###39 遊び

 


 何のお肉かも分からないハンバーガーを食べ、昼食を済ませた私たちは3階のファッションのお店――の手前にある美容院にやってきていた。



「じゃーん! どうです?」

「うん、なかなか似合ってるんじゃない?」

「かわいいのです!」


 気分転換ということで私とウイスタリアさんはそれぞれ髪型を変えることにしたのだ。

 私は前髪を切り揃えていい感じの重さにし、横と後ろ髪は肩に乗るくらいの長さにした上で毛先にかけて軽く巻いている。


 公国からつけている花の飾りは流石にそろそろ限界を迎えていたのでストレージに仕舞った。

 これからの戦いにはついてこれまい、ってやつだ。



「ウイスタリアさんは……」


「終わったぞー!」


 どうやらちょうど終わったようで合流できた。ウイスタリアさんの髪型は、ケモ耳のようになお団子を携え、それでもあまりある長い髪を胸の辺りまでに整えてゆるっと巻いている。私のは1巻きくらいだが彼女のは2、3巻きくらいしている。

 もともと長い髪の毛はそこまで手を出されていないようだ。


 髪は女の命とか言うからね、素材の味を活かすのは大事だ。

 ちなみに私は前よりほんの少しだけ長めになっているが、それはシステム側の設定で一旦伸ばしたのである。つまり女の命の創造、とてもすごいこととも言える。


 それはともかく、だ。


「きゃわわ!!」

「似合ってるんじゃない?」

「くまさんみたいなのです!」


 2つのお団子もあって可愛らしい。

 素晴らしい天使っぷりに思わず悶えている私の横で、さっきと全く同じセリフを吐くアディさん。

 いい人なんだろうけどいつも何にでも乗り気じゃない感があるように思える。それも彼女の良さなんだけどね。



「では今度は私服を買い漁りタイムといきましょう!」

「満腹だからなんても付き合うぞー」

「私服なんて白衣しかないので助かるのです!」

「私も私服はあまり持っていないからいくつか見繕おうかしら」


 魔術やらスキルやらであっという間に終わった美容院でのイメチェンも終え、私たちは服を漁っていた。色々とワイワイしながらカゴに入れていき、試着室で見せ合いっこすることに。




「ででん!」



 淡い緑色の透け感のあるトップスを、ベージュのテーパードパンツにインしたナチュラルなコーディネートを披露した。我ながらおしゃである。



「着たけどスースーするのだぞ?」


 次はウイスタリアさん。

 白いシャツの上からパープルのニット生地のものを重ね、明るい色のデニムパンツを履いている。

 中身の野性味とはかけ離れたいいとこのお嬢様感がすごい。しゅき。



「みーたんオススメのやつ着てみたのです!」


 ネルバさんは春を彷彿とさせる薄めのピンクのカーディガンを着て中に白いワンピースを着ている。ここの気候がもう少し温暖だったらワンピースだけで麦わら帽なんかも似合いそうだ。しゅき。



「ちょっと透けてる気がするけどこれはこれでありね」


 アディさんはハイネックのキャミがついた黒いチュールトップスに胸の下から白いミニスカートを履いている。ちょいえちちでしゅき。



 他にも色々なファッションを試着を見せ合いながら、両手が紙袋でいっぱいになるまでオシャレアイテムを買い漁った。



 ◇ ◇ ◇ ◇



「いやー、ホクホクですねー」


 大変満足した私たちはゲーセンのある5階までエスカレーターで上っていた。


 結局最初に試着した服を着ている私たちだが、いくつかアクセサリーは追加していた。私はファッションメガネをして、キーホルダーを付けられるネックレスにマナさんの宝石が埋め込まれた{守護之荊翼アイギス・ネフリティス}をかけている。


 ウイスタリアさんはお団子に差すピンに魔女っぽい帽子がついたものを選んでいる。彼女の親友、エスタさんをイメージしたのだろう。ウイスタリアさんの様子からして賢者や裏切ってここにいるであろう魔女への敵愾心はそこまでないように思えるので、きっと身近に装備したかったのだろう。


 ネルバさんは緑と白の羽根の髪飾りをつけている。


 アディさんは星空を閉じ込めたような宝石がついたイヤリングをつけている。



「あれ? 1階のホールで何かやってますね」

「お、サイレンなのだ」


 催しものをしている様子がエスカレーターから見える。アイドル衣装の知り合いサイレンさんがライブみたいなことをしている。すーごい猫を被っていてツボに入りそうになったが我慢する。

 男の娘アイドルという触れ込みでやっているらしい。人気はあるようで大変盛り上がっているようだ。これは近いうちお茶の間で彼の顔を見られることになりそうである。


 そんな様子を面白そうに身を乗り出して眺めるネルバさんと、欠片も興味の無いアディさんが対照的に私の視界に映る。



 エスカレーターの短い旅も終点に到着すると、目の前に様々な光を発する施設――ゲームセンターがあった。音はしない上、薄い透明な膜が見えるのでおそらく防音の結界を張っているようだ。


「みんなで順番に色々やっていきましょうか」

「まずは定番のクレーンゲームしたいのです!」

「なんでもバッチコイなのだ!」

「そういえばゲームなんてしたことない……」



 グイグイ引っ張ってくれるネルバさんの存在はありがたい。迷うことなく遊べるからね。

 それにしてもこの文明の進み具合でゲームをやったことが無いのか……まあ現実でもそういう人はいるか。こういう筐体きょうたいに関しては私もやったことないし。



「おー! めだまやき中尉なのです!」

「めだまやき?」

「中尉、なのだ?」

「なんかキモいわね」


 目玉焼きが目になってそこから棒人間的な手足が生えているぬいぐるみを指して喜んでいる。私は世代ではないが、あの妖怪が主題の名作に出てくるなんたらオヤジみたいなキャラクターだ。


「キモくないのですよ! キモかわなのです!」

「それ、キモいのには変わりないんじゃないの?」


 ――アディさん、それは言ってはいけないよ。そういうジャンさルの需要もあるんだから。私たち凡人には共感出来ないだけで。


 しかし、ネルバさんが欲しがっているめだまやき中尉とやらの巨大ぬいぐるみはとれるだろうか。結構重量がありそうだが……。


「むずかしいのです!」 

「我に任せるのだ! …………だぁあ!! この機械ヘニャヘニャなのだぞ!」

「ストーップ!」


 即落ち二コマ並の速度で筐体を殴り壊そうとするウイスタリアさんを取り押さえ、私は代わって操作し始める。


「ここです!」



 …………だめでした。アームが弱い上に私もそこまで上手いわけでもないから1ミリも動かせなかった。


「私もやってみていい? ……ここでいいんじゃないの?」



 アディさんが簡単そうに操作すると、アームはちょうどタグに引っかかって持ち上がった。終点に着いても取り出し口に落ちてこないが、これは取れた判定らしく、店員さんにお願いしてぬいぐるみを受け取った。

 ネルバさんもぬいぐるみに抱きついて満足そうでなにより。





 そして日が暮れる頃までゲーセンで遊びまくるのだった。色んなクレーンゲームでアディさんが無双したり、レースゲームでネルバさんが独走したり、エアホッケーで3人対1人でウイスタリアさんが蹂躙したり、私がコインゲームで10枚から5万枚にまで増やしたりしたり。


 帰り道、私は自身のスマホのケースに挟んだプリクラの写真を見て微笑む。


 その写真には、“最強の第四班!!”と書かれている――



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