#88 再会の抱擁を交わしましょう



「シャバだあぁー!!」

「さっきから変なことしか言わないね……☆」



「失礼ですね。これでもシャバ関連の歌詞が出てきたのを必死に抑えたんですよ。著作権的に」

「ハイハイそうだね☆」



 いくら現実に近いからといっても、ここはオンライン上。いつ著作権法が厳しくなって、こういう場所での言葉にも気をつけないといけなくなってもいいように、些細なことでも注意して生きていくのが情報社会の生き方というもの!


 頭がおかしいと言われても、私の先見の明がありすぎて他の人がついていけていないだけだから気にしない。



「……すみません。久しぶりにマナさんと会えると思って、なぜか緊張して、それを誤魔化すためか無意識のうちに頭が狂ってます」

「よく分からないけど、君も大変だね……☆」


「そうですね……んッ!」


 遠くに人影が見える。

 しかも、滅多に見ない白い髪の毛。

 間違いない。



「【ダッシュ】!」

「え、ちょ、まだ――」



 何か言いかけているシフさんを無視して、一目散に走り出す。



 まずは何を言おう?

 やっぱり奈落とか冥界の様子とか?

 いや、私の話ばかりしてはウザイ人になってしまう。だとするならば、最初はマナさんが危険な目にあっていないかの確認か。

 それで、サイレンさんともパナセアさんとも……。



「――分かんない! もう抱きついちゃえ〜!」



 頭を悩ませることが多かったので、諦めて肉体言語での対話に方針を変える。少しの気恥しさと、勢いで押しきる気持ちから目をつぶる。

 そしてまぶたの隙間からうっすらと見える、綺麗な白髪に飛び込む。



「お久しぶりでーす!」


「……」



「ぎゎっ!?」



 ひょいっと避けられ、盛大にヘッドスライディングを決めてしまった。


 レベルが低かったら顔面血だらけだった。

 危ない危ない――


「――じゃなくて! なんで避けるんで、す、か……ネアさん、でしたよね?」

「ん」


 遠くからでは気付かなかったが、同じ白髪でもネアさんはショートボブ、マナさんはロング。ちゃんと見て飛び込むべきだった。おかげで相当痛いやつになっている。



「あー、えーと、人違いでした。忘れてください」

「そ」



 以前というか、最初にあったのは帝国だったか。

 狙われていた私を助けて(?)くれた人だ。

 あまりの残虐さにあの時は引いたが、今の私は結構そっち側に寄ってしまっていると思う。


 ハイテンションな私にとっては、相変わらずの無愛想さにすら謎の可愛げを覚える。



「あれ、そちらのお子さんは?」

「……拾った迷子」


「!?」

「…………ついで」



 ほっこりする光景に驚いていると、迷子ちゃんが私を指さして興奮しながら飛び跳ねた。


「天使さん!」

「あ、翼出しっぱなしでした」



 外に出た時の感動から思わず出してしまったのに、戻すのをすっかり忘れていた。



「よいしょ。それで、お二人はどちらへ?」

「……すぐそこ」

「お家、ペルダンにあるの! さっきは鳥だったのに、靴落としちゃったから拾うから、降りてきたの!」



 うん、かわいい。

 深い意味は無いけど幼子はいいね!

 鳥だったというのは、ネアさんのスキルで姿を変えるやつだろう。

 ちゃんと説明できてえらい!


「そうなんですねー」

「……」

「そうなの!」



「ついでってことは何かネアさんもそちらの……ペルダンとやらにご用が? というか、前一緒だったお仲間さんはどちらへ?」

「…………効率……悪いから……知り合いの呼び出し」



 要点だけまとめたのは分かりやすいけど、会話をする気は無いのかな?

 無さそう。


 心の中で即答できる具合の無口さに呆れながら、疑問を口に出す。



「プレイヤーでしたらメッセージで済むのでは?」

「……交換してない」


「あー、あまり仲良くはない人ですか」

「…………ん」



 確かにそういう人だったら自分の足で行かないといけないこともあるかもしれない。大人になると嫌いな人とも仕事とかで付き合わないといけないとか先生も言ってたし、私はこの人を反面教師にして苦手でも連絡は交換しておこう。



「……行く」

「あ、はい。お元気で」



「わーい、お空!」




 大きな鳥のような魔物に変化し、迷子ちゃんを乗せて飛び上がっていく。



「マイペースな人ですね……」

「それ、ブーメランっす」



「どわあぁっ!? ……って、マナさん!」

「お久しぶりっす――ぅ!?」


「マナしゃあああぁんん!」

「ちょ、なんで泣いてるっすか?」



 反射的に抱きしめ、泣いているつもりはないのに、目から涙が止まらない。


「嬉し泣きですうぅううぅ!」

「……なんでっすかね、マナも泣けてきたっす」



 マナさんが泣いている!

 マナさんには、どんなときも笑っていて欲しいのに!


 ここは一発芸でも……。

 持ちネタなんて無いや。どうしよう?

 とりあえずそれっぽく励ますしかないよね。



「それが、恋ってやつですよ」

「そ、そうなんすか!?」


 こぼれる涙を私の手で拭う。私の渾身のイケボに酔いしれているのか、マナさんは驚いた表情をしている。



「マナさんもついに初恋ですか。大人になりましたね……」

「初恋っ!」



 私も何を言ってるのか頭が追いつけてないけど、きっとそのはず。頭すら置いてけぼりにするほどの口の回り具合が間違ったことを告げるはずがない。


 ――よく分からないけどなぜかいい雰囲気の私たちは、このまま山へ芝刈り(意味深)に行って洗濯物を洗いましたとさ。


 めでたしめでたし――




「アホか!」


「キャッ!」

「ニャッ!」


 誰かに頭をチョップされた。

 この鋭く容赦のないツッコミ、


「サイレンさん!」


 相変わらずのおとこの娘っぷり。



「私もいる」


「パナセアさん!」


 白衣が懐かしささえ感じる。

 これが一人暮らしを始めた人にとっての実家のカーテンか。


「GIGI……オヒサシブリデス」


「名無しの機械さん!」


 いつもパナセアさんのストレージにいるロボットさん。連合国では会ってないから結構本当にお久しぶりだ。



〈どらごん〉


「…………まだ生きてたんですか」


〈どらごん!〉

「そっちこそって言ってるっす」


「そうですか。喧嘩したい気持ちは山々なのですが、感動の再会を汚したくないので我慢してあげましょう」



 マナさんにベタベタとまとわりつく植物のどらごん。喧嘩してこそ私たちの関係だと思う。高頻度ですり潰して味噌汁にでも入れてやろうかとは思うが、きっとそれも友情。


 私は同担拒否オタクではないので、そこら辺は寛容なのだ。



〈どらごん〉

「お前がいないから最近は独占できたのにって言ってるっす」


「今日の晩御飯は大根おろしに決定ですね! 【スラッシュ】!」


〈どらごん!〉



 大根おろしはあまり好きではないけどね!




 ◇ ◇ ◇ ◇




 宿。

 結構本気の殺し合いをした私たちは、全員で取り押さえられながら近くの街、ペルダンの宿屋に居た。


 この部屋は私とパナセアさんとマナさんの部屋。

 残りの男性陣は別室でなにやら騒いでいる。


 パナセアさんは忙しいようで、帰ってすぐにログアウトしていったため、私とマナさんの二人っきりだ。


「もう、喧嘩は駄目っすよ」

「私たちなりのコミユニケーションだという言い訳はしてもいいですか?」


「……今日だけはいいっすよ」

「感謝します。まぁ、それは一割未満ですけとね」


「ん?」

「なんでもないです」



 小声は聞こえなかったようで、考えたことが口から出ているほど気が緩みきっているのに注意を払う。



「改めて、おかえりなさいっす」



「……っ!」



 ママァ〜!


 という幼児退行の戯れはまたの機会にやるとして、



「ただいま帰りました」



 ギュッとお互いの存在を確かめ合うように、抱き合った。




























「あ、ご飯かお風呂だったらマナさんでお願いします」

「!?」

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