#68 【凍結の魔眼】
何とか回避できた。ポニテールの先が少し凍りついているぐらいギリギリだ。
あんな隠し玉を持っているとは思わなかった。でも、あれほど強力なスキルならクールタイムも相応に長いはず。今が攻めどき!
「火の玉よ、〖ファイヤボール〗」
試しに柱の裏から魔法で攻撃してみる。もちろん体は柱から出さずに火の玉だけが出ている状態だ。
「【凍結の魔眼】」
「なっ!?」
先程凍った場所に更に氷が張り、火の玉はジュッと音を立てて消えてしまう。
クールタイムが短いスキル、あるいは無いスキルのようだ。魔眼という文面通りなら魔力を使うことで発動しているのかもしれない。
まだ二回しか見ていないが、氷の厚さに違いがあることから、魔力の量で調整ができる可能性もある。攻撃範囲は彼女の視界いっぱいで、物理的な物を凍らせるスキルと見れる。
ただの戦いだったら少しずつ攻略すればいいが、今回はマナさん達が何をされているか分からない状況だから早く助けなければいけない。悠長な行動はできない。
足止めとしては一流のスキルだ。
「来ないんですかぁ?」
「そんなに寂しいんですか。仕方ありませんねー」
安い挑発に挑発で返す。その間に作戦を練る。
今回に限っては【ギャンブル】による打開が難しい。目を賭ければワンチャンあるけど、私の目が使い物になったら後に響く。
トゥリさんの実力は分からないが、片目で倒せるほど八鏡は甘くないはず。ここではタイムロスも身体的なロスも無しで万全な状態で挑みたい。
クリスさんの魔眼の効能がどこまで貫通してくるか微妙だけど、やはりやり方はあれしかないかな。
柱を剣で斬りつけて瓦礫を作り、手に持つ。そして足に力を入れ、
「【疾走】」
駆け出す。
もちろん妨害してくるのは承知の上だ。クリスさんの目が光るのを視認し、私も魔法で対抗する。
「火よ波打て、〖ファイヤウェーブ〗!」
先に私の前を火の波が行く。
「【凍結の魔眼】」
壁では無いので完全に防ぐことはできなかったが、被害は殆ど無しでやり過ごせた。視界がそのまま効果範囲になるからこそできた芸当だ。
蒸気となって消えた波の中を突破する。
そして、剣を持っていない腕を軽く振りかぶり――
「うそぉ!? 【凍結の魔眼】!」
驚きながらも再び発動するが、一手遅い。
クリスさんの魔眼の眼前と、部屋の端だけが凍る。
「名付けて、瓦礫アタック」
発動より早く、柱の破片を魔眼に向けて投擲していたのだ。視界は目に近ければ近いほど範囲が狭くなる、扇形になっている。つまり、遠くにいればいるほど彼女のスキルは強いものになる。
だからこそ距離を詰めて眼前を塞げば、凍るのは最小限で済む。
「【飛翔】」
目に凍った瓦礫が命中し、
「飾りじゃないんですかぁ」
「れきっとした天使ですよ」
冗談を混じえながら、剣も
「【凍結の魔眼】」
「よっと」
【飛翔】による回避は通常時よりも圧倒的に可動域が広がる。その上、速度も結構なものだから視界から外れるのは朝飯前だ。
あらゆる方向から仕掛けては離脱、それを何回も行う。
太刀筋はこの数合でおおよそ掴めてきた。一気に仕掛けよう。
急加速して剣を振る。当たり前のように防がれるが問題は無い。
「火よ、〖ファイヤ〗」
「【凍結の魔眼】」
魔眼が使われるタイミングに合わせて目の前に火を出現させる。魔眼の効果はその火を相殺するだけで終わる。
「【凍結――」
「させませんよっ!」
私の火も読んでいたようで、再度発動しようとするのを、顔を蹴ることで邪魔する。私の手に気を取られていたので、かなりいいのが入った。
軽く吹き飛び、立ち上がったクリスさんの方に詰めると、赤い線が見えた。
魔眼を意地でも発動するようだ。まずい。魔法では詠唱が間に合わない。ここから方向転換してもギリギリ危うい。
どうすれば魔眼を…………ん? “魔”って言った?
「――の魔眼】!」
「【吸魔】」
クリスタルのような輝きから出された凍てつく視線は、私の剣――
本当にできるとは。ちょっと名前のダサさでなめていたかもしれない。
こいつ、かなりのチート武器かもしれない。
「えぇ……」
「隙あり!」
そのまま壁に追い込み、剣で頭の横に突き刺す。
「一時的とはいえ、同じ釜の飯を食べた仲ですし、裸の付き合いもした仲です。殺すことはしません。観念してください」
「私はまだ――!」
「残念ながらもう勝ち目はありませんよ」
魔眼を使って負けたのがショックだったのか、必死に抵抗しようと細剣を握るのを足で押さえつける。
後で事情を聞きたいけど、もう自殺でもしかねない狂った目をしているから説得しなくちゃいけない。無視してマナさんの方に行った方が良いかもだけど、ここで見捨てたらそれこそ後からマナさんに何を言われるか。
「先程、平和な世界のためにこんなことをしていると言っていましたが、どういうことですか?」
「……知りませんよぉ。お父さんがそう言うのだからそのままの意味ですぅ」
「お父さん? トゥリさんの娘さんだったんですか!?」
髪色も顔も雰囲気も、全くと言っていいほど似ていない。それを言うなら双子もだったけど、そちらは養子とかかと思っていた。クリスさんもかな?
「私も、スイも養子ですよぉ」
「ちょ、ちょっと待ってください。スイっていうのは?」
「スーとイーの本来の姿ですよぉ」
何それ。合体か何かするの? ……いかん。混乱してきた。これも私を惑わす作戦なのかもしれない。
「まあそこは置いておきましょう。平和な世界とは、どんなのを指して言っていたか、何かご存知ですか?」
概要が分かれば目的も掴める。養子とはいえ、娘なのだから少しぐらい話していてもおかしくないからね。
「……何も無い世界」
「は?」
「人の感情も、動物の本能も無い世界。そこにこそ真の平和があるって言ってましたぁ」
「…………」
何かを考えてるから告げられたのは、とんでもない内容だった。
「そんなこと、どうやって為せるって言うんですか。無理に決まっているでしょうに」
「できるみたいですぅ。そのためのあの二人ですぅ」
あの二人? マナさんとタラッタちゃんのことか。流石に二人で世界を変えるほどの力は無いでしょ。意味が分からない。
「はぁ。たとえできたとして、その先に何があるんですか」
「え? 平和があるってぇ――」
「平和はあるかもしれませんね。そもそも争うことが起きませんし。でも、何も無くなった世界に意味なんてあると思いますか? 果たして平和になったからといって笑顔が生まれますか?」
「それは……」
きっとこの人も薄々気付いてたはずだ。その無意味さに。そして滑稽さに。
「貴方達の関係性は知りませんし、今は興味もありません。でも――」
剣を手放し、肩を掴んで顔を近づける。目がバッチリ合った。今なら私を凍らすなんて容易だろう。しかしそんなことしないし、私がさせない。そんな隙は与えない。
「大切な人が間違えたなら、殴ってでも止めるのが大切に想う人の義務でしょうが! 鵜呑みにして、流されて、そんなので成り立つ関係なんて、壊れてしまえ!」
「っぁ…………」
言いたいことはぶつけた。あとはこの人次第だ。
掴んでいた肩を少し乱暴に突き放す。剣を拾って、下に続く階段に向かう。
「貴方がそれでも私と敵対するのであれば、二人まとめて両腕両足へし折って止めて見せますよ。好きにしてください」
それだけ言い残して、階段を駆け足で下りていく。
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