##31 次の目的地

 



「第……何回目かのクラン会議です! イエーイ!」


「よぉ〜! ドンドコドン!」



 私とコガネさんが元気いっぱいに盛り上げる中、他の面々からは拍手しか出てこない。



 魔王さんに頼んでお借りした会議室には、私、コガネさん、徹夜明けで眠たそうなパナセアさん、若干風邪気味のストラスさん、静かに座っている魔女のエスタさん、そして絶賛昼寝中のどらごんとウィスタリアさんが居た。


 竜の子たちはまあいいとして、パナセアさんのスケジュール管理とストラスさんの体調管理には文句を言いたい。なぜよりによって今日なのか。



「では本日1つ目の議題、次の目的地についてです」


「あれ、竜の渓谷という話ではなかったか?」



 少し気だるそうにパナセアさんがそう言った。眠いなら寝てもらっても全然いいのに、頑固にも参加したいらしいのだ。ストラスさんも風邪気味なのに参加してるのも同じ理由だ。



「もちろん竜の渓谷には行きます。竜の巫女さんに魔女さんまで案内人として来てくれてますし」



 フェアさんに会いに行って{適応魔剣}を直してもらわないといけないから、絶対に行きたい。




「でも、実はここの魔大陸と竜の渓谷がある中間にもう一つ国がありまして――」


「三本皇国やな。昔の日本そっくりやさかい観光目的かいな?」




「なんで言っちゃうんですか! 今のは私が言うやつじゃないですか!」


「ええやんええやん。会議を円滑に回すには詳しい人話した方がええかなって思たんや」



 うぐ……そう言われるとその通りだから言い返せない。

 コガネさんの初期リス地が三本皇国という話は聞いていたので雰囲気はここで聞いておいた方がいいかな。



「まあ、おっしゃる通り観光半分ですかね」



「息抜きしたいしうちは賛成やで」

「うんうん、のんびりでいいんじゃないかネぇ〜」



 コガネさんとエスタさんは乗り気な様子だ。風邪気味なストラスさんはもう完全に眠っている。

 パナセアさんが眠そうに考えている隙に、外にいる魔王城勤務の使用人の人にストラスさんを部屋まで運んでもらうよう頼んでおく。


 そうこうしていると、やっと整理できたようでパナセアさんから細かい部分の質問が投げかけられる。



「残り半分が何かありそうな言い方だったがそれも聞いて構わないかい?」



「ああ、といっても私だけの理由なんですが、壊れた愛用の武器を直してもらうまでの武器が欲しいんですよ」



「なるほど、つなぎのための寄り道か。了解した」



 パナセアさんの了承もとれたし、観光できる。聞いた話だと三本皇国は日本の江戸時代末期くらいの感じらしいし楽しみだ。

 一応私も高3なので歴史の勉強になるかもしれないし。




「さて、そんな次の目的地である三本皇国ですが、実はソルさんに頼んで結構良さげな宿を予約してもらってるんですよ。魔王国支払いで延長し放題らしいので遠慮なくのんびりできるというわけです」


「さっすが魔王はん、太っ腹やなあ!」



 本当にコネというのは素晴らしいものだと思わされる。とは言ってもずっとヒモになるわけにもいかないので、そのうち独立するから稼ぎはしつつ観光もしたい。



「そして2つ目の議題ですが、観光ついでにあっちの国の懸賞金で金策したいんですけど、その方針について何か意見のある人ー」


「冒険者やらあらへんもんね、あそこ。そやさかい懸賞金狙いってわけなんやな?」



「そうなんですよ。冒険者システムが無いから少し物騒ではありますけど懸賞金狙いが一番効率良いと思うんです」



 説明を終えると、パナセアさんが挙手をしてくれた。



「はい、どうぞ」


「我々は正直個としてのポテンシャルが高く、各々が確かな強みを持っている。だからするなら別行動か、多くても二人一組が丁度いいのではないだろうか?」




 なるほどなるほど。

 言われてみれば、私たちの戦いは今まで各々で共通の敵集団と戦うやり方で、全員で連携して一つの強敵を倒すとかのシチュエーションにはなっていなかった。個人個人の実力も十分あるから余計にそうなっているのだろう。そう考えればわざわざかたまって賞金稼ぎするより別行動の方が圧倒的に稼げる。



「私は賛成ですね。まあ念の為二人一組が良いとは思います」


「うちも二人一組がええと思うよ」


「異論は無いからそれでいくといいネ」



 意見がしっかりしているから特に反対意見も出ない。なんというスムーズな会議なのだろうか。




「はい、というわけで議題は尽きました。他に何かあります? 些細なことでも遠慮なく言ってください」



「私は無い」


「うちは……あっ! わりかし大事な話があったんやった!」




 コガネさんから大事な話があるらしい。

 今までとはうってかわって真剣な表情の彼女に私まで息を呑む。




「ミドリはんのこないだのイベント配信におったネアはんって子、ソルはんや魔王はんとも面識があったみたいでな、それで色々聞いたんやけど」


「ほほう?」



「何かその子のおるクランの仲間が空にあるらしい大陸に連れ去られたみたいで、そっちに向かったみたいなんやけど、その連れ去ったやつがうちらの因縁のソフィなんやって」


「――!」




 つまり、クロさんが空の大陸になぜか連れ去られ、それを助けるべくネアさんらが動いていた……なら彼女らもソフィ・アンシルを倒すのが目的だったりするのだろうか?


 どちらにせよ――



「ネアさん達が通った道に続けば、私たちも辿り着けるというわけですね」



「せや。あと、うちのおっしょはんが何かソフィの元弟子だったらしくてな……色々探ってみたんやけど、大した弱点とかは見つけれへんかったわ」


「おっしょはん、というのは?」



「ん? あぁ、おっしょはんは師匠って意味や。かんにんかんにん。どこまで通じるか分からへんさかい」




 なるほど、私とパナセアさんが黒霧地帯インビジブルエリアに行っている間に亡くなった師匠さんの家に行っていたのはそういう理由もあったのか。ありがたい。



「まあ、当分は竜の渓谷が目的地でいいでしょう。終わり次第また会議で方針を決めてきましょうか」


「せやな」


「Zzz……」


「頑張ってネ〜」




 限界を迎えたパナセアさんは眠っていた。そして竜の渓谷までしか一緒に来ない予定のエスタさんは他人事である。



「じゃあ今日の会議は終了です。大半が寝ていたのでまああれですけど、出発までにしっかり休んでおいてくださいね」



 会議は一切踊らずに幕を閉じた。

 私もみんなの寝顔につられて眠くなってきた…………。もう寝よかっな。


 会議室を後にして、私は自室に直行。ベッドにダイブする。



「それにしても、三本皇国かぁ……せっかくなら着物とか着たいな………………」



 

 次の目的地への期待に胸をふくらませながら、私は目を閉じた。



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