【AWO】ご報告が。あとお馴染みの服屋(支店)に行きます【オデッセイ】
予定が決まり、諸々の事情を聞いた翌日。
現地人のストラスさんにも配信の説明をしてから配信を開始した。
「どうもおはようございます。ご報告と聞いて、何も知らない野次馬が集まっていそうですが、早速手短に話します」
〈どらごん〉
[燻製肉::草]
[蜂蜜穏健派下っ端::たしかにいつもより同接多いかも]
[死体蹴りされたい::あれ、マナちゃんは?]
[セナ::髪の毛少し暗くなった?]
[隠された靴下::たぶんご報告より服屋待機かと]
「サイレンさんが修行に行きました。あとマナさんが封印されました。今後の目標は封印解除です。そして、こちらのコガネさんとストラスさんが仲間になりました」
「コガネと申します。どうぞよろしくお願い致します」
「うむ、吾輩はストラスである!」
「コガネさんは狐なんですから猫かぶらなくても……」
「最初くらい許して……」
[ダイス::もふもふだぁ!]
[直飲みドリンクバー::封印ってなんぞや]
[階段::何があったんだ……?]
[あああ::獣人にエルフ!?]
外面を意識するタイプの狐ときたらもう姑息な三下感あふれるが、コガネさんはいい人。なにやら私が病んでる間に〘大連合〙に謝罪と食糧の補填に行っていたらしいし、筋の通った人で間違いない。
「さ、ご報告も終わりましたしお店に向かいましょうか」
「そやね」
「うむ!」
〈どらごん〉
「因みに、アポはとってあるから顔パスだよ」
パナセアさんが有能すぎる。一家に一人欲しいといっても過言ではない。
のんびり、どんな服にするか話し合いながら店に向かうとしよう。
どらごんは、マナさんの代わりなのか私の頭に乗っている。触ろうとすると刺されるから懐かれたわけではなさそうだけど。
◇ ◇ ◇ ◇
「キンモクさん、お久しぶりです」
「あ゛〜、生ミドリさん、お久しぶりです! 甥がいつもお世話になってます。何やら今は修行中らしいけど」
入店早々店長が出迎えてくれた。
生じゃない私がいるのかはさておき、服の前にやることがあるとのことで全員店の奥へ連れていかれる。
「ここは伝説の……!」
大袈裟にリアクションしたが、設備的に髪を切る場所だろう。
「美容院みたいやね」
「まぁ美容室だろうね」
「「ん?」」
コガネさんは美容院派、パナセアさんは美容室派らしい。今後一生使わないであろう無駄な知識が手に入った。やったね!
「びようとは何のことだ?」
「髪を切ったり綺麗に整えたりしてもらう場所ですよ」
[鉄板焼き五郎::美容院派]
[波乗り屋::まさかヘアアレンジまで!?]
[優しさの鎌足::美容院と美容室は同じらしい。地域差によるみたい]
[たべれっと::ストレス氏は現地の人なんだ?]
「ささ、みなさんお席にどうぞ」
キンモクさんの言われた通り、それぞれ席につく。それを確認してからキンモクさんは間のカーテンを閉めた。
「閉めちゃうんですか?」
「その方が面白いですのでー」
「確かにパッと変わった部分を見せつけられた方が分かりやすいですね。配信映えもしますし」
[あ::たし蟹]
[散歩::配信映えを気にしてるだと!?]
[壁::ニセモノですか?]
[えびっえびー::どちら様?]
[セナ::はいしんばえ? 知らない言葉……]
[芋けんぴ::これは偽確]
暇だし、私を担当してくれる美容師さんが来るまで、少し戯れるとしようかな。
「心外ですね、私だって配信の構成とかも全て考えて演技してるんですよ。実はぜーんぶマッチポンプなんです……もちろん嘘ですけど」
[太鼓::騙す気皆無で草]
[コーラル::でしょうね]
[紅の園::嘘がてきとう過ぎる……]
一瞬でバレる嘘をついて一瞬で会話が終わったところに、担当さんがカーテンをくぐって入ってきた。何かおしゃれで陽のオーラが滲み出ている人だ。
「は、はは、はじめましゅて!」
「……緊張してます?」
ギャップ萌えとはまさにこのこと。
もっとグイグイ来る系の人かと思っていたが、緊張で噛む系の人らしい。ちなみに私は目覚まし一発で起きる系の人だ。
「配信をしているとのことなので、少し……」
「ああ、でしたら切りましょうか」
[誰かの湿布::え]
[唐揚げ::ちょっと!?]
[頓遁豚::ふぁっ!?]
[枝豆::配信映えとか宣ってた人の言うことじゃないでしょ……]
[カツ丼::視聴者の扱いよ]
「いえいえいえいえ、そこまでしなくても大丈夫です! 頑張ります!」
「そうですか? ではお願いします」
「はい! 本日はキンモクさんから整えてと言われていますので、この形のまま細かいセットをしていきますね」
プレイヤーの髪はもともと自身で決めたから変える必要はなく、伸びたりもしないのでそういった対応なのだろう。寝ぐせがついて少しずつ歪んだりするのを手直ししてくれるといった感じかな。
うーん。
「待ってください。どうせならバッサリいきましょう」
「え!?」
「大切な人と当分の間会えないので気持ち的なあれです」
「なるほど……失恋、分かります」
「分かります?」
「痛いほど分かります」
申し訳ないが、マナさんは封印されているだけなので手元にはある。しかし嘘は言っていない。説明が面倒という訳では決してない。実質失恋みたいなものだしセーフセーフ。
「コホンッ、どのくらいバッサリします?」
「んー、あまり短すぎるのもですし……肩につくくらいのミディアムで、ついでに外ハネで巻いちゃってください」
「分かりました!」
注文してあとは担当さんに体を委ねる。
鏡で自分の髪を見た時に色が少し暗くなっていたが、きっと堕天使になった影響だろう。真っ黒にはなっていないし大して気にならない。
問題はこの美容師さんとの会話だ。
私はデッキを大量に持ち合わせているからいい。ただ、緊張もあるしあまり話しかけない方がいいのか分からない。聞にくい空気が流れている。
◇ ◇ ◇ ◇
「よし。完璧に仕上がりました!」
「おー、我ながらビューチホーですね。感服の極み、世界四大美女に枠が増えることになりそうです」
[壁::最高か]
[ピラフ::それは過言]
[天麩羅::びゅーちほー]
[カレン::似合ってる!]
過言とか書き込んだ曲者は後でブロックするとして、どうやら私が一番遅かったようだ。カーテンの外で話し声が聞こえる。
私は見せつけるように堂々と登場した。
「なるほど、道理で」
「おー、
「うむ。吾輩の運命の相手なだけある。世界一美しいぞ!」
〈どらごん〉
「それほどでもありますけど。へへっ」
どらごんだけは「まあいいんじゃない?」みたいな顔してるから腹立つ。流石に店内で喧嘩するのはみっともないので、妄言を吐き出す変態と同様に無視。
改めてみんなの髪を見てみる。
コガネさんはもとから長めだったのを活かし、三つ編みをしてマフラーみたいに巻いている。最先端のファッションなのかな。
パナセアさんは、ただのお団子だったのが何かオシャレなお団子になっている。軽く見た感じ編み込みをかなり取り入れている。
ストラスさんは特にアレンジ無しで髪先を整えたくらいかな。
ここで待っていたはずのどらごんは、こころなしか体が綺麗になっている。どらごん自体が木の根っこ――大根みたいなものなのだが、たぶん手の空いてる美容師さんの気まぐれで洗われているようだ。
なんか知らないけどバラのヘアゴムをピッシリ付けられていて、遊ばれていたのが見てとれる。
「…………何はともあれヨシッ!」
私が現場堕天使の構えをしていると、キンモクさんが戻ってきた。
「皆様終わったようで。では改めまして服の方へ参りましょう」
「代金は払わないん?」
「代金の方は後でまとめてでございます」
「そうなんや」
「えー、コガネさん知らなかったんですかー。プークスクス」
「ミドリはんも絶対知らへんかったやん!」
「ちっちっちぃ、私は全知全能にして世界一の美貌の持ち主ですよ。堕天しても妖艶な美しさに変換されるだけです!」
「何言ってるか分からへん。テンションおかしなってんで……」
私も何を言ってるか分からない。きっと口から生まれたから口先のうまさに天才的な頭脳すら振り回されているのだろう。
「根っこよ、その薔薇お似合いだぞ。笑いものにぴったりではないか!」
〈どらごん!〉
「…………相変わらず賑やかでいいことだ」
服選びのために移動しようとしていたところにパナセアさんのひとりごとが耳に入った。それはとても優しく嬉しそうな声色だった。
――メンバーが実質入れ替わりになったにもかかわらず、〘オデッセイ〙はこれからも賑やかに辛い旅を乗り越えていくのだろう。
選んだ道が険しく残酷でも、私たちは折れることなく元気に歩み続ける。
旅路の果てに幸せがあると信じて。
「完、なんてね」
適当にしめてみたが、こんな中途半端なところで「俺たちの戦いはこれからだ」するつもりは微塵もない。
目の前に新衣装が待っているのだから!
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