###40 【AWO】実地授業inダンジョン!【第四班】
あの4人で遊んだ日から1週間。
アディさんとはホームルームで話したりするが、ネルバさんは教授としてもやっているので4人で集まれたのは1週間ぶりである。
今日は眠気と戦いながら公務員的な仕事の内容をメモした
「只今より実地授業を開始する。ここは初心者向けのダンジョンだが、くれぐれも油断しないように。では一班から3分間隔で入りたまえ」
先生の指示を受け、私たちは順番が来るまでベンチに座って待つ。
「そうでした! 私の視聴者……というか異界人のほとんどがダンジョンについて知らないので配信しちゃっていいですかね?」
情報の共有は大切だ。
ゲームのモチベって大事だからね。
「報連相は大事なのです」
「初心者向けだし気負わないでも問題無い場所だからいいんじゃない?」
「あっという間に攻略して驚かせてやるのだ!」
チームメンバーの了承を得られたので遠慮なく配信を開始した。
と同時に順番が回ってきてダンジョンに入ることになった。次の班が詰まるといけないので急かされながらさっさと入場する。
第一階層はいきなり草原が広がっていた。見晴らしがいいため、先生も見回りがしやすいだろう。
それからここを含めたダンジョンについてアディさんが講義を行ってくれた。
初心者向けといってもレベル50は超えてるここの人達にとっての指標らしく、他の生徒はこの階層が限界らしい。2階層からは初心者冒険者(レベル70相当)が30人近く束になってでないと攻略できないとか。
全15階層だけど攻略した冒険者は120レベル超えの手練パーティーらしい。
「――つまり(他と比べたら)初心者向けダンジョンというわけですね、分かります」
[粉微塵::これは間違いなくエンドコンテンツ]
[リボン::初心者とは]
[天井裏::一般プレイヤーには遠い道のりだな]
「お! スライムなのだぞ?」
「あれは雑食スライムなのです。あらゆる物質に加えて魔術も食べる厄介な魔物なのですよ。コアのようなものが無いのも面倒なのです」
[25時間睡眠::ひえっ!?]
[スクープ::どうやって倒すんや?]
[単芝::見た目はかわいいのに……]
一般的な、というか地上にいるスライムは魔法で消し飛ばしたり核を破壊することで倒せるのだが……これ、どうやって倒すのだろうか。
スライムとにらめっこする私とウイスタリアさんをよそに、ネルバさんはアディさんに目配せをした。アディさんは頷いてスライムに手をかざす。
「といってもサイズによって魔力を貯める上限はあるからこうやって魔力を当てれば――」
【魔力操作】のようなスキルを持っているのかスライムに魔力を注いでいる。少しすると解説通りスライムは勢いよく破裂した。
そんな感じで他の班が防戦一方になるくらい速い疾風ウルフを私が初見で見切ったり、手練のタンクの冒険者でも吹き飛ばされる腕力と物理攻撃を通さない外皮を持つ粉砕オーガをウイスタリアさんが素手で顔面ミンチにしたりしつつ、順調に第7階層まで足を進めた。
「妙ですね……」
「どうしたのだ?」
「?」
「……」
ウイスタリアさんもネルバさんも気付いていない様子だ。アディさんは何か知っているのか私の言葉を待っている。
「ここまでの全ての階層にはそこに出てきたモンスターが集団になったり強化個体が出るボス部屋がありましたけど、ここだけ無いのは明らかに不自然では?」
そう、私たちの目の前には次の階層へ行く階段がある。しかし今まであった要素が無いのは明らかにおかしい。この階層以降ボス戦はなかったり、シンプルにダンジョン側の理由で無い可能性もあるが、通路から一直線でこの階段まで辿り着けるようになっているのには違和感が残る。
「あーたんは何か知ってるのです? やっぱり賢者様関連なのですか?」
ネルバさんがどういう訳かアディさんに尋ねた。物知り顔ではあったが、ネルバさんがその表情の機微に気付いたとは思えないのでアディさんが賢者オタクとかそういうのなのだろうか。
アディさんは少し思案し、なぜか私とウイスタリアを一瞥してからため息まじりに横道に進んでいく。私たちは何があるのかワクワクしながら彼女の後ろをついていった。
うねうねと横道を歩いていると、アディさんは足元の罠っぽいスイッチを踏んだ。カチッという音がしたのを確認し、彼女は壁の
「隠し部屋ってやつですか」
「おー! 通れるのか!」
「こんな場所があるのですか」
[芋けんぴ::これはロマンやな]
[あ::宝箱はあるかー?]
[BBQ::絶対気付けないタイプの隠し方だな]
[昼夜逆転ニキ::モンスターハウスとかではないよね?]
[わん::実績解除のポップアップが出てきそうな発見難易度では?]
部屋の中にはいかにもな魔方陣が床に刻まれているだけで他には何も無い。
アディさんが立ち止まり、こちらに振り返って人差し指を立てながら注意喚起するように口を開いた。
「――ここみたいに、賢者様がお作りになられたダンジョンには賢者の塔に近いダンジョン、深淵迷宮への直通の迷宮間転移装置がある。これは賢者様の配下が招集に応じる際や逆に緊急時の避難経路として用意されているの」
「よくご存知でしたね。意外と一般常識だったりします?」
驚いている様子のアディさんに代わり私の疑問に答えたのはネルバさんだった。
「みーたんは知らないのです? あーたんは次期〘ツィファー〙候補である下部組織〘キンダー〙の一員なのですよ?」
何それ初耳。
賢仕学の授業しっかり聞いていれば知れていたかもしれないし、今度からちゃんと聞こうかな。
しかしそうなるとアディさんとは決戦の時に敵対することになるのか。いや、ここの住民全員が敵みたいなところではあるかはもともとだけど。
向こうからしたらこんなに仲良さげに絡んでおいて裏切る最低なやつになりそうだ。心が痛い……。
こちら側についてくれないかもうちょっと仲良くなってから持ちかけてみるのもアリかもしれない。下部組織なら〘ツィファー〙の正確な情報が聞けるし。
「すごいですね! アディパイセンって呼びましょうか?」
「やめて! すごい気色悪いから!」
「――あれ、うーぽん何やっているのです?」
私がボケていると、ネルバさんがうーぽんことウイスタリアさんの行動を不思議そうに見ていた。
なぜならうちの自由奔放な竜姫は――――
「え? なんかボタンがあるな、って……」
「ウイスタリアさん!? 押しちゃダメですよ!? ぜっったいですからね!」
「フリではないのですよ!? ダメなのですからね!?」
魔方陣の中心にある赤いボタンが押されていた。ん? あれ、もう押されてない?
「そのボタン、静音性がすごいのよ」
いつも通りの死んだ目でアディさんが解説してくれた。つまり知らぬ間にウイスタリアさんがボタンを押してしまったのだろう。
魔方陣が光る。
「まあ即時発動じゃないなら大丈夫ですか。ほら、こっちに避けてくださいねー」
「あ、そういえば魔術に覆われて眠ると心地いいって睡眠学で言ってたのだ」
思い出したかのように上げかけた腰を再度下ろして目を閉じた。
「いや今試すことではないでしょ!? 1度使ったらこっちからはしばらく行けなくなるし、向こうにも7階層しかこの部屋が無い上、深層に転移するから危険なんだけど!!?」
「?」
居座るつもりのウイスタリアさんに流石に焦るアディさん。しかし理路整然とした正論は彼女には通じないぞ。主にIQ的な意味で。
これは無理だと思った私は決死の覚悟で光が最高潮に達した魔方陣に飛び込んだ。
「みーたん!」
「ミドリ! ……ああもう! 先生には伝えるから生き延びるのよ!」
「あいるびーば――――」
「ふぁわ、ねむいの――――」
私とウイスタリアさんは光に呑まれ、気が付くと真っ暗な洞窟らしき場所にいた。ここが深淵迷宮なのだろう。
私もある程度はダンジョン事情は知っているが、ダンジョンには難易度ごとにランクがある。
それこそ先程のダンジョンはEランクで一番下のものだ。序列は上からS、A、B、C、D、Eの順であり、目安としてSはレベル200以上の冒険者パーティーが主戦場にする場所らしい。
そして今いる深淵迷宮と大図書迷宮は別枠としてSSランクに指定されている。なぜならレベル200以上あっても浅層すらしんどいくらいなのだ。
ここで活動しているのは覚悟が決まりすぎた高位の冒険者か息抜きしに来た〘ツィファー〙くらいとの噂。
「さぁて鬼が出るか蛇が出るか、あるいはその両方か」
「眠いけど強いやつがいるなら起きてるのだ」
そうしてくれると助かるよ。
流石に1人おんぶした状態でここを進める自信は無い。アディさんの言葉的に帰る手段はこのダンジョンを攻略するか7階層の隠し部屋を見つけるかなのだが――
私たちの目の前には上に上がる階段と、“B998”と刻まれたものが見える。
地下998階、単純に考えてここは深淵迷宮の998階層なのだろう。これは攻略するほかないのではなかろうか。
「少し進んであまりにも無理そうだったら根気強く上の階層に戻りましょう。SSのここと大図書迷宮は1000階層で終点らしいのでできれば攻略して脱出したいところですが」
「命大事になのだな。任せておけ!」
いや、貴方の一番不得意そうなことですが。
[めーー::大丈夫か?]
[トンボトンビ::プレイヤーじゃないから死ねないもんな]
[階段::がんばれ!]
[味噌煮込みうどん::おっかねぇな]
[天々::死に戻りできたら楽だったんだけどなー]
慎重に進みながら状況を視聴者にも説明するとそんな反応が返ってきた。確かにウイスタリアさんも異界人だったら自害してリスポーンできたんだけど、そもそもウイスタリアさんが現地人じゃなかったらここまでマイペースに行動していないため転移することもなかったはず。
「というか魔物全然いませんね。他に冒険者でもいるのでしょうか」
「眠くなってきたのだ」
寝ちゃだめですよーと、ゆさゆさしていると人の気配を感じた。下手に警戒されないようにわざと足音を立てて近付く。
角を曲がるとこちらを待っていた様子の4人組がいた。1人は黒い外套を着ているが、他の3人はオシャレで強そうな装備に身を包んだ個性豊かな少女達だった。
唯一外套を着た人がフードをとって話しかけてくる。
「よ……って配信してんのか。じゃあ
――ネアさんと並ぶ最強、直近で大会で私に勝ったクロさんがそこにいた。
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