###58 【未来煌めく私たちの旅路】

 


『「未来」をステータスに反映します』

『「ススムモノ」の未来を反映しました』



 記憶の流入は無い。

 これはきっと私が歩んだ先の力。お楽しみは自分で、というわけなのだろう。特にスキルは増えていないが、力が溢れてくる。



「『友から流れるは我が血飛沫』」


 肩代わりスキルも使っておく。

 これで万が一でもマナさんが傷つくことはなくなったと安心していると、彼女は私の左手を握った。敢えて組みかえて指を交差するようにすると少しビクッとしていてかわいい。


「【全感覚共鳴シンクロ】っす」


 すごい。

 感覚が混ざり合っている。

 まさに一心同体、実質セッ――これ以上はやめておこう。私が右手に剣を、マナさんが左手に盾を持ち、2人で1人状態だけど真面目な局面に違いはない。


 撃ち漏らしの攻撃が私たちに迫るが問題ない。

 そもそも守る必要すらない。

 マナさんの感覚器官が使えるのだ、空間神の神能で転移を繰り返して容易に躱す。


「ちょろちょろとー……【強制付加】転移禁止!」



 突然転移だけできなくなった。

 相変わらず絶え間なく撃ち出される攻撃は、マナの盾と私の空間歪曲による受け流しで捌く。


「『光は集い、闇は巣食い、焔は焚べられる。そこには希望も絶望も無く、目的も未来も見い出せず』」


「『其は守られし力、其は純白の輝き。大切にされるだけでは終われない。今こそ盾を掲げるとき』」


 接敵しつつ武器を掲げた。





「『――数多の救いを切り捨て、終焉を迎える道を歩む』【総てを砕く我が覇道イニグ・ミカエラ】!」


「『――数多の夢想を退け、始原の道へ還る』【純神盾群アイギスロンド】っす!」



 相手の攻撃はここ一帯を埋め尽くす真っ白い盾で防ぎ、柄を回転させて片手で軽く振って攻撃した。しかし別の場所に復活したのでどうやら変わり身の術的なことをされているらしい。

総てを砕く我が覇道イニグ・ミカエラ】の効果が切れる前に振り回すがすべて決定打には至らなかった。



「もう世界も終わるし、こっちも終わらせちゃうねー! 【終わりの破壊嵐ラストエンド】!」



 秒間四、五桁の無詠唱魔術に、時折抜けてくる神能、そして一粒でこの大陸を貫通させる威力の虹色の嵐が私たちを包み込む。

 マナさんが守ってくれたり【変幻自在の神の加護:緋彗】の肩代わり&回復で凌ぐ。

 このままではジリ貧だ。やれることは限られているから――


「やったります! ふぅ……」

「確かにそれならやれそうっすね」



全感覚共有シンクロ】のおかげが故か、分かってくれたようだ。

 私の剣と彼女の盾を重ねる。


 混ぜる。統合の権能をフル活用して混ぜられるだけコネコネするイメージを浮かべる。

 マナさんから手を伝って神力を補充してもらいつつ目を閉じて練る。


 この間の攻撃は仲間が何とかしてくれると私は信じている。何もここにいる人たちだけじゃない。そのためにフェアさんは手を回してくれたのだから。



 《ふん、派手にやっとるのう! 【極紅の太陽】じゃ!》

 太陽が降り、


 《微力ながら――! 【視覚拡張】【凍結の魔眼】!》

 凍結し、


 《ご恩は必ずや! 【限定短縮詠唱】女神ヘカテーよ、闇の渦へ包みたまえ〖ダークネスインビジョン〗!》

 魔王(の娘さん)の闇魔術が呑み込み、


 《まったく、相変わらずすごいことやってるわね。『我が身をくべよ』【紅喰くくう】【間斬りの太刀】!》

 空間を裂く斬撃が飛び、


 《この矢は今回だけ特別に君へ届けよう。【流星矢】!》

 光の矢が貫き、


 《どらごん!》

 世界樹の枝が飛び交い、


 《――!》

 獣の咆哮が飛び、


 《【超遠距離狙撃】なのです!》

 弾丸が放たれ、


「お願い、ミドリ! 【零落の蕾】!」

 蕾が花開いて光が撃ち出され、


「ぶっ飛ばしてやるのだ! 【黒き竜神姫の咆哮】!」

 衝撃を伴う咆哮が響き、


「気張りぃや! 『桜花は満開、春が吹き荒れる』」

 無数の幻の桜が舞い、


「ミドリくんとマナくんが2人居るんだ、激励は不要だろう? 【形態変化】、総攻撃フルアタックモード、【一斉砲火】」

 弾幕が張られ、


「こっちも結構大変だからさっさと終わらせてよ! 女神ヘカテーよ、我が音色に応じ、この歌声を華やかな力と化せ〖サウンドバースト〗!」

 歌声の衝撃波が広がり、



「――負けないで、私の天使ミドリちゃん

 数々の神能が迎え撃つ。



 背負ったもの世界は清廉潔白系美少女天使のやわな肩には重いが、背中を押してくれる仲間の温かい手はそれ以上に力強い。

 だからこそ、立ち止まることなく前へ進める。



『対象のシンクロ率が100%を満たし――超えました』

『条件を満たしました』

『対象2名にシンクロスキルを解放しました』

『シンクロスキル:【神器合体】を獲得しました』



 互いの神器を重ね、体を向かい合わせた状態で同時に目を見開いた。



「「【神器合体】!」」



 光が私たちの武器を包み込み、一振りの剣になった。刀身は白く真っ直ぐで柄の周りには小さな緑色の盾が浮かんでいる。


『合体神器を生成しました』

『{白翠の未来剣}に読み方を決めてください』


 一瞬目を合わせて、こちらに委ねてくる意志を感じたので必死に頭を巡らせていい感じの名前を考えた。


「{白翠の未来剣ファンタズマ・リリィユ}で」



『……登録が完了しました』


 理由は言うまい、照れるから。



『もととなる神器の条件を満たしています』

『神器の経験を基に武器スキルを設定中――』

『【未来煌めく私たちの旅路】に設定されました』

『詠唱が必要です』

『初回の詠唱、読み方が固定化されます』

『より相応しいものほど効果が発揮されるのでご注意ください』


 わざわざ忠告までありがとさん。

 今までの詠唱を踏まえればアドリブでいい感じのやつが出るだろう。マナさんともシンクロしてるらしいし問題は無いはず。合体したものなんだし掛け合わせたりすればいいと思うし。



「いきましょうか」

「そうっすね!」



 同時にそれぞれの詠唱を始めた。



「『光は集い、闇は巣食い、焔は焚べられる。そこには希望も絶望も無く、目的も未来も見い出せず。数多の救いを切り捨て、終焉を迎える道を歩む』」

「『其は守られし力、其は純白の輝き。大切にされるだけでは終われない。今こそ盾を掲げるとき。数多の夢想を退け、始原の道へ還る』」



 世界の終わりの間際、それすら覆す光が宿った。

 その光が私を純白のドレスに、マナさんを翡翠色のドレスに仕立てあげた。

 2人の呼吸が一致する。



「「『――――そんな夢は否定しよう』」」


 共に剣を握る力が強まる。



「「『共に在るため、私たちは歩み続ける』」」



 細かい攻撃も剣の周りに浮かんでいた盾が自動で防いでくれる。



「「『共に在るから、私たちはどこまでも冒険をする』」」


 共に剣を掲げると、ハクサイちゃんの周囲を盾が囲ってそこから放たれた光で身動きを封じた。





「「『――前人未踏の未来あすを、私たちの手に!』」」



 刀身が天を貫いた。

 ゆっくりと、まったく同じ動きで振り下ろす。




「「【未来煌めく私たちの旅路エメラルド・オデッセイ】!!」」





 白と緑の光が世界を飲み込んだ――そして未来あすはやってくる。

 停止された世界が動き出したのだ。







 時が元通りになり、崩壊しかけたクーシルをなんとか直すファユちゃんや、残機制だったのか復活したソフィさんに抱きつくアディさん。

 そして力を使い果たしたのか天から投げ出され落下してくも呑気に談笑している仲間たち。


 ――それを私とマナさんはモニター越しで見ていた。

 あの様子なら外は大丈夫そうだ。ソフィさんに関してもアディさんが諭してくれているようだし、険悪な雰囲気ではないからね。



「……さて、ここは?」

「隔離空間、管理AIの領域っすね」


 気が付くと、私たちは2人だけフェアさんの謎空間に似て非なる場所にいた。

 目の前には崩れかけて満身創痍の幼女、ハクサイちゃんと彼女を強引に立たせようとする眼光の鋭い女性、そして眼鏡を光らせて表情の読めない女性が。



「この度はハクサイが大変なご迷惑をおさけして申し訳ございませんでした」

「ハクサイ、責任はとってもらうぞ」

「うへぇ……サクラ姉のお仕置きとか、じゃ済まないよねー。いいもん別に元から失敗したら消える覚悟でやったしー」



 実際、私たちの攻撃で既に消えかけている。

 確かに今回のは子供のイタズラでは済まされないやらかしではあったが――うん、やはり私の身内には甘い主義が我慢ならない。


「マナさん」

「はーい?」


「ここにいる御三方は管理AI、つまりマナさんの娘というわけですよね?」

「まあそうっすね」


「じゃあ私の義理の娘でもありますし助けられませんかね?」

「……いいんすか?」


「ダメですか?」

「いいっすよ」


 なんだろう、一度シンクロしたからか簡易的なやり取りで意思疎通ができるようになった気がする。会話のテンポがいい。



「でもシステム特効の効果で治し方が分からないんすよね」

「そうですか……ではえーと、娘の皆さんは何か治せる方法あります?」



 私が2人に投げかけると困惑した表情を一瞬浮かべてから首を横に振った。なるほど、では手段は一つだけ。


「ちょっとログアウトしてくるのでしばしお待ちをー」


 急いでログアウトし、ベッドから飛び起きて携帯を手にとった。……ん? 今普通に立ててない?

 下半身不随、治った? よりによって今ですかそうですか。


 ――うん、後でいいや。

 今は一刻を争う事態。バイト先の上司、AWOの開発室室長へ連絡する。



「もしもし私です! ハクサイちゃんを治してください! はい、はい……見てた? じゃあ早く治してくださいよ!」



 しかし、そんなことをしたら筋が通らないからと突っぱねられた。

 どうやら助けてくれる気はないらしい。


「……提案があります。AWOのスタンス的にサービス終了しても世界自体は動かし続ける気ですよね? それならWワールドSシュミレーションSシステムで私の――はい、そういうことです」


 こちらにもメリットのある申し出をしてみると、向こうはありがたいと食いついてきてハクサイちゃんを治すと約束してくれた。システム的にざっくりいってるから1日ほどかかるらしい。



 ――再度ログイン。

 治してくれる旨だけを伝えて、義娘たちと別れて元の世界へ戻った。足元が崩壊していたのでそのままマナさんと落下していく。このまま海にでも一緒にダイブしようかな。


「ねぇマナさん」

「なんすかミドリさん」


「ずっと一緒ですからね」

「?」


「1年後も、10年後も、現実で私が死のうと、もう1人にはしませんから」

「……! もう、マナのこと大好き過ぎなんすからー!」


「これはそう、愛!」

「えへへ……」


 ふざけたりイチャイチャしながら、私たちは一筋の彗星のようにどこまでも落ちていった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る