##55 第二試練『対峙』
豆腐ハウスを出ると、マイケルさんとどらごんが出迎えてくれた。
「終わったか。早かったな」
〈どらごん〉
マイケルさんはなぜかどらごんに締められているが、気にしていない様子だ。私もスルーしておく。
「第一試練は合格だ。次行くぞ」
「スムーズですね。忙しいから巻きでやってる感じですか?」
「いや、色々と時間帯の都合があるからな。テキパキやらないとまた別日に来なきゃいかんくなるぞ」
「へー、それは確かにさっさと進めた方がお互い楽ですね」
そんな雑談を交えつつ、光のエスカレーターを上がり、神々しい神殿のような施設の奥へ案内された。
「じゃあ、あとは一人でこの通路を進め。俺らはここまでしか入るのを許されていないからな」
「その先に試練の部屋があるんですね?」
「そういうこった。一本道だから迷わんだろ」
「なら安心です」
「頑張れよー」
〈どらごん!〉
「はいはい、いってきまーす」
私一人で、通路を進んでいく。次第に通路はその輝きをましていく。
〈来たか〉
――ドクンッ。
心臓が跳ねる。
「…………っく、この声は――」
通路の片側、厳重に錠や鎖で雁字搦めになった、物々しい扉があった。
〈まんまとここに来るとは、あいつも馬鹿だなぁ。…………いや、それも計算の上か? ……まあいい。どちらにせよ都合のいいことに変わりないしな〉
「破壊神――!」
扉越しに聞こえるのは、私の胸の刻印を刻んだ張本神。私が力を欲したときに破壊願望と共に力を貸してくれる、間違いなく良くない側の神である。
「これを開けろって言うんでしょうけど、私は絶対に開けませんからね!」
〈かっかっ! 分かってんじゃねぇか。もちろんタダでとは言わねぇよ?〉
「聞く耳を持たないでお馴染みのミドリですので、さようなら」
関わるとろくな事にならないのは明白。
ガン無視を決め込んでその場を去る。
〈お前の大事な存在を今すぐ助けることだってできる〉
「……っ」
〈お前の目的はすぐに果たせるんだぜ? 信用ならねぇってなら、破壊神の名に誓ってそいつの安全も保証してやるよ〉
足を止めてしまった。
そこまで言うなら、本当にマナさんを宝石から助け出す
憎いことに、私のウィークポイントをしっかりとおさえてらっしゃる。
「この扉を開けたら貴方は解放されて、すべてを壊そうとするでしょう? 今の言葉が本当なら、マナさんだけは無視して、他の全ては壊すつもりですよね?」
〈この部屋からさっきの試練の映像は見えてんだ。お前は“世界”と“友人”を天秤にかけたろ? その答えはなんだっけか?〉
「……分かりました。ただ、条件を加えてください」
〈へぇ? 言ってみ?〉
「私に刻んだものを消してください。こそばゆくてかなわないんですよ」
〈かっかっかっかっ! いいぜ、その条件で呑んでやるよ〉
助けてもらうというのに上から目線だなー。偉そうに。
「ふんにゅぅ!」
扉を縛っているものを素手で壊した。ソッと、扉を開ける。中には、さらに拘束具で身動きの取れないようにされた、銀髪の女性がいた。
目も鼻も口も耳も、頭から下の全ても封じられていた。
「扉越しでも念話を使っていたのはそういうことですか」
〈そういうこった。こいつを解いてくれれば宝石からお友達を解放してやるよ。手始めに、お前の刻印はもう消しておいたぜ〉
確かに、胸に刻まれたそれはかき消えていた。
あとは拘束具を解くだけ。それだけでマナさんを解放するという目的は達成される。
しかし、私はこれ以上解いてやるつもりは微塵も無かった。
「騙したような形になって申し訳ありませんが、貴方はここで私が倒します」
〈へぇ? お友達はいいのかよ〉
「――確かに、私にとって世界とマナさんだったら当然マナさん一択です」
〈じゃあこの拘束を解いてくれよ〉
「でも、
そう、私だけの価値判断で決めていいことではないのだ。
「彼女はその選択を拒むでしょう、解放させた私を責めるでしょう。だから、彼女の望まないことだけは、絶対にしません」
確固たる意志を持って言い切ると、破壊神から破壊の力が漏れ出した。
〈そうかよ。じゃあ、死ね〉
人への特攻は無いとはいえ、貧弱な堕天使を滅ぼすには十分な破壊の力が私に迫る。
「貴方が避けた破壊の力、取り除いてあげましたよ。私の中に居るんですから、宿主に力を貸したらどうですか?
〈【ワン】!〉
私の足から虹が出た。
それは破壊の紫を押し返し、完全に防ぎきる結果となった。
「狼なんですから、ワオーンとかの方がいいのでは?」
〈ワン!〉
虹色の狼が私を守るように現れた。
結構前だが、前回のイベントで私の体に入ってきた“色神”の眷属である。
私だって無策で挑んだわけではない。
相性関係は随分前にフェアさんから聞いていたから、いけるやろと思って倒そうという考えにまで至ったのだ。
「破壊神は神に弱く、その上色神は神に対する超特攻があります。拘束された状態の貴方を倒すなら、眷属でも事足りるでしょう」
〈ワン!〉
なんとなく、「チッ、仕方ねぇな!」と言っているように感じた。どらごん語の習得による恩恵かもしれない。
〈カッカッ! ――やってみろよ雑魚どもが〉
破壊の力が増す。
かつてないほど凍てつくような殺意が肌を刺してくる。
「ほい、第二試練は終わりだ。ここを出るぞ」
〈どらごん!〉
「……はい?」
〈ワン?〉
唐突に、マイケルさんとどらごんが間に入った。
これが試練?
じゃあ破壊神もグルだったってこと?
〈あぁん? ふざけてんのか? お前らもまとめてぶっ壊してやるよ〉
どうやら違うようだ。
フェアさん、よりによって破壊神を利用したらしい。
「流石の俺も、今のあんたにゃあ負けんよ」
〈チッ……せめて刻印を――ってあいつ弾きやがった!〉
私に刻印を戻そうとした様子だが、何らかの方法で弾かれた。フェアさんの干渉だろう。
最初から弾いて欲しかったが、刻まれた時は私からその力に手を伸ばしたから仕方なかったのかもしれない。
「ほれ、行くぞ」
「あ、はい」
マイケルさんは封印されていた部屋の外へ私を連れ出し、扉に鍵をかけた。念話で、逃げんなとか死ねとか暴言が聞こえるが、完全に無視を決め込んでいた。
ペットたちはなにやらペット同士で喋っている。仲良くやってくれると嬉しいな。
「ったく、強引に壊しやがって。こりゃ、あとで封印のし直ししなきゃだなー」
「なんかすみませーん」
まったくだとぶつくさ文句を漏らしながら、次の試練の場所への案内を始めた。
もともと進んでいた通路の奥まで歩く。
私とマイケルさんの後をペットたちが続いている。
「次が最後の試練になる。どうせなら楽しんでこいよ」
「楽しむって、遊びに行くんじゃないんですから……」
「ま、好きにすりゃいいさ。ほれ、この部屋の真ん中に立てば始まるからな。お前らはここで待ってるんだぞ。犬っころもな」
〈どらごん〉
〈わん〉
通路の奥に巨大な部屋があり、そこに入るように促された。マイケルさんにペットーズの面倒を任せ、私は最後の試練のために部屋に入った。
「うぇ、なにこれ。集合体恐怖症だったら卒倒案件でしょ」
部屋の床、壁、天井の全てに、隙間なく埋め尽くすような数の魔法陣と謎の言語が刻まれていた。
神秘的を通り越して、もはや呪われそうな部屋である。
唯一何も描かれていない部屋の中心に、おそるおそる立つ。
――――瞬間、数多の光が部屋を埋めつくし、おさまったと思ったら温かい陽の光が私を照らした。
「この感じ……」
魂がフワッと浮いたような感覚を覚えたが、なぜか違和感は無い。
足場は芝で、色とりどりの花が咲いている。
体感の空気の薄さ的にさっきまで居た天界ではあるはずだが、どうにも雰囲気が華々しい。
まるで、かつて栄えていた町にタイムスリップでもしたような――
「おろ? 見かけない人っすね? こんにちわっすー」
「…………わっ、すー」
思わずオウム返しをしてしまった。
っす口調に驚いて振り向いたが、私の想像とは別のベクトルの驚きが再度襲ってきたのだ。
マナさんではなかった。
しかし、緑色の髪に真っ白な天使の翼を携えた少女が不思議そうに私を見つめていた。
顔つきや雰囲気はまるで異なるが、ドッペルゲンガーでも見たような気分である。
「貴方は一体……?」
「自己紹介っすね! 翡翠の天使こと、
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