#33 不穏な気配です




 むむむ?


「ん〜?」



 まさか……いやいや。



「ん〜〜??」




 …………迷った。ここどこ?

 早めに集合場所に向かって正解だったなー。


「流石にこんなお昼時から飛んで目立つのも……うーん」



 どうしたものか。自分がこんなに迷子体質とは思わないじゃん、普通。




「何かお困りですか?」




 後ろから誰かが話し掛けてくれた。

 振り向くと、現実で言うところの中学生ぐらいの女の子が立っていた。焦げ茶色のあまり特徴の無い容貌だ。強いてあげるとするとそばかすがチャームポイントだろうか。




「迷ってしまいまして。お時間があれば、冒険者ギルドの場所への行き方を教えて頂けませんか?」



「冒険者ギルド……分かりました。着いてきてください」



「あ、いいんですよ。方向だけで」


「大丈夫です」


「……分かりました。お願いします」




 この人は、信用してはいけない。

 なぜなら、ずっと私のことをけていたから。流石にずっと着いてこられたら私でも気付く。

 目的は全く読めないけど、警戒するに越したことはない。



 目の前の少女の一挙一動に注意を払いながら、先導についていく。




「私はミドリです。貴女の名前を伺っても?」



「ヌテです」


「よろしくお願いします」


「どうも」



 曲がり角に差し掛かった。

 先にヌテさんが曲がる。

 私もそれに従おうとした瞬間、赤い線が通る。


 曲がり角を使って待ち伏せしているのだろう。線の軌道的に遠距離攻撃だろうか。



「何故私を攻撃しようとしているのですか?」


「っ!?」




 私に攻撃を読まれて、動揺している。


「…………」

「…………」



 しばらく無音の時間が流れる。


 膠着状態が続き、この場のおさめ方に困っていると、背後からズルズルと何かを引きる音が聞こえる。


 人だ。

 外見は。



「どういう繋がりなんですかね……?」



 ワラワラと出てきたのはゾンビだ。

 今ならハッキリ分かる。

 あの地下水路の門番の人の時より、鼻を突くような死臭がするから。


 その顔に意識は無く、ブラブラと無造作に腕を揺らしている。




「数が……」




 ヌテさんに意識を割きながら十は優に超えているゾンビを相手取るのは厳しい。路地裏という狭い場所だと大剣の強みも活かしきれないし。


 ここは、退こう。



「【飛翔】」



 建物の屋根あたりまで高度を上げ、その場から離れる。軽く辺りを見渡し、冒険者ギルドを視界に捉える。案外近くまで来ていたようだ。




 あの子の素性や背景を聞きたかったけど、あの感じだとまた会う機会はある。間違いなく。




「っぁ……ぶない」



 突然上から赤い線が降ってきたと思ったら、矢がそこを通っていった。踏みとどまらなければ直撃だったろう。このレベルの高い偏差撃ちは、道中攻撃してきた人物と同じはず。


 どこから撃ってきたのか分からないのが惜しい。

 腕が良いから早く何とかしないと。



 矢を念の為回収し、冒険者ギルドの近くで屋根から下りる。



「すみません、お待たせしました」


「あっ、よかったっす! 何かあったかもって心配してたっすよー!」


「ご心配おかけしました」



「別に時間を決めたわけじゃないし、遅くなるも何も無いから大丈夫」


「ありがとうございます」




 マナさんとサイレンさんと合流。



「どうでした?」



 先程のことを勘づかせないように、普段通りの空気で話し始める。



「マナは美味しそうな果物屋さん見つけたっす!」

「ぼくはりんご宿っていう良い宿を見つけたよ」



「おー、私はこじんまりとした喫茶店ですね。場所は覚えてませんけどね」


「はたしてその情報に意味はあるのか……」



「それはともかく、宿があるのなら案内お願いします」

「お願いっす〜」




「あいよー」



 サイレンさんの案内についていく。

 改めて表通りを見渡すと、路地裏とは違って賑わっていて現実で言うところの縁日のような人だかりだ。



 はぐれないように真後ろを三人で並んで歩いていくと、その先にはどこにでもありそうな宿屋が。

 看板に書いてある“りんご宿”の文字がポップで可愛らしい。


 中に入ると、簡素ながらも清潔感のある内装が広がっていた。


「あ、部屋どうする? ぼくは一部屋取るけど、二人は」


「私は一緒で問題無いですけど……」

「ミドリさんと一緒がいいっす!」


「だそうです」



「仲良いねー。すみませーん」



 手続きを始めてくれたので、近くの椅子に腰を掛けて待つ。


「私は明日までぐっすり寝るので、困らないようにお金を少し渡しておきますね」


「いいんすか?」


「もちろんですよ」


 ただでさえ無一文だったのに、依頼一つ分のお金ではどうあがいても足りなくなるだろうから。

 ストレージから合計10,000Gを出して渡す。



「ありがとうっす!」

「いえいえ」



 元気な笑顔が見れて、私も嬉しい。




「終わったんだけど……」



「あ、いくらでした?」


「一部屋一泊2,000Gだった」


「ほい、ありがとうございます」



 立て替えてくれたサイレンさんに2,000Gを渡し、部屋の鍵を受け取る。



「私は明朝にインしますので、おやすみなさい。マナさん、行きましょうか」

「はいっす!」


「おやすみー」



 生物学上は男であるサイレンさんと別れ、二人で部屋に向かう。



「この鍵は預けます。無くさないでくださいね?」


「気をつけるっす」



 少し心配だが、他に仕方も無いのでマナさんに預け、部屋に入る。

 そして、二つあるベットの入口から遠い側の方に寝転がる。



「また明日です。おやすみなさい」



「ゆっくり休んでっす〜」





 ログアウト。


 さあ、昨日の分までガッツリ寝よう。

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