##30 謎のまま解決が一番怖い

 

 目が覚めた。

 正確に言うなら、ゲーム内で夢の世界に拉致されていたところから帰ってきた。



 最初に目に映ったのは数日ぶりの天井。私の魔王城における自室である。眠っている間に運び込まれたのだろうか。



「ふんっ……くぅうー!」



 伸びをしながら起き上がる。



 夢の中のことはきちんと覚えている。たくさん遊んでちょうどいい息抜きにもなった。

 ……ただ、正直あんなあっさり帰ってこられるとは思っていなかった。途中で私が確かに見た巨大な眼球、あれが何かしら悪さすると考えていたのだ。



「結局あれは何だったんだろ?」



 アリシアちゃんもそのことには関して何も言っていなかったし、本当に私にしか見えていなかったのかな? うーん、モヤモヤするー!



「ってあれ? なんでこんなところにティアラが?」



 白く透き通るような宝石で作られた一級品――夢の中でトランプの女王さんがつけていた代物だ。

 トランプ達がアリシアちゃんの生み出した物なら、あのティアラも元々はアリシアちゃん自身の物で、それを持たせていた可能性はある。


「ありがたく頂こうかな」


 ティアラを試しに頭に乗せてみる。鏡で見てみると、初期装備に目を瞑ればお姫様みたいでよく似合っているように思えた。




「……ご機嫌麗しゅう。違う、ごきげんよう! これは高飛車系だから少し違うかな。ああ、勇者様! 死んでしまうとはなさけない!」



「……」



 調子に乗ってお姫様RPを模索していると、パナセアさんが入ってきて、すぐに扉を閉めて帰っていった。



「コホンッ……! パナセアさん! 見なかったことにして要件をお願いします!」


「…………まぁうん、話し声がしたからといってノックもせずに入った私が悪かった。誰にでもそういう日が来るから気にしないように……ね?」




「ちょっとお芝居の練習してただけですから!」


「そうか、お芝居の……うん? そんなティアラいつの間に?」



「あー、やっぱりその辺で拾って枕元に置いておいたとかではないんですね。一応鑑定してもらえます?」




 これで夢からの贈り物だというのは確定。アリシアちゃんに感謝して使わせてもらうとしよう。



「承知した。【アイテム鑑定】」


「どうでした?」




「ふむ……アイテム名は{崇高なる宝冠}、付いているスキルは【旧神狩りの印】だそうだよ」



「なんでぇ……?」




 厄介事のにおいしかしない。旧神って確か、何かすごいヤバい神様って感じだったはず。


 ティアラにそんなのが付いているということは、すなわちアリシアちゃんの国、あるいは王族がそういう役目を持っていたのかもしれない。


 ――そうだ。よく考えたら、アリシアちゃんは彼女のお兄さんのようにアンデッドとかでもなく、ただ夢の中に居た儚い形で残っていた。かなり昔に滅んだ国だったようだし、アリシアちゃん自身に何かすごい強さを感じるとかも無かった。


 もしこのティアラがそういう悪い存在から守るための物だとしたら……トランプの女王さんにつけさせていたのはただ単に目印にするためではない?

 あの世界を形作るために、そういう存在から力を借りていたのなら説明はつく。



 ……じゃあ、あの眼球の主が旧神だったのだろうか? 真実は夢の中に消えてしまって今は何も分からない。



「ミドリくん? 何か思い当たる節でもあったかい?」


「いえ……まだ憶測に過ぎません。きっと考え過ぎでしょう。たまたま物騒なスキルが付いていただけですよ、きっと」



「現状実害が及ぶ訳でもないから、お守りに装備するのもありだろう」


「ですかねー」



 流石に初期装備とは合わないので、また装備を新調したらにしようかな。ストレージに仕舞っておく。



「あれ、そういえば黒霧地帯インビジブルエリアから出れたんですね。アルマさんも無事ですか?」


「……霧は消えたからね。そちらで何かしたのかと思っていたが違うのか」



「私は特に――あ、もしかしたら霧を出していた人が消えたから霧も消えたのかもです」



「間違いなくそれだろうね。…………話を逸らすのはやはり気が引けるな。アルマくんは私が倒した」




 パナセアさんにしては珍しく苦い顔をしている。余程ただならぬ事情があったのだろう。無駄な殺傷をするタイプでもないので、乗り気でもなかったといった表情だ。




「彼は頑張れと言っていたよ」


「そうですか。背負うものが増えていきますねー」



 私は残念な感情を隠すようにあくびをしながら、勢いよく立ち上がった。


 今回のちょっとした遠征で、仲間や友達、先輩を手に入れることができた。形としては残らなくなってしまったけれど、私の心にはみんなの言葉と想いが残っているのだ。




「こうやって考えてみると、私っていろんな人からいろんな大切なものを受け継いでいるんですよね」


「そうだね。君にしか成し得ないからこそ預かっているのだろう」




「うへぇ……頑張らないとですね」


「まぁ、気楽にいこう」



 パナセアさんも立ち上がって、二人で部屋を出る。そろそろ昼時だからお昼ご飯を食べに食堂へ向かうのだ。



「……」


「パナセアさん?」



「いや、思っていたよりずっとスッキリしていて不思議に感じたんだ」


「そんなにスッキリしてますかね? ま、そうだとしたら夢の中で友達と遊びまくったからでしょうね」



「夢?」



 再び不思議そうにしているが、私は答えない。


 あの夢のことは私とアリシアちゃんだけの秘密だ。楽しい夢がいつか忘れてしまうものだとしても、子どもの秘密の遊び場に誰かを招くなんて無粋なことはしたくない。

 深く掘り返されて退屈になるより、私の中だけで楽しいままでいて欲しいのだから。




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