#32 盗み聞きするつもりは全く無いんですけどね




「昼まで別行動で観光しながら良さそうな宿を探しましょう、またここに集合で。面白い場所があれば後で共有する感じでどうでしょう?」



「いいっすね。面白い場所、見つけちゃうっすよ〜」

「お祭りみたいだ」



 申し込みは大したイベントも無く、流れ作業のように扱われすぐに終わった。説明やその他も含めて書類一枚だ。



「では、また後で」

「バイバイっす〜」

「気をつけて」



 二人と一旦別れ、適当に歩く。

 この際だし、視聴者さんに説明しようかな。



「先に大会のルールを言っておきます」





[テキーラうまうま::たすかる]

[階段::感謝]

[病み病み病み病み::ありがとう]

[ピコピコさん::おー]

[らびゅー::待ってました〜]




「まず形式ですが、全体を四つのブロックに分け、その中でバトルロイヤルで戦います。これが所謂いわゆる予選にあたるようです」





[紅の園::人数少ないのかな]

[天麩羅::ごちゃごちゃになりそう]

[燻製肉::強い人集中砲火食らいそう]

[セナ::おー]



 人数少ないといいなー。

 じゃなかったら、大混戦になるけど……どうだろう?



「えー、その予選で勝ち抜いた四人でトーナメントが行われるそうです。かなり予選で絞りたいようですね」





[天変地異::狭き門だなぁ……]

[あ::かなり厳しいな]

[お神::対辺]

[芋けんぴ::4人はえぐい]




「そして、予選は場外でも負けになるそうです。共通した勝ち方としては、気絶、降参、戦闘続行不可な損傷、だそうです」



 ここのラインが難しいんだよなー。

 ハッキリ言って、この大会は純粋な格闘家とかの方が圧倒的にやりやすい。



「死亡やそれを促す怪我を負わせるのは失格、あくまでも寸止めが推奨されていますね。プレイヤーでも同条件だそうです」



[枝豆::それかなり不利では?]

[カレン::それはそうだね。殺すのは流石にね]

[ゴリッラ::大会やしなぁ]

[壁::大剣の寸止めって無理では?]



「寸止めはできるようになりましたから、大丈夫ですが、思いっきり振れないのはストレスになるんですよね……」



 そんな風に説明しながら大通りに到達すると、そこは見覚えのある場所だった。



「入口に戻ってますね。ちゃんとうろちょろしたはずなんですけど。こっち行きますか」




 行ったことの無い場所を求めて、また路地裏に入っていく。



「それで、明日と明後日が予選、その次の日に本戦といった形ですね。私たち全員二日目の予選なので、明日の予定はまだ分かりませんね」




[ヲタクの友::どっちかと戦うん?]

[ベルルル::被ってるんか]

[キオユッチ::なるほど]

[無子::確実に誰かとは戦うんだ?]




「私だけ別で、マナさんとサイレンさんが同じブロックですね。まあ、バトルロイヤルなので直接対決になるかは分かりませんけど」




[あ::あらら]

[壁::どっちも頑張って欲しいなー]

[芋けんぴ::三人が同じじゃないだけマシやね]

[カトーショコラ::結局三人では誰が強いん?]




 中々ぶっ込んだ質問だ。

 恐らくパーティーという集団にいる限り、つきまとう話題だろう。



「あくまでも私の個人的なあれなんですが、自惚れではなく私が一番でしょうね。二人は正直五分五分ぐらいの認識です。実際どうかは確かではないんですけどね」




 訓練の様子を見て思ったが、サイレンさんはまだ思い切りが無いというか、判断が遅い。マナさんは純粋に攻撃手段が少なすぎる。


 パーティーとしてなら、ガンガン攻める私、バランスの良いサイレンさん、タンクのマナさんと、安定した構成になるが、個人戦となるとそれぞれの強みを活かしきれない面が多々ある。



「なんにせよ、結果は大会で分かるでしょうね」




[カレン::そうだね]

[紅の園::楽しみ!]

[唐揚げ::せやな]




 右、左と何も考えずにほっつき歩いていると、先の曲がり角から声が聞こえる。二人分の話し声だ。



「はぁぁ……何で私達が大会の申し込みなんてやんなきゃいけないんだぁ……」


「忙しいけど、普段の仕事が減ってるし、ボーナスも出るし、まだいいんじゃない?」



「そうだけどさぁ……ギルマスは何を考えてるんだか」


「あの人は陛下の大ファンだからね。嬉々として手を上げたのが目に浮かぶわー」



「確かに美人だけど、あんな怖い人をよく好きになれるよね」


「不敬よ……」



「確かに」





 あまり宜しくない、愚痴のような話だ。

 目を合わせないように、スルーして行こう。




「あっ」

「あっ、こんにちはー」



 まずいと思ったのか、私に挨拶をしてきた。

 聞こえててもおかしくない声量だったからね。


「こんにちは」



 なるべく無表情で、挨拶を返す。

 そのまま引き留められることなく離脱できた。変に脅されなくて良かったー。




[天変地異::ギルドの仕事って大変なんやなー]

[紫りんご::ライブ初見です]

[味噌煮込みうどん::ギルドの裏事情ェ……]

[隠された靴下::消されない? 大丈夫?]

[死体蹴りされたい::帝国の皇帝ってどんな感じなんやろ?]




「え? ギルドの人だったんですか?」




 さっきの場所をちらっと覗くため、戻ろうとするが、途中、気づいてしまった。



「何で戻ってるんです?」



 私のすぐ横の建物が冒険者ギルドだったのだ。

 つまりあそこに居た人達は、ギルドの裏で休憩していた受付嬢とかなんだろう。



「帝都って入口とここしかないんですか?」




[蜂蜜過激派切り込み隊長::んなわけない]

[あ::迷子定期]

[枝豆::適当に歩き過ぎでは?]

[天麩羅::そうだったら狭過ぎやろ]

[らびゅー::帝都一本道説は新し過ぎる]




「帝都一本道説、ワンチャンないですかねぇ?」



[セナ::無いです]

[紅の園::ないですね]

[唐揚げ::あってたまるか]




「残念です……今度はあっちへ行ってみますか」



 方向的には、マナさんが向かった方。

 とりあえず人混みを避けて暗い路地裏にく。



「お、いい感じの雰囲気の喫茶店ですね」




 少し歩くと、レトロな雰囲気漂う喫茶店を見つけた。オープンなやつではなく、中を見ることができない閉ざされたような店だ。

 店頭に「喫茶」と書かれた看板が無ければ、完全に気づかなかっただろう。



「静かな場所なので黙りますが、ご了承ください」



[病み病み病み病み::好きなようにしてもろて]

[ハウキ::おk]

[壁::もちろんどうぞ]

[天変地異::お気になさらず]



 ドアを開けると、心地の良い鈴の音が鳴る。



「いらっしゃい」



 中は普通にお洒落なカフェだ。

 カウンターと、テーブル席が四つほどの、落ち着いた内装。


 テーブル席に四人座っていて、他の客は誰も居ない。

 その四人は黒い外套を着ていて怪しさ満点だけど、本当に悪いことを企むのならバーとかのイメージだし、大丈夫なはず。



 空いているカウンター席に腰を掛け、メニュー表を見る。


 コーヒーからオレンジジュース、りんごジュースまである。子供も来たりするのだろうか。


「りんごジュース、お願いします」


「かしこまりました」



 貫禄のある皺の入ったおじいさんは、手際良くりんごを取り出す。



「!?」



 そして、りんごを軽々しく砕き、何かの容器に入れ、それを振りだした。

 フィジカルつよつよマスターさん、かっこいい。




「お待たせ致しました」


「ありがとうございます」



 ワイングラスのような高級そうな入れ物にりんごジュースという、贅沢な光景だ。



「…………美味しいですね」


「それは良かったです」



 そうして、現実から隔離されたような心地でのんびりしていると、後ろから話し声が聞こえてしまう。


 盗み聞きするつもりは全く無いんだけどねー。





「……ゆっくりし過ぎ」


「いやいや、ご主人様ならこれくらい許してくれるはずですよ」


「まあまあ、ここまで大変だったし、多少休憩しても良いと思うでやんすよ」



「ぷはぁ……このオレンジジュース美味しい〜」





 全く関係も状況も読み取れないが、どうでもいいや。



「…………やるなら、優勝」


「もちろんですよ。あなたがチキらなければ、危なかったかもですけど、居ないなら余裕ですよ」


「油断は禁物でやんすよー」


「私も夜だったら出たんだけどなー」




「強い人、居るといいなあ……」


「……マツは……戦闘狂直すべき」


「やでーす」


「チッ」



「はぁ……クロさんのありがたみがよく分かるでやんすよ……」

「オレンジジュース美味!」


「「うるさい」です」


「あ、すみんせん」





 …………果たして、仲が悪いのか、良いのか。

 本当に謎な関係だ。だけど、楽しそうで私まで和やかな気分になってくる。


 聞いた範囲で分かったのは、マツさんという人が大会に出るかもしれないということ。あれだけ言うとは、どれほどの実力者なんだろう?




「ゴクッ……ごちそうさまでした」



 料金の300Gゴールドを置いて、店を出る。





「良いリフレッシュになりましたし、昼も近いので来た道を戻って集合場所に戻ります」


 あ、そうだ。


「宿泊地バレを防ぐため、ここで終わります。恐らく今日は夜の配信無いです。眠いので」



 夜更かししたし、早めに寝たい。



[階段::おつミドリ〜]

[芋けんぴ::おつミドリ〜]

[カレン::おつミドリ〜。ゆっくり寝てね〜]

[天変地異::おつミドリ〜]

[紫りんご::おつミドリです]

[唐揚げ::おつミド]

[壁::おつミドリ〜]



 配信を切って、冒険者ギルドへ再び向かう。




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