###38 【AWO】JKによる放課後散歩(上空)【第四班】

 


「――という感じで異界人特有の加護的なやつがあるのでやっていいですかね?」

「我はいつも通りオーケーだぞー」

「私も別に構わないわ」

「ライブ配信の異界人版なのですね。了解なのです!」



 スマホが普及しているからもしかしたらと思ったが案の定話がスムーズに通じた。問題ないということなのでお言葉に甘えて配信を始めた。

 軽く現在地の情報を説明し、現代チックなここ、ショッピングモールで遊ぶことを話した。



「青春の自ま……おすそわけということなので基本コメントは読みません。あしからずー。あ、どうもミドリです」


 最初の挨拶をとばしていたので改めて一礼。

 するとウイスタリアさんが私も背中に飛び乗って顔を出した。


「我こそがウイスタリアである!」


 続けて2人もカメラのある方向を察して簡単に名乗った。


「ソフィア・アディよ」

「ネルバなのです!」


 いや、ネルバさんはファネルバ・リィユっていうかっこいい名前もあるでしょ。わかりやすいからいいんだけどさ。


 


[無子::こんミド〜]

[キオユッチ::新しい子!]

[コラコーラ::女たらしめ]

[天々::クール系と爛漫系、最高か?]

[逆立ちエビフライ::そんな場所あるんか]

[カリカリカリー::制服似合ってる!]

[風船パル〜ん::供給たすかる]


 さて、コメントをこちらから見えないようにしてっと。目の前のショッピングモール全体を表した電光掲示板を眺める。


 学校から近いのもあって学生御用達なここはなんと脅威の8階建て。広さも結構なものなので結構楽しめそうだ。




「まずは昼食ですが……」

「フードコートがおすすめなのです!」

「これか? おー、なんかいっぱいあるのだなー」

「じゃあ転移魔術で移動するわよ。女神ヘカテーよ――」


「ストーップ!」



 アディさんがいきなり魔術を行使しようとしたので止める。ここに暮らしている彼女が魔術を平然と使うことから法律上攻撃的な魔術は街中で使っても問題はないのだろうが、別に急いでいるわけでもないのにそれはナシだ。


 私はアディさんが床にかざした手を握り、ネルバさんの手も握る。背中におんぶしたままのウイスタリアさんと一緒に4人で歩き出す。


「今日はそういうおおちゃくは禁止ですよー! 道中も楽しまなきゃ損ですからね!」

「はぁ、まあそうしたいなら別にいいけど……」



 アディさんは渋々といった様子で私に引っ張られる。そのままの流れで雑貨やら家庭用魔道具(家電的な物らしい)を買ったりしつつ2階までやってきた。


「いやー、ストレージがあって助かりましたよ」


 家庭用魔道具の{家事おまかせ君6号}を衝動買いしてしまい、意外と大きかったのでストレージに入れたのだ。いい買い物ができた。しばらくは夕食は自炊になりそうだ。

 ……とはいえ{家事おまかせ君6号}が料理がやってくれるんだけどね。


 フードコートで四人席を見つけ、ふへぇと一息ついてフードコート内のお店をキョロキョロと見渡す。

 定番のジャンクフードからパスタ、ステーキ……ん? コカトリスの? なんか怖いなー。

 よし、私はハンバーガー屋さんにしよう。ネルバさんもらしく、一緒に列に並ぶ。

 アディさんはパスタ、ウイスタリアさんはステーキを買いに行っている。ウイスタリアさんに関してははじめてのおつかい的なドキドキがある。

 雑談しつつチラチラと心配していると列が進み、注文の番が回ってきたのでネルバさんに先を譲った。彼女をお手本にするために。



「ダブルチーズレタスバーガーのセットで飲み物は――」



 完全に現実の某ハンバーガーチェーン店と同じ感じだ。もしかして創業者がプレイヤーだったりしないだろうか。


「お待たせいたしました! お次でお待ちのお客様――!」


 レジが空いたようなのであらかじめ決めていたメニューを頼みに足を進める。



「この特製バーベキュー風海苔てりたまのセットでお願いします。ポテトはLで、飲み物は迷宮ソーダのMで」



 とりあえず美味しそうな見た目のやつで頼み、番号が表示されるまで横で待つ。



「ネルバさんは野菜も食べてて偉いですねー。ウイスタリアさんも多少は見習ってもらいたいものです」

「えへへ〜」



 レタスメインのバーガーを頼んでいたのを見ていたのでべた褒めしてナデナデする。


「まあ彼女は竜種で肉食寄りなのです。程々に、なのですよ」

「おっと、そういえばそうでした。というか彼女の方がずっと長く生きてるわけですし私が口出しすることでもないかもしれませんね」




 そんな果たして普通の高校生がするとは思えない会話をして時間を潰していると周囲が少し騒がしくなっているのを感じて何かと見渡すと私の横で待っている人が原因なのは明確だった。

 黒と金の全身鎧、完璧に制御された神の気配。今の私にしても【不退転の覚悟】なしでは勝てないと肌で感じる相手。



「わわ!? アインス様なのです!? あ、シーなのです……」

「……ファネルバ・リィユ教授、奇遇だ。そちらはお友達か。ついこの前まで赤ん坊だった君がついにまともな友達と遊んでいるなんて感慨深い」


「もう、子供扱いしないでなのですよ!」



 ネルバさんのお知り合い、それも久しぶりに会った親戚みたいな反応しているから結構深めの関係性みたいだ。


 それにしても、その全身鎧に“アインス1番目”という名前――間違いなくソフィ・アンシル直属である〘ツィファー〙の一員だろう。なんなら白金さんの過去話に出てきた内容からして賢者に次ぐ最高戦力のはず。

 目の前にいるこの人からはそれだけの圧が感じられる。

 私がじっと観察しているとこちらに視線を向けたように見えた。鎧で顔までは見えないから感覚だけどね。



「言うまでもないとは思うが仲良くしてやってほしい」

「もちろんです。私、友達は大事にするタイプなのでご安心あれ」

「なんだか照れるのです……」


 私ほど身内に甘い人間はそうそういないくらいだ。大切な人のためなら世界だってひっくり返す覚悟はできている。



「それにしても素晴らしい。君なら確かに届きうる」

「はい?」


 この様子だと私が賢者ソフィの敵対者であることはバレていそうだ。まぁ、あちらも本気ならさっさと潰しにかかるだろうし見逃されているのだろう。問題無いと判断されて。



「数々の修羅場を超えてきた英傑の風格をしている。武器を見せてはくれないか? こちらも見せる」

「別にいいですけど……」


 ストレージから3号と私の神器を差し出す。

 アインスさんからは腰の剣を受け取った。


 彼女の剣は刀身まで黒く、しかし禍々しさより神々しさが勝っていた。間違いなく神器だろう。



「これは――」


 アインスさんが{順応神臓剣フェアイニグン・キャス}を見て……というよりはそこに付けたマナさんの神器のキーホルダーを見て反応を示している。

 表情が分からないのがむず痒い。

 気になったので何か問題でもあったか尋ねることにした。


「どうかしました?」

「私の中でかろうじて生きている神の記憶が流れてきただけだが……君はこれを使うのか?」


「いえ、その盾はその宝石に封印された私の仲間専用です」

「いや違う、専用ではない」


 剣を私に返しながら、彼女は告げた。



「――もともと神盾アイギスはその中にいる魔神ではなく、私の神格である戦神アテナのものなのだから」



 …………そのアテナさんがマナさんに与えたものだとして、まるで私にも使えるとでも言うのか。

 今度試した方がいいのだろうが、少しだけこわい部分もある。もし使えなかったら――私はマナさんに拒まれたと数日は寝込む自信があるからだ。

 ここでの数日は貴重な時間だ。メンタルが落ち込んでいる中決戦に挑むのもしんどい。


 ――うん。マナさんを解放できれば問題無いのだから、神盾アイギスはあてにしないスタンスでやり抜けばいい。それがいい。




「46番のお客様ー!」

「あ、呼ばれたのです」


「47番でお待ちのお客様〜」

「おっと、私もです」


 ネルバさんと揃っていそいそと受け取り、アインスさんと別れる。


「では、なのです!」

「私たちはこの辺で失礼します。あ、そういえば貴方もここで食べていくんですか?」



 どうせなら色々と話が聞ければと思ったが、彼女は首を横に振った。鎧のせいで金属の擦れる音がすごい。



「私はソフィ様の昼食を買いに来ただけだから違う。ではまた、を楽しみにしているよ。戦闘大好きな私の神格も、私自身も」



 一応敵同士だからあまり深掘りはさせてくれないか。テイクアウトだったらしい彼女を残し、私たちは席に戻った。



「……というかソ、賢者さんがお昼ご飯にジャンクフードとは意外ですね」

「そもそも食文化をはじめとした文化全般は賢者様が編み出したものなのです。ちなみにあのお店も賢者様が創設者なのですよ」


 なるへそ。道理で現実に近い文化体系なわけだ。賢者さんことソフィ・アンシルは人神のクーロさんと旅をともにしていた。それは私も大天使への試練で過去に行ったから知っている。

 おそらくαテスター兼調整役としてやってきた異界人プレイヤーである彼から現実の方の情報を教わったのだろう。

 中世っぽい世界観で現実のような便利なものや美味しいものを堪能したらそれを広めない手は無い。私でも同じことをするはずだ。



「今この瞬間だけは賢者さんに感謝しましょう」

「……まるで常は恨みがあるような言い方なのです?」



 ボソッと漏れた言葉に突っかかりを覚えた様子のネルバさん。適当に言い訳をしようと思っていたが、目の前の彼女はそこまで気にしていない様子で「よっこいしょーなのです」と席に座った。

 賢者崇拝のこの国の人にしては寛容だ。人柄という考えもあるだろうが……興味無いといった思考ではなく知っていそうな表情だ。


 昨日今日の間柄だが何故か彼女の感情は伝わってくる。



「……ネルバさんは何者なんですか」

「――」


 ウエットティッシュで手を拭く彼女がこちらに顔を向け、いつもの笑顔のまま口を開けた。



「みーたんの友達の、ファネルバ・リィユなのですよ!」

「そうですよね――アッツ!?」


 背中からとんでもない熱気が伝わって思わず飛び上がりそうになる。

 後ろには巨大な肉を乗せた大きなフライパンが乗った、現在進行形で炎が出ているコンロのようなものを持ったウイスタリアさんがいた。明らかに調理器具を持ち出しているように見えるんだけどなにごと?


 ネルバさんの嫌な感じがしない違和感はまだ教えてくれないようなので目の前の異様な状況を把握することにした。



「それは一体……」

「もらったのだ!」


 ええ……?

 元気いっぱいにこちらに見せてくる。

 熱いからやめてほしい。


「私が説明するわ」

「アディさん、うちのウイスタリアさんがホントすみません」


「まだ何も言ってないけどその通りよ。ステーキ屋で量が足りないと揉めてる彼女が見えて、結構他の客にも迷惑だったみたいだから……交渉してこうなったわ」

「なるほど、ホンットすみませんっ」


 どう交渉したら焼いてる肉丸々貰えるのかはさっぱりだが、尽力してくれたのはよく分かる。死んだ目をしているから――あ、そっちはアディさんのデフォだわ。



 ――とても女子高生の寄り道とは思えないほど濃厚なお昼時を4人で過ごした。

 まだ今日は夕方まで遊ぶけどね。




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