###41 最難関ダンジョンを最強冒険者達とともに

 


「クロさん……どうしてここに?」

「普通にレベル上げだけど? それより、戦い方を見られると異界人にの人間がいたら困るから終えてくれるとたすかるなー」


 遠回しに素を見せたくないから終わらせろとせっついてきた。笑顔で拒否して困らせたい悪戯心も湧くがさすがに最高難易度のダンジョンで無用な揉め事は避けたいのでぐっと堪えてサクッと配信終了する。



「ふう、悪いな。わがまま言って」

「いえいえ。配信に乗ってもいいかの意思は尊重したいので気にしないでください」



 クロさん――黒川こうさんとの関係はそこそこ長い。憧れの人であったれいさんの息子さんであり、りんさんの弟、ほとんど幼なじみといっても相違ない間柄である。


 だからそれが仲睦まじく見えたのか、彼の隣にいた藍色の髪の女性が彼の腕を掴んでこちらを睨んできた。


「あー、こっちはマリー。俺の婚約者……的な?」


 的なとはなんだ。的なとは。

 ネアさんと仲が良さそうだからあっちと結ばれてると思っていたのに……いや待てよ? マリーさんの視線からして配信には気付いている様子はなかった。つまり現地人だ。



「…………なるほど」


 要するに現地妻というやつだろう。このハーレム野郎め! 女の敵!


「おい待て絶対誤解してるだろ。色々ワケありなんだよ。それより全員で自己紹介しよう。それからそっちの事情を聞く、それでいいよな?」


 冗談はこの辺にしておこう。

 私がウイスタリアさんと共に頷くと、クロさんから名乗りを始めた。



「俺はクロ、ここで周回してレベル上げしてる異界人の冒険者だ。登録はしてないから違法の、がつくけどな」

「マリー。〘竜の天敵ドラゴンネメシス〙のリーダーやってるわ。クロに色目使ったら斬るから」



 そう言って背中の大剣を握るマリーさん。

 オーケーオーケーヤンデレのマリーさんね。


「ウチはシンミー! よろしくねー!」

「み、みみ、ミザリーと申します……」


 明るい黄色の髪のシンミーさんと、暗い赤色の髪のミザリーさん。髪の明るさにも性格の明るさが表現されているのは偶然か意図的なものか。


「私はミドリです。異界人の大天使やってます」

「我はウイスタリアなのだ!」


 なんだか竜の天敵とか聞こえたけどビビった様子は見られない。ウイスタリアさんは良い竜だしお姫様だからね。いきなり殺しに来るような相手ではないようだからそこまで心配していないのだろう。


「んで、そっちの目的は?」

「実は――――」



 現在の状況をなるだけ簡単に説明すると、クロさんから一緒に来るかといった提案を持ちかけてくれたので喜んで手を組んだ。



 ◇ ◇ ◇ ◇



 空気が極寒と灼熱を一瞬で行き来して、部屋に乱流が荒れ狂っている。

 ここは最後の1000階層のボス部屋だ。

 ちなみに道中はウイスタリアさんの神力を纏った拳とマリーさんの禍々しい炎を纏った大剣で切り開いてくれたので快適だった。



 しかし、ここは呑気に後方で眺めていられる相手では無いのは部屋に入ってすぐに肌で感じた。

 ボスの見た目は人型の影のような――違う。この違和感、別の何かがいる。


 それぞれ武器を持って身構えていると、影の周囲から5つの頭が繋がった狼が続々と出現している。泉のように湧き出る異形の狼は押し出されるようにしながらこちらに近付いた。その数が優に1000は超えているのは一目瞭然だった。




「召喚系か?」

「本体を倒さないとキリがないタイプでしょうね」


 嬉々として狼を狩りに向かったウイスタリアさんと〘竜の天敵ドラゴンネメシス〙の後ろで、クロさんのつぶやきに私は応じる。対策を講じるために観察しているのだ。


 ゲームでよくある条件を達成しないと終わらない敵だと考えたのは彼も同じようで頷いている。

 ……普通に考えたらさっきの影が本体だろうが、私の勘が違うと囁いている。


「湧くペースが早いな。俺も開闢かいびゃくの神能で――あ、これまずいな」

「どうしました?」


「世界スキルが展開された状況で押し返すために後出しするのってしんどくてな。俺の周囲半径50cmが限界だった」

「……つまりこの部屋はボスの“世界”になっていたと?」



「That's Right!」

「言ってる場合ですか!」


 常時首筋に刃物当てられているようなものなのだ。何が起こるか分からない以上、本体をより早急に討伐する必要がある。

 私は{順応神臓剣フェアイニグン・キャス}の神器解放をして刀身を出して神力を纏わせる。



「これでも世界スキルに関してはプロフェッショナルだからここの効果は解析しておく。10秒はかかると思う」

「了解です。【獲物に朝は訪れないエターナル・ダークネス】」



 私には本体とは思えない本体モドキの影に向けて、視覚ではなく肌感覚を対象とした【無間超域】で射程を極限まで伸ばして斬撃を放った。

 ギラつく光に包まれた私の剣は狼の大群ごと影を斬り裂いた。

 しかし、狼の出現は止まらない。


 ――数秒の間の後、ピチャとどこかで水音がした。



「っ! やばい! さっきの影、封印だ!」


 クロさんが解析し終わったのか焦った様子で叫ぶ。封印系の世界という意味なのか、あるいはあの影そのものが封印だったのか。

 後者の場合、私はなんらかの封印を解除した大戦犯になるわけだが――



「飛べ!」


 直後、床が水になった。

 私とウイスタリアさん、クロさんは何とか【飛翔】で逃れ、〘竜の天敵ドラゴンネメシス〙の3人は空中活動系のスキルが無いようだったのでジャンプしたところに私が【超過負荷オーバードライブ】で足場を用意してフォローした。

 私の短慮が原因だからこれくらいは働きますとも。



「あれは……」


 誰かの口からそんな言葉が漏れた。

 私たちの正面には、水と化した地面から浮上した黒髪の少女がいた。両目を覆う帯が異様さを際立たせている同い年くらいの見た目の子だ。



「流石に厄介そうだな。やるぞ」

「ええ、【憤怒の獄炎】【憤怒の大剣】」

「「【レゾナンス】」」


 クロさんの合図で最初にマリーさんが炎となり彼女の武器の大剣と混ざり合った。続いてシンミーさんとミザリーさんもなんらかのスキルを使って大剣と合体した。

 一回り大きくなった大剣は赤青黄の炎を発しながらクロさんの前に移動した。彼はゆっくりとその柄を握る。



「我も上げてくぞ! 【神格化】【本能覚醒】【称号発露:竜神姫】」




 大人の女性の姿になったウイスタリアさんを見て、思わず「戻して!」と発狂しそうになるのをこらえて私も【不退転の覚悟】を――


「ぴゃっ!?」


 発動しようとしたが突然制服の、というか服の中の胸辺りから黒い不気味な装飾の付いた指輪が飛び出てきた。

 あれは確か現在の方の奈落から冥界に移動する際に介入してきた混沌の神から渡された物だ。

 …………そういえばクロさんに届けるように言われてたんだっけ? ストレージの整理とか面倒であまりやらないからすっかり忘れていた。今度ちゃんと確認しないと。


「クロさん、その指輪あげます! パース!」


「うおっと。これは……へぇ? いい物くれるじゃんか――アッツ!? マリー落ち着け! これは贈り物的な意味ではなく装備品としてのものだから!」



 私が投げた指輪に勘違いしたのか炎と化したマリーさんが憤っているようだ。

 しかしなだめながら彼はそれを指にはめてから呟いた。


「――〖chaotic giants〗、【混沌外装】」


 黒い巨人が5体現れてすぐに彼の鎧となった。

 全身を覆う妙にスラッとしたフォルムは彼の趣味だろうか。


「神能は無いが俺には【混沌魔術】があるからなー。やっとまともな防具が手に入ったー!」

「それは何よりです」

「……ふん、防具など肌で事足りるだろうに」


 大人モードになって冷静かつ傲慢なウイスタリアさんへツッコミたくなる気持ちを抑えて敵に向き直る。

 少女はゆっくりと眼帯を外す――前にクロさんが一瞬で接近して腕を斬り飛ばした。断面が蠢いて再生しようとするが炎がそれを拒む。



 私たちも追撃しようとしたところに、突如何も無いところから波浪が発生してクロさん含めた全員を呑み込んだ。


「らあ!」

「『紅く輝け』【命の灯火ソルス・ノヴァ】!」

「【紅蓮の竜腕】」



 クロさんは大剣の3色の炎で、私は小さくも圧倒的な火で、ウイスタリアさんは腕を燃やして対処する。それぞれの熱量で水害は全て蒸発した。



 そして少女は私に指を向け、はじめて声を発した。




「『すぽっ』」




 ――――え?

 瞬きすらする間もなく景色が変わった。

 周囲には巨大なガラス片が浮かんでいて、そこにはどこかの風景やら人やら動物が映っている。



「ここは一体……?」


 探索しようと動こうとするが、自分の四肢が鎖に縛られ空中で固定されているのに気が付いた。



「ここは厄災庭園パンドラハウス。あてぇいの家――でし」

「でし?」


 庭なのか家なのかよく分からないし口調もクセが強い。

 振り向くと私の背中側には私と同じように鎖で繋がれた人が、自身の髪の毛を操って紅茶を嗜んでいるのが見えた。

 完全にヤベー人です、はい。自分の家で緊縛プレイをしてる変態という線もあるがおそらく危険人物なのだろう。


 見た目的に言えばさっきのダンジョンのボスの少女と同じ……というかこっちが本物であっちが偽物なのだとすぐに分かるくらいのを感じる。



「えーっと貴方は?」


「――あてぇいはパンドラ」



 彼女もこちらに顔を向けてニヤリと笑った。



「はじまりの魔女やら厄災の御使いやら呼ばれてる、厄災神になっただけのただの町娘でし」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る